緊急インタビュー 地域医療の崩壊をどう救う?ITと地域連携 行政編
経済産業省 地域連携のために標準化を進めることは医療IT産業の国際的な競争力の強化にもつながる 増永 明 氏 商務情報政策局医療・福祉機器産業室長
経済産業省では,これまで相互運用性と地域連携システムの標準化に取り組んできました。また,地域連携を発展させる形でITを活用した見守りやPHR(Personal Health Record)の実証事業も行っています。標準化を進めることで,医療の質の向上だけでなく,産業としての成長も期待できます。
相互運用性と地域連携システムの標準化を進める

 経済産業省では,これまで医療のIT化を段階的に進めてきています。2005年度からは,3年間にわたり「医療情報システムにおける相互運用性実証事業」を厚生労働省と連携して行いました。これは医療情報システムの普及と標準化を進めるもので,ベンダーが異なるシステムを接続することを目的にしています。その一環として,相互接続の確認試験であるIHE(Integrating the Healthcare Enterprise)のコネクタソンを実施しました。
  一方で,施設内だけでなく,医療機関のシステム接続も重要であることから,2006年度から2008年度まで,「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」を実施しました。この実証事業では,脳卒中の地域連携システム・地域連携クリティカルパスの開発と,周産期ネットワークの構築による周産期電子カルテを用いた地域連携に取り組みました。
  脳卒中の地域連携システムと地域連携クリティカルパスは,日本の標準となるよう厚生労働省やHELICS協議会などの関係団体と協議を進めています。周産期電子カルテも,日本産婦人科学会・日本産婦人科医会の下で標準となりつつあり,今後はそれを普及させていく段階になっています。

見守りやPHRの実証事業など地域連携を発展させる取り組み

 このほかにも,地域連携を発展させる形で今年度から3年間の予定で「地域見守り遠隔医療支援システム事業」を開始しました。これはネットワークを通じて,高齢者や慢性疾患患者のバイタルなどの情報を医療・介護関係者で共有するものです。地域全体で見守るという仕組みによって,医療資源の最適な配分ができると考えています。
  また,昨年度からは個人が自らの健康情報を管理する「健康情報活用基盤実証事業(PHR実証事業)」を行っています。全国4地域で実証事業を行っており,このうち沖縄県浦添市では,厚生労働省,総務省と合同で進めています。経済産業省では,疾病管理サービス実証事業として,PHRを活用して,個人の健康データを基に,健康サービス事業者から質の高いサポートを受けられるように,運用ルールの策定などに取り組んでいます。

成長産業としても医療ITに期待

 今年7月には,IT戦略本部が「i-Japan戦略2015」を公表しましたが,これは経済産業省がこれまで取り組んできた施策と同じ方向性であり,われわれは今後も医療分野のIT化を進めていきます。そこで重要になるのは,医療機関同士の連携とPHRのような個人を中心とした情報連携,遠隔医療だと考えています。
  これらのIT化を進める上で,標準化は避けて通れません。標準化は,医療を効率化・高度化するだけでなく,医療IT産業の活性化につながります。さらに,標準化が進むことでコストを下げることもできます。産業として医療のIT化を考えた場合,標準化と低コスト化により,国際的な競争力を持つことができ,市場の拡大も可能です。
  貴重な医療資源を最適に配分し,活用していくために,地域連携は必須であり,そこにITを欠くことはできません。医療機関にとっては,サービスが向上し,自施設の競争力の強化にもつながりますので,積極的に投資していただきたいと思います。

(「ITvision」No.19(2009年10月25日発行)「特集 地域連携はどこまで進んだか」より転載)

(ますなが あきら)
1989年東京大学大学院修了後,通商産業省(現・経済産業省)入省。工業技術院医療福祉機器技術企画官付課長補佐,産業技術環境局地球環境対策室長,資源エネルギー庁G8エネルギー大臣会合等対策業務室長を経て,2008年から現職。

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