(株)フィリップスエレクトロニクスジャパンは7月21日(土),東京コンファレンスセンター・有明(江東区有明)において,「第15回Parallel Imaging Symposium」を開催した。順天堂大学の青木茂樹氏を代表世話人として,“脳神経MRIの最前線”をテーマに,脳神経領域における最新のMR撮像と解析,最新技術を臨床で生かすための具体的な方法論について2部構成のプログラムが行われた。開会の挨拶で,代表世話人の青木氏は,「頭部領域はMRIで最も検査件数が多い領域であり,最先端の技術やテクニックを知って日常の臨床に生かすことで,検査を受ける患者さんに還元して欲しい」と述べた。
第1部は,「これでわかる最新MR撮像・解析」として,青木氏が座長を務め3題の講演が行われた。最初に,順天堂大学の堀 正明氏が「これでわかるQ-Space(QSI)/DKI」と題して,拡散強調画像(DWI)の新しい撮像法であるQ-Space Imaging(QSI)とDiffusional Kurtosis Imaging(DKI)の基礎と臨床応用について述べた。脳梗塞などの診断において,従来のADCやFAmapとは異なる新たな臨床情報が得られることが期待される。
続いて,九州大学の吉浦 敬氏が「これでわかるCEST Imaging」を講演した。CEST(Chemical Exchange Saturation Transfer)は,溶質と水分子のプロトン交換にもとづく分子イメージングで,水信号を低下させることで従来は検出不可能だったNH(Amide)などの低濃度分子を間接的かつ高感度に検出する。吉浦氏は,臨床に最も近いCEST Imagingとして内因性アミド(Amide proton transfer)について,脳腫瘍や急性脳虚血への応用を含めて紹介した。
第1部の最後は,「これでわかる画像統計解析」を日本大学の阿部 修氏が解説した。阿部氏は,従来からの関心領域法(ROI-based)と,2000年頃から注目されつつあるVBM(Voxel-Based Method)について解説し,全脳を短時間に探索でき客観的な結果が得られるメリットを強調した。また,解析のための前処理や補完処理として用いられる“FreeSurfer”や“TOADS-CRUISE”,“ARCTIC”などのソフトウエアを紹介した。さらに,VBMによって加齢(aging)による脳の変化を解析した結果を提示した。
第2部の開始前には,フィリップスエレクトロニクスジャパンの門原 寛氏が「Ingeniaの最新情報」についてプレゼンテーションを行った。Ingenia1.5Tは,受注ベースで国内50台,海外では450台の実績があること,3Tでは国内シェアが37%となっていること紹介し,Ingeniaの特長を,“Smart Select”,“dS Sense”,“Large & Small FOV”,“MultiTransmit4D”の4つのポイントについて説明した。また,W.I.P.として,MRIを併設した手術室である「MR OT」,MRIによる放射線治療計画「MR RT」についても紹介した。
第2部は,大阪市立大学の三木幸雄氏を座長して,「MRの最新技術を臨床で活かす」というテーマで4題の講演が行われた。
「PADRE で見た脳画像」を講演した熊本大学の米田哲也氏は,新しい磁化率強調画像の撮像法であるPADRE(PhAse DiffeRence Enhanced imaging)について,従来のコントラストと位相画像を併せ持った描出が可能で,位相の選択によって視床や基底核などの解剖の把握に役立っており,磁化率の定量評価が可能となることを説明した。現在,フィリップスとさまざまな研究,検証を進めており,短時間で高分解能での撮像が可能で,今後の臨床応用に期待が大きいと述べた。
八重洲クリニックの米山正己氏は「こんなに使えるMSDE」を講演し,超高速スキャンによって血液からの信号を抑制するblack-blood imagingであるMSDE(Motion Sensitized Driven Equilibrium)について原理を解説すると同時に,black-blood以外の領域として“非造影MRA”,“造影脳転移検出(brain metastasis screening)”,“MR-Neurography”について撮像方法と臨床画像を紹介した。
続いて,北海道大学の藤間憲幸氏が「臨床現場でここまで使えるpCASL」と題して,SNRの高いラベリング手法として注目されているpCASL(pseudo continuous ASL)について,シーケンスや撮像方法などを解説した上で,脳の灌流画像の定量性の精度としてMRIのPASL法や核医学検査と比べても遜色なく,変性疾患などの評価に有効であることを説明した。さらに藤間氏は,フィリップスのMRIではLook locker readoutという撮像法を用いることで,先進的な撮像が期待できると述べた。
最後に,「臨床で使える3D DIR,3D BBI」を三重大学の前田正幸氏が解説した。前田氏は,まず頸部頸動脈で用いられる3D BBI(black blood imaging)について説明し,プラークの性状診断や量の計測,CAS(頸動脈ステント留置術)後の遠位塞栓リスクの把握などに役立つと述べた。また,DIR(Double Inversion Recovery)は古くからある撮像法だが,3Tや多チャンネル化によって欠点を克服して多発性硬化症や認知症の皮質病変の検出などで適応が広がりつつある。前田氏は,フィリップスのAchievaやIngeniaでは3D-DIRはすでに標準搭載されており,臨床で使えるシーケンスとして1歩リードしていると評価した。
閉会挨拶として,フィリップスエレクトロニクスジャパンの小山克彦氏が登壇し,「今回の講演内容は,ほとんどが研究,開発途上の技術であり,最先端の技術や知見を臨床の先生方と共有しながら,今後のMRIの開発に生かしていきたい」と述べた。当日は270名以上が参加し,盛会のうちに終了した。 |