CTやMRIに代表される画像診断のデジタル化は急速に進み,いまやこの世界は大きな変貌を遂げています。なかでも,診断画像の基本であるX線検査のデジタル化は,重要な意味を持っています。フラットパネルディテクタ(FPD)が開発され,一般撮影をはじめマンモグラフィや血管撮影などさまざまな用途のX線システムが普及してきたことが,デジタル化への変革を決定づけたと言えます。
GEヘルスケア は1980年代半ばからFPDの開発に着手し,1999年に世界初のFPD搭載X線撮影装置を稼働させたパイオニアです。GEの製品群は現在までに,世界中で15000台が導入され,臨床で使用されています。
今回は,GEヘルスケアのFPD開発責任者であるトーマス・P・フェイスト氏に,20年に及ぶ歴史を背景に,GEにおけるFPD開発のコンセプトや新しく期待される技術や特徴,今後の方向性などについてお話しをお聞きしました。
●まず始めに,GEのFPD開発の歴史についてお聞かせください。
GEは1980年代半ばからFPDの開発に着手し,1999年に世界で初めてデジタルの胸部X線撮影装置を発表しました。以後,2000年に初めてのデジタルマンモグラフィ装置「Senographe 2000D」や血管撮影装置「INNOVA 2000」を発売。INNOVAシリーズは2006年にかけて,用途に応じて多くの種類を販売してきました。さらに2005年には,汎用一般X線撮影装置「Definium 8000」を,2008年には新しい画質改善技術「Fine View」を搭載したマンモグラフィ装置「Senographe DS LaVerite / Depister」を発表しています。
今日までに$200million(約200億円)の開発費をかけ,15000台のパネルを出荷しています。そのうち現在でも95%が実際に稼働していることから,非常に高い技術力で信頼性が高く,耐久性,安定性があることが証明されていると思います。
●GEは,研究開発から製造までを自社で一貫して行っていることが特徴です。
それは非常に重要なポイントです。GEはFPDからシステムまでを一貫して製造しているので,FPDに合わせたシステム,システムに合わせたFPDを開発することができるのです。システムだけ,FPDだけという製造形態では,それぞれの技術や特徴を熟知した上で的確な設計をすることが非常に難しいと思います。
例えば,デュアルエナジーやボリュームラドなどの新しいアプリケーションも,一貫生産だからこそ開発できた技術ですし,今後も新しいアプリケーションの開発につながっていくと思います。GEの一貫した開発,生産コンセプトは,最も大きなメリットをもたらす,他社にはない重要な特徴だと考えています。
●GEのFPD開発のコンセプトや技術的特徴についてご説明ください。
GEのFPD開発のコンセプトは,まず第一に低被ばく,高画質の実現です。そのためにGEは,ヨウ化セシウム(CsI)をシンチレータとしたアモルファス・シリコン(a-Si)タイプの間接変換方式を採用しました。それはなぜでしょうか?
間接変換方式は,CsIシンチレータに入ってきたX線光子(フォトン)をいったん光に変えてから,a-Siアレイでの光電変換により電気信号に変えて読み出す方式です。フォトンをいったん光に変えることで,ノイズ成分を調整することが可能で,最終的に要求される電荷のみを読み出すことが可能です。ノイズだけを取り除いてSNRの高い電気信号に変えることができるのが間接変換方式の最大のメリットです。高いDQE(検出量子効率)を実現することで,高画質でありながら低被ばくを可能にするのが,GEが選択した間接変換方式のFPDなのです。
一方,アモルファス・セレン(s-Se)タイプの直接変換方式はフォトンを直接電気信号に変える方式です。直接変換方式は光に変えずに直接電気信号にすることで,ノイズまで含んでしまうため,DQEが高くなりにくいという難点があります。ノイズを調整できないということは線量を下げられないということで,低被ばく化には不利な設計と言えます。
GEのFPDは,高線量領域と低線量領域のどちらも高いDQE特性を持っています。このようなFPD技術があればこそ,将来的には例えば,トモシンセシスのような新しいアプリケーションが実現できるというメリットもあります。
また,GEのFPDは優れた拡張性を持っています。マンモグラフィ用はサイズが小さくて,デンシティがついていない低コントラスト画像が,逆に血管撮影装置はサイズが大きくて高コントラスト画像が要求され,臨床的に必要な画像がまったく違いますが,間接変換方式はそれぞれに合わせた拡張性を持った設計・開発ができることが大きなメリットだと思います。
さらにGEのFPDは,タイリング(小さなパネルを貼り合わせること)のない, 1枚の一体成型パネルであることも大きな特徴です。一体成型パネルは技術的に難しく,コストもかさみますが,貼り合わせた接合部分のデータ欠損や微小なズレなどによる問題が起こらないため,安定した高画質を約束することができるのです。
●間接変換方式における解像度(ピクセルサイズ)についてはどのようにお考えですか。
システムの開発ではすべてにおいてトレードオフがあります。FPDでももちろん,小さいピクセルサイズになれば解像度が上がりますが,反面,ノイズや被ばく線量も上がってしまうという二律背反の関係性が生じます。GEは,FPDの最適なバランスを追究してさまざまな臨床的実験を行った結果,最適なピクセルサイズとしてマンモグラフィでは100μm,一般撮影では200μmを選んできました。FPDの解像度については,国際的にもいろいろなクリニカルスタディが行われていて,マンモグラフィでは70〜105μm間のピクセルサイズで,石灰化のキャラクタライゼーション,カテゴリー分類に差がなかったという論文が発表されています。GEでは,マンモグラフィでは100μmがクリニカル的にまったく問題ないと考えていますし,逆にピクセルサイズが小さくなればなるほど被ばく線量が増えるというトレードオフから,100μmを選んできました。クリニカルニーズに合わせた最適なバランス,それがGEの開発コンセプトです。将来的なアプリケーションの開発につながっていくのは,マンモグラフィでは100μm,一般撮影では200μmがベストだと思っています。
また,いま臨床現場で大きな問題になっているのが,激増する画像のデータ量です。PACSサーバの保存データ容量がすぐに満杯になったり,ネットワークへの負荷が大きくなったりする問題が深刻化しています。それに対しても,画像のデータ量を適切化する考え方が求められると思います。デジタル化のメリットを極めるためにも,ここでも診療全体を見渡すトレードオフの考え方が重要になると思っています。
●今後の技術開発によっては,ピクセルサイズやパネルサイズが変わることはあるのでしょうか。
GEは,お客様が現状の100μmと200μmで臨床的に問題ないと信頼してくださっている以上,ピクセルサイズを変えるようなことは考えていません。もちろん,今後のニーズの変化によって,絶対ということではないのですが,いまのところ予定はありません。
例えば,マンモグラフィの新しいアプリケーションであるトモシンセシスでは,従来2D画像で見ていたものを3D画像で見ることになるのですが,GEでは,2Dでも3Dでも同じ100μmを採用しています。実は他社のトモシンセシスでは, 2D画像では100μmより小さいピクセルサイズなので,3D画像では2つ組み合わせて大きいピクセルサイズで発表しています。GEは,マンモグラフィのFPDに特化すると,2Dでも3Dでも変わらない100μmというピクセルサイズを選んだことは正しかったと信じています。
また,一般撮影や血管撮影システムでは,画像処理の高速化が可能で,トモシンセシスにも最適な200μmが臨床的に最適だと考えています。
FPDのサイズは,マンモグラフィではラージとスタンダードの2つのサイズがあります。これは,国によって患者様の体格などが違いますし,お客様が求めるニーズが違いますので2種類販売しています。血管撮影の方は,21cm×21cmの心臓用と41cm×41cmの腹部など全身用の2種類があります。そのほか,31 cm×31cmのミドルサイズもあり,頭頸部のコンビネーションに使われています。
一般撮影は41 cm×41 cmの1種類です。今後,パネルサイズを小さくして,解像度を上げるような開発方向は考えているところです。
今後も,求められるニーズや患者様の体格などに合わせて,きめ細かく対応していきたいと考えています。
●グローバルおよび日本における,GEのFPD搭載製品群やシェアについて教えてください。
GEでは現在,血管撮影装置を5種類(汎用血管X線撮影装置:INNOVA3131, INNOVA3100, INNOVA4100,心臓血管X線撮影装置:INNOVA2121, INNOVA2100),グローバルおよび日本で販売しています。
マンモグラフィは日本では,Senographe 2000DとSenographe DS Depister, Senographe DS Laveriteを販売しております。Senographe DS Essentialはラージサイズのパネルなので日本市場では販売しておりません。マンモグラフィは現在,日本では260台が稼働していて,国内のFPD搭載装置の全納入実績で75%と,トップシェアを占めています。
一般撮影は,日本ではDefinium 8000を販売していますが,グローバルではDefinium 6000,Definium 5000の3種類を展開しています。ポータブルタイプはいまのところ日本では販売していませんが,市場動向を調査・検討中です。
※「Definium 6000」については,コニカミノルタエムジーが日本国内で独占販売を行うことを4月15日に発表しました。 詳細はこちらへ。
※GEYMSは4月17日,多目的X線撮影装置3機種を同時発売しました。20cm x 20cmのFPD搭載「Innova 2100IQ Pro(イノーバ2100アイキュー・プロ)」,30cm x 30cmのFPD搭載「Innova 3100IQ Pro(イノーバ 3100アイキュー・プロ)」、40cm x 40cmの大口径FPD搭載「Innova 4100IQ Pro(イノーバ4100アイキュー・プロ)」の3機種です。詳細はこちらへ。
●GEのFPD搭載装置におけるアプリケーションの技術的進歩や臨床的メリットについてご説明ください。
・ブレスト・トモシンセシス
いま米国におけるマンモグラフィのスクリーニングでは,1000人中10%・約100人が精査に進み,そのうちバイオプシーに進むのが約20人,そこから乳がんと診断されるのは4人くらいで,ネガティブが80%くらいになります。いわゆるスクリーニングでの擬陽性がとても多いことが課題と言えます。精査が必要と言われた患者様は,乳がんかもしれないという不安を抱え,何回も病院に通わなければいけないわけです。GEが目指すゴールは,スクリーニングの擬陽性を減少させ精査人数を減らすこと,つまり,スクリーニング段階での診断能を向上させ,早期の確定診断を可能にすることです。
ブレスト・トモシンセシスは,この問題に非常に有効な技術です。マンモグラフィのスクリーニングが,いま以上に有効になっていくと考えています。従来の2D画像はMLOとCCを4枚撮影するだけですが,トモシンセシスは,1回の3D断層撮影で任意の断層面を何枚でも再構成できます。さらに,複数の断層画像から3D画像を再構成することも可能です。あくまでもスクリーニングを対象にしているため,できるだけ低線量にして被ばくを減らしつつ,ノイズを抑えて高画質になるような技術開発を行ってきました。トモシンセシスのみの撮影で診断能を向上させ,その結果,より早期に確定診断まで可能になる方向を目指しています。日本では,2D画像のピクセルサイズを上げてより高精細にして検出率を向上させるという傾向がありますが,それでは診断能は上がらず,むしろ線量が増え,ノイズも増えるという実験データが出ています。GEは細かさを3D方向に,Z軸方向に求めていくという,まったく違ったアプローチをしています。
トモシンセシスは,世界的にはすでに臨床で12台稼働しているので,技術的には完成していますし,クリニカルな評価も出始めています。しかし,トモシンセシスでは,最低でも現行の4倍以上の画像が生成されるため,読影時のワークフローまで含めて考えないといけないと思います。ワークフローは実は非常に重要です。日本でも医師不足が深刻な状況の中で,これ以上,医師に負担がかかることは望まれていません。また,臨床現場を混乱させてしまうリスクを抱えています。今後は,単にハードウエアの開発だけではなく,ワークフローまでトータルで考える必要があります。最終的に画像にかかわる医師や診療放射線技師すべてが満足するシステムにしないと,折角のトモシンセシスも有効に使われないと考えております。そこで,トモシンセシス用のCADや専用のワークステーション,画像処理ソフトなどを開発する予定で,そのすべてのワークフローがそろった上でトモシンセシスを提供することを考えています。
・ボリュームラド
一般撮影装置では,ボリュームラドというトモシンセシスはすでに製品化しています(オプション)。整形外科,胸部,腹部,泌尿器領域と幅広く適応され,立位でも臥位でも可能です。非常に高速,低ノイズで高い診断能を得られるということで,高く評価されています。特に整形外科では,関節のジョイントなどで金属を入れるケースが多く,CTではアーチファクトが出てしまって診断できません。しかし,ボリュームラドでは,空間分解能がCTよりはるかに優れていて,従来の単純撮影と同等以上の分解能が得られるので,金属の周りの組織の成長が非常に良く見えます。しかも,被ばく線量がCTの1/10〜1/50くらいと,非常に低被ばくを実現しています。ボリュームラドでしかできないというアドバンテージがあり,特に整形外科では高く評価されています。
・ デュアルエナジーサブトラクション
デュアルエナジーは2種類の異なる管電圧で2枚の画像を撮影しサブトラクションして,軟部組織画像と骨強調画像を作成します(オプション)。これは,胸部と腹部に適応され,非常に高い評価を受けています。
・コーンビームCT(CBCT)
血管撮影装置ではCBCTという,Cアームを回転させて高速撮影し,三次元画像再構成をすることでCTのような画像を得るアプリケーションがあります(Innova 3D+)。低コントラストの組織を低線量で高精度に描出することができ,インターベンション時には必須の機能として高い評価を受けています。
●これら新しいアプリケーションの日本での評価はいかがですか。
お客様の目的によって差がありますが,現在Definium 8000のボリュームラドは,整形外科では関節疾患や微細な骨折検索などにルーチンでも使えるのではないかという評価があがってきています。いまはルーチンのワークフローにのせるかどうかを検討している段階です。新しい技術なので,非常に有効な分野については,常に使用してもいいのではないかという評価があります。
デュアルエナジーについては,喉頭領域ではルーチンで使用している施設が出てきました。
CBCTは従来,肝がんのインターベンション治療時などに大がかりなアンギオCTを使っていたところを,CTの代わりに手軽に使われるようになってきました。
●ところで,GEはRSNA2008で新ブランド戦略を発表しました。日本ではどのように展開していくのでしょうか。
GEでは今後,モダリティの枠を超えて目的別に,よりアカデミックな使用を目的としたハイエンド装置「Discovery」,高い検査効率により臨床で有用性を最大限に発揮する「Optima」,使いやすさと経済性を重視した「Brivo」という3つの統一ブランドを展開していくことをRSNA2008で発表しました。日本でも基本的には同じコンセプトで,新しいブランド戦略を実施していく予定です。新製品発売のタイミングで,徐々に新しいブランド名にすることを考えていますが,ITEM2009の時点ではX線画像診断装置以外の分野で,部分的に新ブランドのコンセプトを説明するような展示をすると聞いています。
●では最後に,GEのFPD開発の方向性やこれからの夢をお聞かせください。
GEはこれからも,診断的有用性,最終的には患者様のメリットを第一に考えてまいります。新しい技術開発については,これまでお話ししてきたトモシンセシス,ボリュームラド,CBCTをキーとして考えています。CTやMRIの進歩は著しく,いままで見えなかったものが見えるようになって世界を変えてきました。X線撮影装置に関しても同様に,世界を変えるようなクリニカルな情報を提供していきたいと思います。
ただ,新しい技術やアプリケーションはどんどん出していきたいのですが,その恩恵を受けられる患者様は,欧米や日本など世界の一部なので,そのほかの世界中の国の人たちがGEの新しい技術を等しく享受できるよう,コストを下げて環境を整備していくことも今後の目標です。
GEはFPDのパイオニアであり,長い開発の歴史があります。今後もデジタルのパイオニアとして技術を開発し普及させていきたいと思っています。GEは今回,$165million(約170億円)の巨額投資をして,ニューヨーク州に敷地面積約2万m2の新しい開発・製造拠点をつくりました。今後,マンモグラフィ検診などが増えていくことが予想されるので,FPDの世界的な安定供給をめざすものです。2009年夏にオープンの予定ですが,デジタルイメージング市場に向けてGEは積極的に開発・製造・販売していく予定です。
(2009年4月3日取材:文責inNavi.NET)
●問い合わせ先
GE横河メディカルシステム株式会社
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http://www.gehealthcare.co.jp/
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