電子カルテフォーラム「利用の達人」「導入/運用ノウハウ事例発表会」
働き方改革からシステム運用の工夫まで多彩なプログラムで情報共有
─ 600名を超えるユーザーが集結し2日間で14セッションを開催
2020-1-29
参加者や富士通関係者を含めて
活発なディスカッションが行われた。
富士通の電子カルテのユーザー会である電子カルテフォーラム「利用の達人」の「導入/運用ノウハウ事例発表会」(以下,事例発表会)が,2019年10月4日(土),5日(日),ホテルフクラシア晴海(東京都中央区)で開催された。初めての一般施設での開催(これまでは汐留本社や関西システムラボラトリなどの関連施設で開催)となった今回も,ユーザーからの事例発表のほか,ワークショップやシステム展示など多彩なプログラムが行われた。2日間で600名以上が参加した事例発表会の模様をセッションの採録を中心にレポートする。
医療機関の働き方改革などタイムリーな話題を提供
事例発表会は,富士通の電子カルテシステムのユーザーが活用事例や運用の工夫,診療データの利活用などの発表を行うセッション,ワークショップ形式による「看護よろず相談」「電子カルテよろず相談」,DWHやDWH-BIなどの実践的な活用方法を学ぶミニセミナー,eXChartの使い方をレクチャーするワークショップ,富士通および関連会社とパートナー企業によるデモ展示などのプログラムが用意された。今回は,初めて一般施設を会場としての開催となったが,セッション・ワークショップ5会場,展示2会場などを使用して,2日間で延べ251施設619名が参加した。また,YouTubeによる配信(会員限定)も行われ,350人を超える視聴があったことも報告された。
セッションでは,働き方改革関連法の施行で大きな注目を集める【業務改善・働き方改革】が初めて設けられた。そのほか,蓄積された診療データの活用の先進事例を取り上げる【データ利活用】,eXChartやテンプレートを活用した事例を紹介した【入退院支援】,富士通の電子カルテユーザーのための工夫や新機能について情報共有する【レベルアップ機能の導入と活用】【富士通SEが教えるちょっとした工夫】など多彩なプログラムが行われた。また,ワークショップ形式の【看護よろず相談】では,“師長さんの働き方改革”を副題として勤務表作成,看護必要度入力,監査への対応など看護現場の切実な課題をディスカッションして,解決方法を探った。
ランチョンセミナーでは,日本マイクロソフトの西脇資哲氏が,「伝える力を身につけよう! 〜エバンジェリストが伝授する,スマート・コミュニケーション術〜」と題して講演し,すぐに使える“伝わる”プレゼンテーションの極意を解説した。プレゼンテーションのテクニックは,技術が高度で複雑になり,またビッグデータの利活用が可能になりつつある中で,次のステージとして解析結果や成果をいかにわかりやすく伝え,相手を動かすコミュニケーションが重要になっていることを実感させ,来場者は熱心に耳を傾けていた。
ワークショップや企業展示など多彩なプログラムを提供
展示では,『富士通製品デモ展示』として,患者横断診療録ビューア(GRID)が参考出展されたほか,患者向けサービス「HOPE LifeMark-コンシェルジュ」,電子カルテモバイルソリューション「HOPE PocketChart」などが展示された。また,『協賛企業 システム展示』では,プリンタやドキュメントスキャナなど電子カルテシステムの周辺機器を中心に協賛企業8社が展示し,各ブースを回ってスタンプを集めるスタンプラリーなども企画された。
なお,電子カルテフォーラム「利用の達人」は,2019年7月に行われた総会で新しい世話人体制となり,会長に竹田秀氏(竹田健康財団理事長),代表世話人に岸真司氏(名古屋第二赤十字病院)が就任している(会員数は2019年7月現在465施設)。
ユーザー同士の交流による情報やノウハウの共有が,システムだけでなく医療におけるさまざまな課題解決の近道になることを実感させる2日間となった。
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事例発表会のメインプログラムとなるのが,電子カルテの導入や運用のノウハウの共有,日々の診療の中でのさまざまな課題への対応や工夫を,ユーザーが発表・議論するセッションやワークショップだ。多くの発表が行われた中からトピックをPick Upして掲載する。
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セッション【業務改善・働き方改革】は,千葉県済生会習志野病院の兵藤敏美氏と岐阜市民病院の高階利昭氏が座長を務め,5題の発表が行われた。2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され医療機関においてもその対応が急務になっていることから,システムや運用の工夫による業務改善や効率化への取り組みに関する事例を取り上げるセッションとして初めて設けられた。
隈病院の後藤義裕氏は,レセプトチェックを日次業務へ変更と題して,レセプトの点検業務を自動化して残業時間を減らし,労働環境を改善した取り組みを紹介した。同院では,院内残業時間トップ10に7人が入るなど医事課スタッフの残業が問題となっていた。残業理由の一つがレセプト関連業務で,今回はそのうちレセプトの点検の仕方に着目して改善に取り組んだ。同院では,以前からレセプトの医師の病名入力漏れをチェックするツールを院内開発し,医師に入力を促すと同時に医事課でもチェックできるように運用してきた。また,処方オーダをチェックするソフトウェアを導入して,電子カルテの処方オーダ,レセプトのチェックを行ってきた。しかし,レセプトデータの作成が月1回(月次)だったため,医事課でのチェック業務が月初の2日間程度に集中し,ほかの業務へのしわ寄せが生じ,残業せざるを得ない状況が生じていた。電子カルテシステムの更新に当たって,富士通やソフトウェア会社の協力を得て,レセプトデータの作成を日次運用に見直した。夜間にバッチ処理でレセプトデータを作成し,処方や検査の適応症チェック,点検結果データのDWHへの取り込み,医師のチェックツールへの反映などが日次で行えるようになった。これによって,医師による病名チェックが日々行われること,医事課の点検業務についても点検期間を月2回,1回の点検期間が5日間となって業務時間内で終わらせることができるようになった。後藤氏は,業務の自動化が標準搭載されることが,今後の労働環境の改善や人手不足解消に必要だとコメントした。
医療RPA 人間が判断する一歩手前までを準備してくれるロボットくんを発表した東京歯科大学市川総合病院の西河知也氏は,同院で2019年7月から本格的な運用を開始したRPA(Robotic Process Automation)による業務改善の取り組みを紹介した。西河氏は,“定型化(ルール化)された業務はロボットに任せる”というコンセプトで進めている電子カルテでのRPAの適用について概説した。電子カルテの入力には,患者IDの入力,項目の選択(クリック),スクロール,コピー&ペーストなどの作業を繰り返す必要がある。RPAでは,(1) コピー&ペースト,(2) PDF作成,印刷,(3) 画面キャプチャなどを自動化することが可能だ。例えば,前日入院患者リストから入院に必要な書類を人数分作成する作業は,RPAでは当日の始業時間前までに終わらせておくことができ,人間は作成されたデータ(書類)の確認作業からスタートできる。RPA(ロボット)は,システムと人間の間に入る“Digital Labor”であり,業務のある部分を切り出して任せることで,一つひとつは小さな業務でも積み重なることで全体として業務改善が期待できる。西河氏は,自動化はマクロなどのプログラミングでも実現できるが,RPAでは現場のオペレーションをそのまま自動化することでワークフローの可視化が可能であり,それによって“カイゼン”の実感を強く感じられることがメリットで,それが働き方改革につながるだろうと述べた。働き方改革では,タスク・シフティングをいかに進めるかがカギとなるが,単純作業はRPAに任せることで今まで踏み込めなかった領域に業務の幅を広げることが可能になるだろうと西河氏は展望した。
急に改革はできません フィールド・イノベーションでコツコツと~病棟看護業務の効率化~看護記録を中心にを発表した県立広島病院の木山由美氏は,看護業務の改善活動の取り組みと成果を報告した。同院では,院内で最も時間外勤務が長かった病棟で2015年に富士通のフィールド・イノベーション(FI)を取り入れた。FI活動では,看護師など病院スタッフが主体となりFIの担当者(FIer)とともに,課題の抽出と可視化,電子カルテやDWHなどでのデータ分析,業務量調査を行い,それに基づいてデータを可視化し深掘りして解決策を立てるというサイクルを繰り返し回している。課題の可視化では,スタッフのインタビューから,“仕事量が多い”などの仮説を立て,データ分析や業務量調査を行った。その結果から課題を3つに絞り込み,具体的な解決策を決定して実行した。
木山氏は今回,“仕事量が多い”という課題に対する看護記録の解決策を報告した。業務量調査では病棟の時間外業務の多くを看護記録が占めていた。その理由の一つに看護師の入力項目が増え,記録に膨大な時間がかかることがある。そこで煩雑な入力作業をサポートするため,必要な記録をセット化した“セット展開”を採用,これによって入力時間を1/3~1/5に削減した。また,患者から得た情報をその場で入力する“リアルタイム記録”ができていないことも課題だったが,2017年に看護体制を見直し,2人1組で業務を行う体制を導入,さらに業務の進行状況によってパートナーを入れ替える“リシャッフル”を取り入れた。これによってリアルタイム記録率が77%まで増え,休憩時間や研修会参加の時間も取れるようになった。木山氏は,業務改善の効果はすぐに現れるものではなく,病院スタッフが主体的に地道に改善のサイクルを回すことが重要だとまとめた。
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セッション【データ利活用】では,高知医療センターの北村和之氏と春日井市民病院の馬場勇人氏が座長を務めて6題の発表が行われた。セッションの最後には,2020年2月1日の「データ利活用フェスティバル」の開催が告知されるなど,蓄積されたビッグデータを診療現場でどのように生かすかに関心が集まっていることを感じさせた。
必要度入力をやめました!〜基準を満たす患者の割合を下げないための精度管理を発表した福井県立病院の伊藤文氏は,“重症度,医療・看護必要度”(以下,必要度)の精度管理と入力ツールとして電子カルテシステムの“経過表”を活用した事例を紹介した。必要度Ⅰの算定ではHファイル(必要度評価票)の提出が義務づけられているが,同院ではHファイルとEFファイル(医事オーダ)の整合を診療情報管理士が毎日監査することで精度管理を行ってきた。2018年度の改定で新たに設けられた必要度Ⅱでは,EFファイルの自動判定でA・C項目の入力が不要になり,看護師の業務負担の軽減が期待できる。その一方で,心電図モニタ,創傷・褥瘡処置などはオーダなしでも実施でき,医事オーダとの整合管理が課題となった。必要度評価票をそのまま使うことも検討したが,A項目すべてを入力する必要があり負担軽減にならないことから,電子カルテの“経過表”に必要度の項目を追加した。日々のバイタルや食事の記録と同様に入力でき,データはDWH で抽出できる。これによって,経過表で入力された必要度の項目と医事データの整合を毎日監査でき,結果を現場にフィードバックして精度の維持,向上が可能になった。2019年9月から経過表のみの入力としたが,必要度率(必要度Ⅱ)は平均36.5%で,入力時間は1病棟あたり20分程度に短縮され,診療情報管理士の精度管理業務の時間も1日あたり約30分短縮できた。伊藤氏は,普段利用する電子カルテの機能を活用することで,必要度の届出変更後も継続して精度管理が可能なシステムを構築でき,現場の業務改善にもつながったことを紹介した。
テンプレート機能を用いた診療録作成とデータベース構築に関する取り組みを発表した大津赤十字病院の石戸谷哲氏は,泌尿器科で取り組んでいるNCD(National Clinical Database)へのデータ登録を考慮したテンプレートの活用を紹介した。石戸谷氏は,最初に“中間管理職”である泌尿器科部長の立場でデータベース(DB)構築への葛藤について述べ,自施設の実績を示すにはDBが必要だが,診療記録=DBデータとならない現状では,DB化のためにはスタッフの業務負担が増えるというジレンマがあることを説明した。スタッフの業務を増やさず,ミスの原因となる二重入力を避けるためには,フリーなカルテ記載ではなく,データ入力型のカルテ記載が必要だと述べた。NCDは,外科系の症例登録データベースだが,泌尿器科領域でも2018年春からデータ登録がスタートしている。NCDのデータ登録は施設側で大量の項目を入力する必要があるが,泌尿器科ではNCD登録開始をきっかけに,電子カルテのテンプレート機能を利用したカルテ記載をスタートした。データ登録のフローは,医師はテンプレートでカルテ記載し,医療情報課でNCD関連項目のデータを抽出,テンプレート記載内容に準じてNCDに登録を行い,その内容を医師が確認して承認する。同院では,症例数の多い前立腺がん,腎がんなどを対象に11種類のテンプレートを作成,NCDに必要な項目のみならず,臨床研究などに必要な項目も入力できるようにした。テンプレートは,NCDの登録画面と同じ画面展開になるように作成し,医師事務作業補助者の入力を支援する。テンプレート機能の活用で,カルテ記載内容の統一,入力の簡略化,記載と同時のデータベース化などが可能になると石戸谷氏は述べた。
岡山旭東病院の海野博資氏は,テンプレートを用いた大腿骨近部骨折の診療情報収集と活用について発表した。大腿骨近部骨折については,年1回,外部調査へのデータ提出が求められている。しかし,調査項目にDPCの様式1に含まれないものがあり,調査時に対象症例について1件ずつ診療録を確認する必要があり業務の負担となっていた。最小限の負担で調査準備を進めたいと考え,テンプレート機能を利用した情報収集の仕組みを構築した。日々のカルテの量的点検,DPC調査データ(様式1)の入力・確認の流れの中で対応するため,退院時サマリの中に別タブ(退院サマリ2)で入力項目(テンプレート)を作成した。別タブには,大腿骨近部骨折の調査項目で様式1にない骨折日,骨折型,受傷場所,受傷原因などの入力項目を新たに作成した。これによって日々のカルテ確認業務の中で入力でき,調査時の作業時間が数日から2〜3時間に短縮した。また,データ抽出の方法には,DWHからの抽出と“内容一括出力”の2つの方法がある。DWHの抽出データは,別タブのデータが縦持ち(1件ごとに患者ID,更新日,親文書番号を持つ)になり1入院1行に結合し直す必要があるが,退院サマリ一覧から抽出する内容一括出力では,1入院1行で抽出できる。さらに,このデータとDPC患者一覧データを結合することで,基本情報(ID,入退院など),傷病名,手術などの項目と組み合わせてさまざまな角度で分析が可能になる。海野氏は,データの利活用がしやすい環境を構築することで,外部調査のためだけでなく日々の診療内容の分析や検討が可能になると述べた。
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セッション【HumanBridge活用事例】は,長崎川棚医療センターの木村博典氏と,名古屋医療センターの佐藤智太郎氏を座長として,地域医療ネットワークの運用について4題の発表があった。
地域包括ケアシステムにおける市立病院の役割『砂川みまもりんく』の取り組みでは,砂川市立病院の山田基氏が同院を中核として介護情報を含めて構築した地域包括ケアネットワークシステムの運用を紹介した。砂川みまもりんくでは,病院,診療所のほか,行政(市役所,消防署),保健センター,地域包括支援センター,介護事業所,訪問看護ステーション(ST)などが参加し,同院の電子カルテの情報をリアルタイムで参照できる。また,HumanBridgeのメモ機能を利用して介護サービス(訪問看護STの記録),看護師のメモ(褥瘡の写真やコメント),ケアマネジャーのメモなどが登録できるほか,市役所の介護福祉課が“介護保険認定情報等(要介護度や担当事業所名など)”を入力しているのも特徴だ。HumanBridgeの利用状況も参照件数の2/3を介護事業所,行政が占めており,介護側での情報共有のニーズが高いことを紹介した。山田氏は,“顔が見える”だけでなく,ネットワークの構築を通じた協議の中で互いに本当に必要な情報や役割を理解し合う“腹の(中の)見える”連携が必要だとまとめた。
ICTを活用した地域包括型フットケアに対する当院の取り組みを発表した順天堂大学医学部附属練馬病院の田村浩氏は,足の“心筋梗塞”といわれる重症下肢虚血(CLI,CLTI)に対する「HumanBridge在宅ケアオプション」を活用したケアの有効性を報告した。CLIは,受診までに時間がかかるほど重症化すること,低リスクでも治癒までに平均3か月かかり,さらに糖尿病や心疾患など重篤な疾患を持つ患者が多く,退院後の適切なケアが患者QOLのカギを握る。田村氏は,病院だけでなく日常の健康状態の把握や退院後の治療やケアが重要であるとして,同院で立ち上げた地域と連携したフットケアチームの診療内容を紹介した。HumanBridgeの在宅ケアオプションを使ったメッセージや画像による訪問看護師との情報共有や遠隔診療によって,創傷治癒までの期間が短縮した。田村氏は,今後,CLIのリスクを持つ高齢者が増加する一方で,病院の医療資源は限られることから,地域を含めたICTの活用が期待されると述べた。
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セッション【医師事務作業補助者の役割と導入効果】は,八尾市立病院の小枝伸行氏,山口県立総合医療センターの中元裕美氏を座長として,各施設での医師事務作業補助者の業務や導入効果,医師へのアンケート調査の結果などについて,5題の発表が行われた。
医師事務作業補助者ができる「患者サービス向上」への取り組み〜診断書作成支援業務をとおしてを発表した大津赤十字病院の草木原美希氏は,同院の診断書作成業務の改善への取り組みについて紹介した。同院では,診断書作成において下書き時の記入漏れや誤りによる再確認の繰り返しで完成まで時間を要すること,また,担当者ごとに所要時間やカルテ参照方法に差異がある点などが課題として抽出された。そこで業務フローの見直しにより,下書きのダブルチェックや繁忙期の担当制などを導入,下書きの正確性を高めたほか,カルテ参照に必要なカテゴリを「日付ツリー」で登録し,参照方法を簡易化・統一化した。また,医師へのヒアリング内容を基に診断書作成マニュアルを改訂し,記載方法の標準化を図った。その結果,作成依頼件数の増加にもかかわらず,提供までの所要日数に変化はなく,作成時間の短縮が認められた。また,記入不備に対する追記や訂正依頼の件数は増加しておらず,質の高い診断書作成が可能になったことを報告した。
長崎医療センターにおける医師事務作業補助者の業務では,同センターの株元和香子氏が,医師事務作業補助に関する医師向けのアンケート調査の結果について紹介した。同センターでは,28名の医師事務作業補助者が,ドクターズクラーク室や外来,病棟などで,主に診断書や退院サマリなどの作成補助,診療記録への代行入力などを行っている。医師へのアンケート調査では,医師事務作業補助者の業務の中で,診療予約の取得・変更やカルテ記載の代行入力などが有用で,外来での診療業務の効率化や診察待ち時間の短縮につながっているとの評価が得られた。また,今後望まれる業務として外来診療補助業務の拡大が挙げられた。さらに約9割の医師が診療情報提供書の事前入力を利用してカルテ記載を行っており,時間短縮に有用と回答した。株元氏は,アンケート調査結果の共有は業務へのモチベーションの維持,向上効果があり,定期的な客観的評価を含めた業務体制の構築が,今後の課題であるとまとめた。
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【看護よろず相談】は,岡崎市民病院の中元雅江氏と三宿病院の宮元亜希子氏が座長を務め,事前アンケートの結果を基に3テーマ6グループに分かれて,富士通の開発者も参加してワークショップが行われた。
勤務表グループ:どうにかしてよ! 勤務表作成! をテーマに意見交換したグループでは,アンケートでナーススケジューラーなどの自動作成機能を使用している施設がわずか12%と低い結果になったことを踏まえて話し合いを行った。参加者は,それぞれの悩みを共有しながら,師長たちの暗黙知を機能に反映することの難しさを再認識するとともに,使わなければレベルアップにつながらないことから,積極的にシステムを活用していこうという思いを共有した。
看護必要度グループ:どうする? どうなる? 看護必要度! は3グループに分かれてワークショップを行った。看護必要度ⅠとⅡのメリット・デメリットや入力精度向上の工夫,監査や研修,困っていることなど,多くの話題が話し合われた。監査については,チェックに時間がかかり時間外になることもあるため,時間内に終えられるような監査基準の整備の重要性が指摘された。B項目の精度向上には,アセスメント付き定型文を作成することで,時間短縮と精度向上を両立できるとの意見が出された。また,看護必要度Ⅱの施設から必要度の日々の推移が見られない点をデメリットに感じているとの意見が出たことに対し,富士通からは,医事課の協力を得られれば週単位などでデータを出せるといった情報提供が行われた。
管理日誌グループ:監査に耐えうる管理日誌は,2グループでワークショップが行われた。管理日誌での管理項目は,応援勤務や会議管理,ラウンドチェックなど多岐にわたるが,各施設から管理日誌に取り込むための工夫が紹介された。応援勤務については,応援部分の時間や応援者の職種の記載,応援元と応援先の記入への対応などが,富士通に要望された。また,今後,機能変更を行うに当たっては,HOPE EGMAIN-GXユーザーも多いことから配慮してほしいとの要望も出された。
ワークショップはテーマを絞ったものながら,80分間では足りないほどに各グループの意見交換は熱気を帯びた。このワークショップで生まれたつながりが,今後へとつながっていくことが期待される。
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セッション【医療安全】では,福井県立病院の服部昌和氏と三宿病院の宮元亜希子氏が座長を務めて,医療安全の取り組みについて5題の発表が行われた。
『右上肢血圧測定禁止』,どうやって共有してますか? を発表した川崎市立川崎病院の楢林敦氏は,HOPE EGMAIN-GXの新機能を使った禁忌情報の共有の仕組みを紹介した。採血や点滴などの処置ができない“禁忌肢”のある患者については,病棟ではベッドサイドに注意の札をかけるなどの対策を行っているが,見逃してインシデントとなるケースもある。システム的にも禁忌肢の周知は長年の課題だったが,同院では2019年6月のレベルアップパックで提供された“その他アレルギーの参照改善”の機能を利用して対策を行った。同機能は,処置の実施詳細のウインドウに並んで表示される画面で,アルコールや金属などのアレルギー情報を表示できる。これを禁忌肢のアラートに転用し,行為実施時に注意喚起の効果を高める仕組みを構築した。プロファイル画面で表示背景色を山吹色に変更して視認性を高めた。また,注射実施画面ではアイコン表示と操作ナビ欄にアラートも表示できる。楢林氏は,今後,各種帳票やワークシート,テンプレートにもアラートが表示できるように,さらなる機能の向上を期待した。
旭川赤十字病院の前田章子氏は,注射・点滴PDA認証してますか?─PDA認証実態調査から活用推進を発表した。同院では,PDA認証を注射,点滴,血液製剤の実施入力,検体検査(採血)の患者確認で利用している。安全な注射・点滴実施を進めるためPDA認証の実態調査を行い,その調査結果を報告した。対象は入院12部署で,期間は2018年4月からの1年間,内容はアクシデントやPDA認証などの実施件数の集計,アンケート調査などで実態を把握した。2018年度のアクシデント・インシデントは1846件で,そのうち薬剤関連は3割(571件)を占めた。一般病床におけるPDA認証の実施率は平均83.1%,未認証が16.9%。看護師へのアンケート(配布数373名,回収率98.9%)では,PDA認証していないと答えた看護師が30名おり,理由としてバーコードラベルがない,電波不良,やっと眠った患者を起こしたくないなどが挙げられた。前田氏は,今後のPDA認証の推進のために,電波状況の改善やバーコードラベルの発行運用の見直し,不眠患者への対応などを進めていくことが必要だと述べた。
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【クリニカルパスよろず相談〜事例から学ぶ成功へのヒント〜】のセッションは,最初に若草第一病院の今田光一氏(クリニカルパス学会理事)が基調講演を行い,続いて三宿病院,春日井市民病院,岡山旭東病院のクリニカルパス(CP)の“悩み”に今田氏がコメントするスタイルで行われた。座長は,岡崎市民病院の中元雅江氏と岐阜市民病院の長屋崇氏が務めた。
今田氏は,CPの基本とCPを適用した医療の原則を改めておさらいし,その上で電子カルテのパス機能(電子パス)を運用する上での注意点,バリアンス分析などCPの改善への取り組み方,「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版」下でのCPの適正な代行入力の方法,HOPE EGMAIN-GXのCP機能の攻略法など,多岐にわたって紹介した。
CPは,目標設定(アウトカム)に向かって,標準化された医療ケア内容を適切に提供するための診療計画であり,アウトカムを指標として標準からの偏位(バリアンス)を常に比較しながら医療の質を改善する手法である。今田氏は,電子カルテのパス機能の使用や連携パスに参画すれば,パス実施病院になるわけではなく,適用基準やアウトカムを設定し,多職種で使用していること,ガイドラインなどの標準プランを導入して医療ケアを進めること,院内でCPの適正な仕様の検討,分析,改善のサイクルが回されることで,初めてCP医療を行っていると言えるとした。その上で,HOPE EGMAIN-GXに搭載されているBOM(ベーシックアウトカムマスター)の活用法や,バリアンス登録の使用法などを解説した。電子パスはベンダー各社で用語に相違もあり,パスファイルの互換性もないが,AMEDのCP標準データモデルの開発の事業が進められていることも紹介した。
また,CPの代行入力は,医師の指示が含まれるパス適用ボタンを医師事務作業補助者(クラーク)が押してもよいかという議論があるが,タスク・シフティングの中でクラークによる適用も可との流れになっている。ただし,ガイドライン第5版では代行入力の規定が定められており,それに準拠することが必要だとした。
患者中心のチーム医療といっても,患者を中心に各専門職種が1対1で対応しているのが現状だが,共通目的(アウトカム)を共有することで専門職が横につながり,真の患者中心の医療を提供できるようにするのがCPだと今田氏は強調した。
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セッション【診療情報管理・監査】では,山口県立総合医療センターの來島裕太氏と順天堂大学医学部附属練馬病院の森田真知子氏を座長に,電子カルテシステムを活用した診療情報管理や監査対応について,5名の診療情報管理士が発表した。
浜の町病院の重松千恵氏は,病院機能評価に向けての診療記録監査を発表した。同院では年に2回,診療録委員会による診療録の質的監査を行っており,抽出した症例について電子カルテを確認し,21項目のチェックリストを用いて監査している。同院では今回,病院機能評価の受審に向けて監査内容の見直しを行い,多職種カンファレンス記録を項目に追加することになったが,記録にバラツキがあることが判明したことから,電子カルテに記録のテンプレートを作成した。テンプレートは,カンファレンス名,出席者(医師,看護師,その他の医療従事者の欄を作成),カンファレンス内容の3項目のシンプルなものとした。さらに,監査で記録を見つけやすいように,テンプレートに付箋を付ける運用とした。重松氏は,記録における情報共有の重要性を述べた上で,今後はキャンサーボードの記録についてもテンプレート化を行い,「誰もが見たい記録を見たいときにすぐに見つけられる」ことをめざして記録の整備に取り組んでいくと展望した。
診療情報管理部門における電子カルテのちょっとした工夫を報告した來島氏は,手術記録,カルテ開示,病院機能評価における工夫を紹介した。このうち手術記録については,同院では診療情報管理室がレポート作成一覧で手術室の記録を毎日チェックしており,手術室以外の手術にはナビゲーションマップに表示した同一様式への記載,あるいはプログレスノートで対応している。さらに,部門システムで記載された場合にはチェック時に付箋を付けるなど,現場に即した工夫を行っていることを紹介した。また,カルテ開示については,標準化のために診療記録の開示範囲を決定し,顧問弁護士と相談しながらマニュアルや出力時のチェックリストを作成している。來島氏は,部門システム導入時にカルテ開示を意識しておかないと不備につながることから,常にアンテナを張っておく必要があると述べた。最後に來島氏は,診療情報管理の視点から法的根拠を考慮する重要性を指摘し,今後も診療情報管理士が電子カルテに積極的にかかわることが必要であると締めくくった。
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