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2024年10月号

がん放射線治療の今を知る! ~最前線の現場から No.10

時間管理が比較的容易な「Radixact Synchrony」による体幹部定位放射線治療

松本 康男 / 捧 俊和(新潟県立がんセンター新潟病院放射線治療科)

肝腫瘍に対するSynchrony-SBRT

当科では,毎年1000~1100例前後の患者を治療しているが,近年まで医師・医学物理士のマンパワーの不足もあり,強度変調放射線治療(IMRT)の導入が遅れた。副作用の低減が期待できるIMRTを多くの患者に提供するには,IMRT専用機の導入が近道であると判断し,新潟県の財務状況が最悪の状況の中,IMRTを得意とするトモセラピーの最新機器「Radixact」(アキュレイ社製)の導入を認めてもらった。
Radixactは,広範囲にわたる病変に対してつなぎ目のない治療が可能で,さらには呼吸性移動のある腫瘍に対して動体追尾照射が可能なシステム「Synchrony」をオプションとして装備できる。このシステムは,照射中並行して取得するX線画像と体表に置いたLED信号から標的移動モデルを構築し,治療中の腫瘍の動きに追随して照射ビームの位置を補正することができる。具体的には,標的となる腫瘍そのものあるいは近傍に挿入した金属マーカーの位置情報を数秒ごとに撮影するX線画像データと,腹部に置かれたLED信号から得られる呼吸周期を相関させることによって,(1) 呼吸位相による標的位置相関モデルを作成し,(2) この相関モデルで標的位置を予測,(3) ビームをjawコリメータとマルチリーフコリメータ(MLC)で補正することで,呼吸移動に合わせた追尾照射を行う。相関モデルは治療中,継続的に更新を繰り返す。X線画像は標的を治療中も常時モニタできるように2〜6か所の撮影角度を設定し,放射線照射中のX線画像の取得が可能で,照射時間も延びることはない。
当院では,1cm以上の動きのある肺腫瘍で,縦隔条件のCT画像でしっかりとした結節として認識できる腫瘍に対して,マーカーレスで体幹部定位放射線治療(SBRT)を行っている。肝臓については,消化器内科医に依頼して肝腫瘍の近傍に金属マーカーを挿入し,それをフィデューシャルマーカーとして動体追尾照射を行っている。肝腫瘍において,過去に行っていた内的標的体積(ITV)法との比較で,Synchronyでの治療の方が周囲正常組織へのダメージは少ないことがわかる(図1,2)。

図1 直腸がん肝転移に対する Synchrony-SBRT症例

図1 直腸がん肝転移に対する Synchrony-SBRT症例

 

図2 肝転移に対するSynchronyとITV法によるSBRTの比較

図2 肝転移に対するSynchronyとITV法によるSBRTの比較
上段は図1の症例で,Synchronyを用いた直腸がん肝転移の症例。下段は肺がん肝転移に対してITV法で行った症例。肝転移自体の大きさはほぼ同じで,上段の直腸がん肝転移の方が線量が高いにもかかわらず,周囲の正常肝の変化は小さい。Synchronyでの治療により,周囲肝組織へのダメージがかなり抑えられているのがわかる。

 

Synchronyの効率性

動体追尾照射の場合,治療計画上での予定照射時間と実照射時間が同じになるのが理想的であるが,実際は患者の呼吸状態や追跡対象の認識精度などの影響で実照射時間が延長する。そこで,当院でSynchronyを用いたSBRT症例を対象に,どの程度効率的に動体追尾照射を実施しているか確認した。
表1に,2023年3月から2024年6月までに当院でSynchrony-SBRTを行った症例の内訳を示す。25症例(すべて4分割照射)の全100プランを今回の解析対象とした。部位の内訳は,肺が14例56プラン,肝が11例44プランであり,年齢中央値はそれぞれ78.5歳,82.5歳であった。肺・肝ともに肉眼的標的体積(GTV)に5mmのマージンを付与し,計画標的体積(PTV)とした。線量処方はD95処方で,肺は44〜48Gy,肝は44〜52Gyで,肺がんの組織型や転移の場合は原発巣に応じて処方線量,最大線量を変えている。肺ではGTVを追跡対象としたモードのLung with Respiratory Modeling,肝では挿入した金属マーカーを追跡対象としたモードのFiducial with Respiratory Modelingを使用した。Synchronyのパラメータとして,相関モデルからのズレの閾値と撮影した画像からのズレの閾値を3mmに設定し,それ以外のパラメータはデフォルトで使用した。また,Plan Reportから予定照射時間と実照射時間を求めた。予定照射時間とはdelivery treatment timeで,実照射時間とは相関モデル作成が完了し,照射が可能になった状態でのbeam on timeである。なお,今回の検討には患者の入退室,セットアップ,相関モデル作成などの時間は含んでいない。
表2に,PTVの照射部位別の体積,球相当径,頭尾長とSynchrony-SBRTの予定照射時間と実照射時間の結果を示す。全体の平均予定照射時間は454.1秒であった。部位別では肺が421.6秒,肝が495.4秒であった。これは肺病巣が肝に比べてPTV体積が小さく,頭尾方向の長さが短いことが要因と思われた。平均実照射時間は全体では644秒,最長で1299秒(約20分)であった。部位別で見ると,肺で651秒,肝で635秒と肝の方が短く,予定照射時間とは逆の結果となった。
また,図3に実照射時間と予定照射時間の比を,図4に肺と肝の実照射時間と予定照射時間の比のヒストグラムと累積確率分布を示す。Synchrony-SBRTでは,実照射時間は予定照射時間よりも平均1.42倍延長した。最大で2倍強の延長を認める症例もあったが,理想的な1倍程度で照射できる症例も多かった。部位で比較すると,肺は平均1.53倍,肝は1.29倍の延長を認め,肝の方が肺より予定照射時間に近い照射が可能であった。延長比率が1.5倍以下の症例割合は,肺で60%程度,肝では90%以上で,肺より肝の方が予定に近い時間で照射できていた。これは,金属マーカーで認識できる肝臓に比べて,肺は腫瘍の形状や大きさ,部位で認識にバラツキがあるためと思われる。

表1 当院でのSynchrony-SBRT症例の内訳(2023年3月〜2024年6月)

表1 当院でのSynchrony-SBRT症例の内訳
(2023年3月〜2024年6月)

 

表2 部位別PTV体積,球相当径,頭尾長とSynchrony-SBRTの予定照射時間と実照射時間

表2 部位別PTV体積,球相当径,頭尾長とSynchrony-SBRTの
予定照射時間と実照射時間

 

図3 実照射時間と予定照射時間の比

図3 実照射時間と予定照射時間の比

 

図4 部位別実照射時間と予定照射時間の比のヒストグラムと累積確率分布

図4 部位別実照射時間と予定照射時間の比のヒストグラムと累積確率分布

 

時間管理の側面から見たSynchronyの優位性

一般的な呼吸同期照射では,使用する位相を20%と設定した場合は5倍,40%と設定した場合でも2.5倍程度,照射時間が延長する。一方,RadixactでのSynchrony-SBRTは1.5倍程度の延長比率で,効率的に照射できていることがわかる。現在行っている自由呼吸下あるいは腹部圧迫によるITV法のSBRTは,多くの場合30分程度で治療ができているが,Synchrony-SBRTも多くの場合,30分程度で治療が完了している。当院の場合,呼吸管理は患者自身に頼っているが,サードパーティ製品を用いた呼吸管理を行えば,さらに効率的にSynchrony-SBRTが行える可能性はある。
最近,Radixactには体表面画像誘導放射線治療(SGRT)のオプションも用意された。Synchronyの呼吸管理とSGRTとの組み合わせが可能になれば,よりスムーズな治療が可能になるものと思われ,今後に期待している。

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