画像データ量の爆発的な増加に伴い,ボリュームデータの活用とユビキタスな診療環境の実現が求められる中,シーメンス社は2009年の北米放射線学会(RSNA)において,新世代の画像解析処理システム「syngo.via」を発表した。その先進的な機能は医療界に新たな風をもたらすものとして,いま,世界中から注目を集めている。そこで今回,シーメンス・ジャパン(株)マーケティング本部長のマーク・フリント氏と,マーケティング本部IKM事業部 部長の山本宣治氏に,syngo.via の開発のねらいやコンセプトについてお話をうかがった。
(シーメンス旭メディテック株式会社は,7月1日よりシーメンス・ジャパン株式会社に 社名が変更になりました。詳細はこちらをご覧ください。)
マーク・フリント 氏 |
山本 宣治 氏 |
革新性を誇る優れた技術で世界が直面する医療の課題に挑む
●シーメンスのヘルスケア部門における事業のコンセプトや開発の方向性について,お聞かせください。
フリント氏:当社の開発の歴史を通じて,常に中心に据えられてきたコンセプトは,“革新性”です。これを実現するために,シーメンスは多額の研究開発費を製品開発のために投じてきました。その成果は,RSNAなどで多くの日本の皆様にもご覧いただいていると思いますが,いまやそのねらいは,モダリティ本体の開発から,それを統合させるワークフローの改善を導き出すトータルソリューションへと大きく拡がっています。例えば,いま日本が直面している課題には,高齢化や医師不足,医療費の急激な増加などがあります。また,CT,MRI,AX(Angio & X-ray),超音波診断装置などの技術革新によって,画像データ量が飛躍的に増加することにより,膨大なデータを処理し,適切な診断を下すためのマンパワー不足は,ますます深刻な問題となっています。こうした状況は,日本だけでなく米国などでも同様ですが,われわれはこれらの課題に対して,従来型のワークフローを最適化することで対応できるのではないかと考えています。
画像診断分野において,シーメンスは現在,ヨーロッパをはじめ世界でナンバーワンの企業だと自負しています。しかしながら,日本ではまだそこまでには至っていませんが,日本のユーザーや患者様が直面している問題を解決することで到達可能であると考えています。その具体的なひとつのアプローチとして,マーケティング部内に“リサーチコラボレーショングループ”を立ち上げました。市場の課題は同じでも,国が違えば課題への取り組み方が異なることもありますので,同グループでは,日本のパートナーと協力し日本特有のニーズを探し出して,本社の開発部門に伝えていくことに取り組んでいます。そして,必要に応じて商品の改良やカスタマイズを行っていきます。彼らは全員,大変優秀な人材であり,また,近い将来,医師にも同グループに加わっていただく予定です。いずれにしても大事なのは,われわれの技術と臨床現場とのギャップを埋めて,いかにわれわれの技術の臨床的有用性を高めてゆくかということです。最新テクノロジーによってユーザーを最適にサポートすることができれば,最大の結果が得られると考えています。
独自の技術で医療の全プロセスをトータルサポート
●御社では,画像診断と診断薬,ITをインテグレーションするような取り組みをされていますが,その意義をどのようにお考えですか。
フリント氏:これまで,シーメンスは主に画像診断を研究開発の中心に据えてきましたが,これからは病気というものを,ごく早期の段階でのスクリーニング(早期発見),確定診断,治療,フォローアップまでのプロセス全体として,画像診断以外の方法も用いてとらえる必要があると考えています。
乳がんを例に挙げると,スクリーニングの段階では,簡単で痛みがなく,より放射線被ばくの少ない検査法が求められていたため,われわれはABVS(Automated Breast Volume Scanner)という装置を開発しました。これは,超音波診断装置「ACUSON S2000」と組み合わせて使用するものですが,スタンド,アーム,タッチパネル,5〜14MHzのトランスデューサーで構成されており,約1分間の自動スキャンによって,15.4cm×16.8cm×6cmという広範囲のボリュームデータを簡単かつ非侵襲的に取得することができます。日本の女性は乳腺密度の高い方が多いので,特に有用です。また従来,超音波による検査では,病変の検出は術者の技量によるところが大きかったのですが,ABVSでは自動スキャンによって,この問題も解決しています。
診断では,より明確な定義づけを行うために,デジタルマンモグラフィによる“トモシンセシス”の技術を開発しました。トモシンセシスは,角度を変えて複数の方向から撮影し,収集したデータを三次元的に再構成して断層像を作成する技術で,3D画像での診断が可能となります。これにより,従来は困難だった早期の乳がんや,乳腺密度の高い日本女性の乳房でも,より高精度な診断が可能となります。現在,国立がん研究センターに導入されており,非常によい成果を生み出しています。
デジタルマンモグラフィによる“トモシンセシス”(第19回日本乳癌検診学会総会機器展示会場にて:2009年11月6日取材)
また,治療においては診断薬の分野がかかわってきますが,これまで化学療法の効果判定を画像だけで行うには,腫瘍の形態の変化を比較するため比較的長い時間がかかっていました。一方,乳がんなどにおいて過剰に発現するHER2/neuタンパクをマーカーとすることで,より早期の効果判定が可能となりました(インナービジョン2010年8月号に技術紹介掲載予定)。
いま挙げたのは一つの例ですが,診断薬と画像をインテグレーションすることで,早期発見からフォローアップまでの一連の患者様のケアの効率を向上し,同時にコストの削減が可能となり,そして発症の予測も可能になるかもしれません。発症の予測はいまのところ理想であり,もう少し時間がかかると思いますが,マーカーなどを用いて新しい技術の開発をめざしています。ただ,シーメンス製品のユーザーである亀田総合病院などでは,ABVSや乳腺MRIなどのインテグレーションにより,こうしたプロセスの多くをすでに実現しているように思います。
インテグレーションについてもう一つ重要なわれわれの技術があります。それが「syngo.via」です。syngo.viaは,3Dワークステーション(以下,3DWS)でもPACSでもなく,いままでにないまったく新しいソリューションです。ヘルスケアのワークフローに新しい流れを生み出し,次世代の新たなベンチマークとなりうるソリューションだと確信しています。
syngo.via開発のキーワードは“インテグレーション”と“クロスモダリティ”
●syngo.viaはどのようなコンセプトで開発されたのでしょうか。
山本氏:syngo.viaは,モダリティ単位で開発されてきたポストプロセシングアプリケーションを,セキュリティポリシーが確立されている院内のネットワークにつながっている端末からなら,いつでもそれを利用できるようにサーバ側に集約して一元管理することで,TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)の削減と読影業務の効率化による生産性の向上を実現させることを基本のコンセプトとしています。
●syngo.viaは,モダリティ,PACS,WSのいずれにも属さない,まったく新しい第4のカテゴリであるとされていますが,その特長を具体的にお聞かせください。
山本氏:syngo.viaの特長は,“大量のボリュームデータをサーバ上で高速かつ自動的に処理し,2D画像はもとより,3D画像や4D画像を提供する新世代の画像解析処理システム”と言うことができます。医用画像は近年,モダリティの高性能化と高分解能化に伴い,データ量が飛躍的に増加しています。また同時に臨床的な優位性が高く,読影精度を上げるためにボリュームデータで読影したいという放射線科医のニーズが高まっています。そのため,syngo.viaでは,得られた画像データを,さまざまな検査画像用の最適なアプリケーションをRISと連動することで高速自動処理を実現し,読影業務を強力にバックアップすることで,結果として医療の質の向上に貢献することをねらいとしています。特に,シーメンスはフルモダリティを有していますので,syngo.viaでは,モダリティの進歩に合わせて変化するユーザーのニーズに,いち早く応えることができます。
具体的には,3DWSが今後対応していかなければならない項目として,1)画像処理作業の限りない自動化,2)操作性の簡便化,3)あらゆる画像データとの比較読影によるビューワ機能のサポート,という3点に加え,二次的な側面として,ネットワーク型にすることで低コストかつ院内各所での参照を可能にする,ということが言われていますが,syngo.viaでは,これらをすべて実現しています。PACSや3DWSが持つ技術や機能を有機的に統合することで,ユーザーのニーズに最適にフィットした環境が提供可能となります。
また,モダリティから生成された画像データを,より高速にsyngo.viaに転送するためには,モダリティとのシステムインテグレーションを,より完全な形で行うことが重要となります。放射線科のオーダに関するターン・アラウンド・タイムを限りなく短くすることは,モダリティの検査スピード(画像生成時間含む)と転送時間が大きなウエイトを占めることは言うまでもありません。この部分の短縮化を図れるのは,当社のような包括的かつ統合的なモダリティメーカーでなければ成し得ないと思っています。さらに,syngo.viaでは,院内各所の電子カルテなどの端末をクライアントとして,3D画像作成や解析画像処理が可能で,ワンクリックで必要な画像が表示できることに加え,従来はコンソール上でしか行えなかったスキャンプロトコールの登録や予約も行うことが可能となりました。例えば診療放射線技師が,翌日の検査予約に基づくシミュレーションを行う際にプロトコールを登録しておけば,当日はそれを取り込むだけですみ,検査を開始する時間の短縮につなげることができます。
このようにsyngo.viaは,ワークフローを改善しうるさまざまな機能を有することで,時間的余裕を生みだし,医療の質を効果的に向上させることができるのではないかと思っています。
●既存のPACSや電子カルテ,RIS,オーダリングシステムなどとの連携は可能でしょうか。
山本氏:syngo.viaは,他の医療情報システムなどと連携して活用するというのも開発の基本コンセプトのひとつです。syngo.viaの製品名の由来にもなっている「via」という言葉は,「〜経由で,〜を通って」という意味ですが,その名のとおり,検査オーダ情報や画像データがsyngo.viaを経由することで,最適な処理アプリケーションが実行され,さらにクロスモダリティによる比較読影用の画像データ収集も可能となります。
syngo.viaが臨床にもたらすベネフィット
●syngo.viaを導入した場合,検査のオーダから画像を参照するまでの流れはどのように変化しますか。
山本氏:syngo.viaでは,画像を参照するまでユーザーがすることは何もありません。つまり検査オーダが出されると,モダリティがRISからワークリストを取得すると同時にsyngo.viaもワークリストを取得することで,プリプロセッシングの準備を行います。そして,実際に検査が行われ,画像データがsyngo.viaに転送されるとすぐに,画像情報と検査情報の突き合せ処理を行って自動で最適なアプリケーションが起動されます。これらの処理はすべてサーバで行われていますので,検査終了後にクライアント端末から参照したい検査レコードをクリックするだけで,処理ずみの画像が参照できるわけです。
大腸検査を例に挙げると,現状の大腸内視鏡検査は侵襲的である上に,かなり時間がかかり,医師や患者様にとって非常に大きな負担となります。しかし,syngo.viaを導入した場合のCTコロノグラフィでは,検査終了と同時に画像再構成と病変部の診断支援処理が完了するので,スクリーニング目的の大腸内視鏡検査の多くが不要となることが期待されます(病変の診断支援処理機能はオプション)。また,循環器科においては従来,3D画像を参照したい場合は医師自身が放射線科に出向いて3DWSで作成するか,診療放射線技師に依頼しなければなりませんでしたが,syngo.viaでは,CT検査終了時には心臓や冠動脈の抽出など必要な処理が自動的に行われ,すべて終了しているため,すぐに再構成された3D画像や解析画像を参照しながら血管造影検査を行うことも可能です。
このほか,画像解析処理が同時に20台のクライアント端末から実行できるため,外来でのインフォームド・コンセントやカンファレンスなど,チーム医療にも大きく貢献します。
●放射線科の医師,あるいは診療放射線技師にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
山本氏:64スライス以上のMSCTが複数台稼働しているような大規模病院では,3D画像作成の依頼も多く,診療放射線技師が一日中かかりきりになる必要があるかもしれません。しかし,syngo.viaを導入すると,ルーチンでの画像処理作業が大幅に削減可能なので,より高度な解析作業に集中できるようになります。
●病院経営の側面から見たメリットもあるのでしょうか。
山本氏:一番大きいのは生産性の向上です。診療放射線技師の負担が軽くなることで,より柔軟な人員配置が可能となります。またsyngo.viaは,システムを停止することなくバージョンアップが可能な設計になっていますので,業務が止まることなく安定した診療環境を提供できます。
フリント氏:syngo.viaでは,あらゆるモダリティの画像を1台の端末からすべて呼び出すことができます。syngo.viaは汎用PCをクライアントにしてフルパワーのWSとして活用することもできますので,WSが設置されている場所に移動する必要がないという意味でも生産性が向上します。また,導入するシステムそのものは1台ですみますので,コストダウンにもつながります。
医療界のニーズを正確にとらえたsyngo.viaを世界が高く評価
●RSNAでsyngo.viaを発表した後の世界の反応はいかがだったでしょうか。
山本氏:シーメンスはこれまで,モダリティに関しては非常に高い評価をいただいていましたが,ITシステムについては,残念ながら同様の評価をいただくには至っていませんでした。しかし,syngo.viaを発表した際には,幸いにも多くの方から,きちんとした分析に基づいたコンセプトが実現できており,かつモダリティの開発状況にもタイミングがぴったり合っていて,大変すばらしいとの言葉をいただきました。
実際に,RSNAでの発表後からこれまでに,ワールドワイドですでに多くの受注をいただいており,複数のお客様サイトでの実際の稼働の準備を開始しています。
医療の課題の解決に向けて発想の転換を
●最後に,読者の方々へのメッセージをお願いいたします。
フリント氏:シーメンスは,非常に革新的で優れた技術を持った強いポートフォリオを有していますので,それらによってこれまで,多くのユーザーの皆様をサポートしてきました。さらに今回,syngo.viaを発表したことで,ヘルスケア業界が抱える多くの課題を解決できるようになれば,結果として,より多くの患者様をサポートしていくことにつながると考えています。
山本氏:syngo.viaが登場したことで,診療放射線技師の方からは,自分たちの仕事がなくなってしまうのではないかというご意見をいただくことがあります。しかし,現実にはそんなことは絶対にあり得ません。syngo.viaが可能にするのはあくまでも,ルーチン作業の大幅な効率化です。syngo.viaは,まったく新しい発想でワークフローを劇的に改善するためのシステムであり,いまや,そうした発想の転換が必要な時代に突入しているのだということを,ぜひ多くの方々にお伝えしていきたいと思います。
◎略歴 マーク・フリント 氏 1986年南アフリカシーメンスメディカルサービス入社。1997年南アフリカシーメンスメディカルソリューションセールス&マーケティングマネージャー。2000年シーメンスアジアパシフィック(シンガポール)アジア地区 Angiography ビジネス マネージャー。2004年シーメンスドイツ本社にてAngiographyビジネス北米担当マネージャー。2005年シーメンスドイツ本社にてInterventional Radiology・Angiography グローバルビジネス部門部長を経て,2006年12月よりシーメンス旭メディテック株式会社取締役マーケティング本部長。 山本 宣治 氏 (やまもと のりはる) 外資系日本法人を経て,2004年よりシーメンス旭メディテック株式会社に入社。ヘルスケアにおける情報管理システム分野におけるシステム開発と医療施設へのシステム導入プロジェクトマネージメントを担当する。2009年よりIKM (Image and Knowledge Management)事業部 部長に就任。マーケティング活動の一方,学会発表や共著の執筆もこなす。最近の共著執筆としては,『フィルムレスマスターブック−基礎から実運用・管理まで−』(日本医用画像管理学会編)がある。 |