電子カルテフォーラム「利用の達人」& 地域医療ネットワーク研究会合同企画
「導入/運用ノウハウ事例発表会」2018 Report
電子カルテや地域医療連携のユーザーが集まり運用や構築のノウハウを共有
─ 全国から約400名が参加しシステムのレベルアップに向け情報交換
2018-12-27
富士通の電子カルテのユーザー会である電子カルテフォーラム「利用の達人」と,地域医療連携ネットワークを利用する医療機関の集まりである「地域医療ネットワーク研究会」の合同企画である「導入/運用ノウハウ事例発表会」(以下,事例発表会)が,2018年9月29日(土)に富士通関西システムラボラトリ(大阪市中央区)で開催された。今回は台風の影響で1日のみの開催となったが,ユーザーからの事例発表のほか,ワークショップやシステム展示など多彩なプログラムが行われた。台風が近づく中で多くの参加者を集めたイベントの模様をレポートする。
データの利活用や働き方改革などをテーマにディスカッション
事例発表会では,ユーザーがシステム活用の工夫や運用事例の発表を行うセッションを中心に,グループディスカッション形式の「電子カルテよろず相談」,実践的なシステムの活用法をレクチャーするミニセミナー,富士通関連会社とパートナー企業によるデモ展示などが行われた。主なセッションは,東京会場(汐留シティセンター)のほか,全国4か所のサテライト会場にも中継され,168施設396名が参加した。
2日間の日程で開催予定だった事例発表会は,台風24号の接近に伴い,関西地方中心に交通機関の計画運休なども予定されたことから,2日目はキャンセルとなり29日のみの開催となった。
セッションでは,利用の達人の企画として【看護業務でのシステム活用・データ利活用】のほか,【2018年診療報酬改定の対応事例報告】【システム部門の人材育成・職員教育】などが,地域医療ネットワーク研究会の企画として,【地域との関わり】が行われた。
電子カルテよろず相談では,電子カルテの“達人”2名(川崎市立川崎病院・楢林 敦氏,名古屋第二赤十字病院・岸 真司氏)がシステムに関する悩みに答えた。また,ミニセミナー「HumanBridgeの“技”ご紹介します〜参照アクセスログ活用による導入効果の可視化」では,ハンズオン形式でレクチャーが行われた。
ランチョンセミナーでは,日本マイクロソフトの澤 円氏が,「我々はどうやってAIと付き合えばいいのか? AI技術最前線」と題して講演し,「時間と距離という変えられないパラメータを仮想的に解決するのがテクノロジーの役割」と述べて,人工知能(AI)がもたらす未来を解説した。また,特別セッションとして,【We have Dreams〜皆で語る未来の電子カルテ〜】が企画され,ユーザーのほか富士通のエンジニアが登壇して,未来の電子カルテの構想や夢,アイデアをプレゼンテーションした。
そのほか,電子カルテや病院情報システムの“ちょっとした工夫”を紹介するポスター展示では,テンプレートの活用などユーザーによるアイデアを掲示し,来場者からの投票を行ってランキングを発表した。また,システム展示として「eXChart」や「HOPE PocketChart」などの富士通と関連会社によるシステム展示や,協賛10社によるデモ展示コーナーも設けられた。
事例発表会は,単なるユーザー間のノウハウの共有にとどまらず,ベンダーの枠をも越えて医療情報システムの未来を展望するイベントとして進化,発展していることが感じられた。
●電子カルテフォーラム「利用の達人」
パッケージ型電子カルテを利用するユーザー間の導入経験や運用ノウハウの共有を目的に2003年発足。会員数:460施設,2833名(2018年11月現在),会長:河北博文氏(河北総合病院理事長),代表世話人:竹田 秀氏(竹田綜合病院理事長)
●地域医療ネットワーク研究会
保健・医療・福祉のシームレスな連携により,地域における情報共有を実現することを目的として2011年に設立。会員数:288施設,674名(2018年11月現在),会長:牧野憲一氏(旭川赤十字病院院長)
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セッション【看護業務でのシステム活用・データ利活用】では,岡崎市民病院の中元雅江氏,江南厚生病院の片田仁美氏をファシリテータとして5題の発表が行われた。セッションでは,“重症度,医療・看護必要度(看護必要度)”や“労働と看護の質向上のためのデータベース(DiNQL)”といった看護業務の中で求められるシステムや,データ利活用の工夫を各施設が紹介した。
他部門と協力し,蓄積されたデータを活用した看護必要度の精度確認を講演した江南厚生病院の川村洋介氏は,2018年の診療報酬改定で見直された看護必要度の評価基準に対応したシステムの運用について発表した。今回の改定では,急性期・一般入院基本料における看護必要度の評価基準が30%まで引き上げられたほか,認知症やせん妄状態の患者への医療の適切な評価などの見直しが行われた。同院では,看護必要度は各病棟スタッフが入力している。B項目の看護行為にかかわる項目については,評価と根拠を経過表に記録,電子カルテの「看護必要度判定支援機能」を用いて看護必要度と連携させている。看護必要度データは,医療情報室で抽出しデータの集計を行い,集計されたデータは1週間ごとに看護部にフィードバックされる。今回の改定で新たに追加された項目として,“危険行動”のあり・なしの評価があるが,危険行動は“過去1週間以内にあった場合”とされている。川村氏は,DWHに蓄積された経過表のデータから危険行動初日のデータを抽出し,看護必要度のデータと突合して,評価対象日であるにもかかわらず評価が漏れているデータを抽出した。4病棟を対象に1か月間のデータで検証したところ,13.2%に評価漏れがあった。原因としては,(1) 危険行動1週間が評価対象となることを知らない,(2) 発生日が不明確であること,が考えられた。(1)に関してはカンファレンスで再周知を行い,(2)については経過表のコメント欄に発生日と経過日数を入力する運用を開始し,これによって評価漏れは10.6%まで減少した。川村氏は,看護必要度は診療報酬の改定ごとに見直されることから,その変更に柔軟に対応しスタッフに負荷のかからない方法で適切・確実に評価できるように病院全体で考えたいとまとめた。
病床管理システム「空床見える化」活用事例では,武蔵野赤十字病院の柴 知子氏が新たに導入した「空床見える化システム」の運用事例について発表した。586床の同院は,年間の救急車受け入れ台数が1万台以上,病床稼働率92.3%,平均在院日数は10.2日であり,2017年の月平均入院数は1605.4件で,そのうちほぼ半数が緊急入院となっている。同院では,平日朝9時の看護師長ミーティングで,緊急入院を含めた病床管理を行っていたが,緊急入院の増加で,病棟看護師長の頭の中のシミュレーションだけでは病床全体の状況が把握できない状態になっていた。そこで,病床稼働率93%以上の目標をクリアすることをめざして,他院で導入によって稼働率がアップしたとの評判があった空床見える化システムの導入に踏み切った。空床見える化システムでは,各病棟のベッド使用状況と今後の予定が一目で把握できるようになり,入院や転入のシミュレーションや空床検索機能で他病棟の空床も含めて“見える化”することが可能になった。柴氏は,これによって予定入院や転入の病床をシミュレーションして無駄のない病床管理が可能になり,病棟看護師長が自分の病棟の現状と入退院の予定などを整理して把握することができオープンな病床管理が可能になったと評価した。また,従来は入院患者のDPC期間が不明確だったが,システムでは一目で把握できるようになり,医師と情報を共有して退院調整が行いやすくなった利点もあると述べた。
ナーススケジューラの様式9と作成ツールを用いての看護配置数調整では,福井県立病院の井上和也氏が,“入院基本料の施設基準等に係る届出書添付書類(様式9)”に必要となる1日平均入院患者数について,Accessを用いて自動化した取り組みについて発表した。ナーススケジューラは,勤務計画表の作成,勤務実績表の入力,様式9の出力などが行える看護師勤務管理支援システムである。様式9の出力は,Excelファイルとして起動し,マクロを使って集計する。その際,集計に必要な病棟ごとの1日平均入院患者数は手入力する必要があり,看護部から自動化の要望が上がっていた。そこで,同院では,病棟患者一覧(病床管理)から入院患者数を確認→Excelシートに入力し1日平均患者数を把握→様式9に手入力という一連の手順を自動化する“病棟別入院患者数検索ツール”をAccessで作成した(作成は情報システム室の山本裕之SEが行った)。このツールによって,時間短縮や転記ミスがなくなっただけでなく,運用病床利用率が容易に把握でき,7対1に満たない,あるいは今後満たなくなる可能性のある病棟が把握できるようになった。井上氏は,それによって安定した看護サービスの提供やスタッフのやりくりなどの判断材料になっていることを報告した。
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セッション【働き方改革とチーム医療】では,岡崎市民病院の中元雅江氏,福井県立病院の服部昌和氏をファシリテータとして5題の発表が行われた。医療機関においても働き方改革が求められる中で,勤務環境の改善やチーム医療の推進にシステムを活用した事例を中心に取り組みを紹介した。
医師事務作業補助者の役割と導入効果を発表した山口県立総合医療センターの中元裕美氏は,医師事務作業補助者の院内における役割,それに伴うシステムの運用などを紹介した。同センターでは,40名の医師事務作業補助者(ドクターズクラークと呼称)が28の診療科で業務を行っている。医師事務作業補助者が配属された当初(2009年)は医事課の管理下の体制だったが,2012年には医師が業務管理者となり,2014年からは「医師事務支援室」として独立した組織となった。医師事務作業補助者に求められる業務内容は診療科ごとにさまざまだが,共通業務としては“診療記録への代行入力”“文書作成補助”“診療に関するデータ整理”がある。電子カルテへの代行入力では,依頼医を設定しないとオーダの使用ができない設定としたり,診療科ごとのセット登録(術前セット,採血セット,医師別セットなど)を作成しセット展開後,患者の症状に合わせ項目の追加や削除を行うなど,運用の工夫を紹介した。また,医師事務作業補助者の業務範囲が拡大するにつれ,ヒヤリハット事例が発生したことから,輸血や化学療法の新規オーダなど患者に危険性が発生しうるものは入力できないなどの対応を取っている。文書作成補助では,電子カルテの文書作成ツールを利用して医師事務作業補助者が作成した内容を医師が確定後,出力してサインするフローとなっている。また,診療に関するデータ整理は,入退院簿や手術台帳などのデータ入力,デジカメ画像の整理など多様な業務に対応する。中元氏は,医師へのアンケート結果として,現在は医師事務作業補助者が100%活用されていることを示し,医師事務作業補助者が医師の事務的負担軽減だけでなく,患者満足度や病院経営にも貢献できると述べた。
医師時間管理の取り組みについてでは,竹田綜合病院の坂内祐太氏が,医師の働き方改革が国の方針として進められる中で,病院として勤務実態を把握する仕組みとして構築した「医師の勤務時間管理システム」について発表した。病院における医師の労働時間短縮に向けた取り組みでは,労働時間管理の適正化,36協定などの自己点検が求められている。システムでは,まず,1日の業務内容を,勤務内=賃金支払い対象業務(診察,検査,手術,事務処理,会議,出張など)と,勤務外=賃金支払い対象外業務(医局会,カンファレンス,研究会,休憩,食事など)に分類し,項目ごとに15分1単位で30分間,1時間で登録できる。入力は医師本人のほか医療秘書(医師事務作業補助者)の入力支援も可能とした。また,あらかじめ自分の通常の勤務パターンを登録しておき,これを基本として修正を加えることで容易に登録できるようにした。システムでは,月次集計表の出力やExcelピボットテーブルとデータベースを連携して勤務時間状況を集計し,科別や個人別の傾向を把握できるサポート機能も提供する。2018年8月時点では約半数の医師に対してシステムの説明が終了しており,坂内氏は2018年中に全医師の勤務申請入力を開始し定着させたいとし,その上で36協定を超える勤務状況の場合には通知を出す機能などを追加したいと述べた。
チームで実践する入退院支援を発表した高知医療センターの古田美香氏は,「患者支援センター」において,eXChartワークフローで構築した入退院支援のシステムについて発表した。同センターでは,入院患者に対する安全・安心の医療を提供するため,医師,看護師,薬剤師など多職種が協働し,入院前から退院後を見据えたきめ細かいコーディネートを行う組織として,患者支援センターを2017年に設立した。センターでの業務は,入院受付(入院説明や体調チェックなど),入院支援(患者アセスメント,栄養評価,口腔内評価など),術前支援(持参薬管理,術前説明など)だが,これらの業務の進捗管理や情報入力と共有をスムーズに行うために,eXChartワークフローを活用している。
患者支援センターの介入が必要な患者に対しては,センターで患者の受付,待合(身長・体重の測定),看護師や管理栄養士などによる面談が行われるが,このフローについて進捗と実施状況をeXChartワークフローで管理。各職種の面談結果の記録は,eXChart書式を利用しているが,書式はワークフローの患者リストから右クリックで起動でき,容易かつ確実に記録が行える。面談と記録が終了したかどうかはワークフローの画面上に表示されて進捗を共有できるほか,記載内容も参照可能になっている。eXChartでは,起動時に電子カルテの情報(患者基本情報,紹介元履歴,オーダ内容など)を自動で取得でき,検索や転記の手間を削減し情報共有にも役立つ。また,eXChartワークフローに記録されたデータは,DWHに蓄積されデータの二次利用も可能となっている。古田氏は介入患者数や介入率などのデータを示し,eXChartワークフローによって施設の状況に合わせた柔軟なシステム構築が可能になると述べた。
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セッション【カルテ監査・診療情報管理】は,山口県立総合医療センターの來島裕太氏,名古屋第二赤十字病院の岸 真司氏をファシリテータとして,医療機関の監査や指導に向けた,システムを用いた正確な診療記録や文書作成のためのノウハウなど,5題の発表が行われた。
JCI受審に向けた診療記録監査の取り組みを発表した名古屋第二赤十字病院の鈴木信行氏は,同院が受審したJCI(Joint Commission International,医療施設の国際認証機関)の監査に向けた電子カルテシステムの対応について紹介した。JCIは,“患者安全と医療の質向上”が継続的に組織として取り組まれているかを審査し認証を行うが,審査項目は14領域1199におよぶ。基本的に患者安全をめざした項目が中心で,審査のポイントは診療プロセス全体で診療記録が適切に漏れなく記載されているかをチェックする。同院では,JCI審査に向けた院内審査のために,診療記録監査管理システムを構築し,監査者によるカルテのチェックをイントラネットで行えるようにした。具体的には,テンプレート(鎮静前,疼痛スクリーニングなど)や付箋機能(患者・家族教育など)を利用することで,全体の6割以上の項目で記載率が向上したことを説明した。
特定共同指導における診療情報管理士の関わりでは,來島氏が同センターで行った特定共同指導に向けた診療記録や電子カルテの記載体制の見直しやシステムによる対応を発表した。特定共同指導では,個別指導,施設基準,集団指導,その他(一部負担金の確認や治験など)でチェックされ,互いの整合性も要求される。受け入れのため,経営企画室,医事課,そして來島氏の所属する診療情報管理室などがプロジェクトチームを組んだが,診療情報管理室では正確で漏れのない記録のため,紙文書の監査や電子カルテ記載方法の運用見直しなどを行った。電子カルテの利活用では,指導の際に短時間で効率良くカルテを表示するための付箋機能の利用,肺血栓塞栓予防管理料やICU入室申し込みなどで必要な項目を入力するためのテンプレートの活用などの事例を紹介した。來島氏は,診療記録の質の改善のためには,さまざまな部門との連携が不可欠であり,また電子カルテを活用するためにも,その機能をよく知ることが大切で,利用の達人のような事例発表の場が役に立っているとまとめた。
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地域医療ネットワーク研究会のセッション【地域との関わり】では,静岡県立総合病院の清水史郎氏と別府市医師会の田能村祐一氏をファシリテータとして,HumanBridge EHRソリューションやSNSによる地域連携の事例5題が報告された。
別府市医師会の田能村氏は,SNSを活用した地域との関わりを発表した。2010年の立ち上げから医師会主導で進められてきた「ゆけむり医療ネット」は, 2018年11月のセンターサーバ更新(クラウド化)に先立ち,三師会,基幹病院,行政,公共団体などで構成されるゆけむり医療協議会を設立した。病院の地域医療連携室や市各課の担当者を交えた実行委員会でゆけむり医療ネットの運用と活用について検討を進め,地域包括ケアシステムへの発展をめざしている。田能村氏は,多職種コミュニケーションツールであるSNSの活用について,機能が向上したHumanBridge SNSのファイル共有機能などを活用した運用例を紹介し,業務の効率化や質の高い情報共有が可能になっていると報告した。今後の取り組みとしては,ゆけむり医療ネットのICカードを共通診察券として活用することや,薬や検診・検査結果などを住民に提供するPHR運用を検討しており,田能村氏はヒューマンネットワークの構築・強化を重視しながら,ゆけむり医療ネットの利活用を進めていくと述べた。
南和広域医療企業団南奈良医療センターの澤 信宏氏は,テレビ会議と医療情報共有システムを併用した地域医療ネットワークの取り組みを報告した。過疎化・高齢化が進む南和医療圏(二次医療圏)は,“南和の医療は南和で守る”をスローガンに2016年に医療機関の再編を進め,急性期1病院,療養型2病院が9つの公立僻地診療所と連携して地域医療を提供している。2017年には「ふるさとネットやまと」を設立し,HumanBridgeとテレビ会議システムを導入して,病院と診療所が双方向に連携するシステムを構築した。澤氏は,HumanBridgeの運用事例として,休日・夜間の救急患者の情報参照や,専門医へのコンサルテーション,在宅診療における活用などを紹介した。また,テレビ会議システムは,多地点でのテレビ会議や症例検討,診療所運営支援などに活用されている。澤氏は,双方向連携システムは,安心・安全な医療体制の実現や医師の生涯教育においてメリットが高いと述べ,今後は地域医師会や訪問看護ステーション,保険薬局との連携促進や,テレビ会議システムを用いた診療所での専門医診療,看護師教育での活用などに取り組んでいきたいと展望した。
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