GEヘルスケア・ジャパン(株)は2012年6月9日(土),赤坂パークビル(東京都港区)にてトモシンセシス搭載デジタル一般X線撮影装置ユーザーズミーティング「第2回TOMO友の会」を開催した。TOMO友の会は,同社のトモシンセシス「Volume RAD」をユーザーに有効活用してもらうため,ユーザー同士の情報交換会として開催されているもので,2011年10月の開催に続き2回目となる。
座長を東京女子医科大学東医療センターの油原俊之氏と,財団法人芙蓉協会聖隷沼津健康診断センターの田沢範康氏が務め,ユーザー6施設からトモシンセシスの臨床的な発表や物理特性に関する発表が行われた。
はじめに,X-Ray Sales & Marketing部部長の櫻井 諭氏が挨拶に立ち,前回の開催において,参加者からポジティブなフィードバックとともに改善要望を得ることができたので,同社としては確実にアクションにつなげていく考えであると述べた。
次に,X-Ray Sales & Marketing部の行田勇人氏が技術紹介を行い,「Volume RAD」は「低線量・高画質」「高い信頼性」「高い生産性」のコンセプトのもと,全体最適のシステム設計で開発されたと述べた。行田氏は,同社の画像アルゴリズムの研究の歴史について紹介し,SFBP(Specialized Filtered Backprojection)法を搭載することになった経緯を説明した。そして,「Volume RAD」におけるユーザーが調整できる撮影パラメータとして,線量係数(Dose Ratio),Slice Interval,Sampling Factorについて解説した。終わりに,同社の最新製品情報として,今春発表したワイヤレスFPD「FlashPad」と回診車「SuperBee XR220 digital」を紹介した。
ユーザー施設からの発表の1題目は,財団法人芙蓉協会聖隷沼津健康診断センターの和田 健氏による「胸部トモシンセシスによる肺がん検診実施にむけて」。和田氏は,「Volume RAD」のさらなる有効利用として,一次肺がん検診でのCT検査の代替の可能性について検討した結果を報告した。管電圧変化時の画像の評価と被ばく線量低減を2つのポイントとして,胸部トモシンセシスの撮影条件を検証した結果,管電圧100kV,0.25mAsに設定することで,デフォルト設定時と比べて視覚評価は変わらないまま被ばく線量を27%低下することができ,低線量CTの約1/3に抑えられたと述べた。低線量CTとの視覚評価の比較を行ったところ,空間分解能に優れており,病変の有無を見る一次肺がん検診レベルでは使用可能であるとした。空間分解能の高さ,撮影の容易さ,低線量,安価という点から,任意型だけでなく,対策型検診での利用も視野に入れることができるとし,そのためにも画像再構成時間の短縮,新アルゴリズムの開発に期待すると述べた。
2題目は,JA広島総合病院の大和真一郎氏が,「トモシンセシスにおける実効断層厚測定法の検討及び断層面分解と断層厚依存性」を講演した。大和氏は,FPD搭載一般X線撮影装置を用いてトモシンセシス撮影を行い,1)実効断層厚の測定に適したファントムの材質や大きさの検討と,それを踏まえた上で,2)実効断層厚と断層像における分解能を検討した結果を報告した。1)について,被写体厚依存性と材質依存性の2点から検討したところ,設定断層厚以下の実効断層厚は得られず,断層厚の測定ではアルミニウム製ワイヤ経1mmが適していたとした。また,2)の検討では,天板からの各高さにおける実効断層厚の比較と分解能の比較,さらに断層像の面内の位置における分解能の比較を行っており,考察として断層厚の検討では天板から距離が離れることで相対的な入射角度が大きくなり,実効断層厚が薄くなることや,断層像の検討では,画像再構成法における再構成フィルタの影響を受ける可能性があると述べた。
3題目は,近畿大学医学部附属病院の蟇目泰良氏が,「ボリュームRADにおけるイメージJを使用した,創外固定アーチファクト低減の取り組み」を講演し,整形外科領域における,創外固定金属からのさざ波アーチファクト(リプルアーチファクト)について,Image Jを用いた画像処理による低減の検討を報告した。画像処理は,1)元画像をフーリエ変換,2)フーリエ変換後の画像のパワースペクトルの取得,3)低周波部分をsubtractionにて除去,4)subtraction後の画像を逆フーリエ変換後に再画像化,という手順で行ったところ,アーチファクトの低減が可能であり,Subtraction Valueなどを適切に設定することで,アーチファクト成分のみを除去することができると述べた。蟇目氏は終わりに,Image Jなどのソフトを介さなくてもアーチファクト除去等の画像処理を行えるソフトウエアの装置への実装など,メーカーへの要望を挙げた。
4題目として,社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会野江病院の市川幸宏氏が,「陥入爪,巻き爪の末節骨診断〜トモシンセシス撮影を用いて〜」を講演した。同院において,従来はCTで行っていた陥入爪や巻き爪の原因の1つである末節骨末端の変形の評価を,トモシンセシスで行った検討が報告された。撮影においては,Patientサイズを考慮した補助具を作製し,Patientサイズを撮影プロトコールに組み込めるようにしている。市川氏は,症例画像を供覧し,末節骨の評価にトモシンセシスが十分可能であること,また,CTと比べ被ばく線量とコストが低く,特にGE社製装置は単純X線検査の延長として行えることから有効な検査であると評価した。ユーザーからの意見として市川氏は,処理能力の向上と撮影画面上での操作性の向上を求めた。
5題目に,札幌医科大学附属病院の赤塚吉紘氏が,「トモシンセシスにおけるX線管走査方向と描出能の関係」を講演した。金属デバイスに対するX線管球走査方向の画像への影響は明らかではないことから,赤塚氏は,金属デバイスのない関節と,金属デバイス周囲について,トモシンセシスにおける適切な走査方向を検討した。その結果,金属デバイスがない関節や骨癒合評価では,X線管は目的部位に対し垂直走査させる方が良好に描出され,金属デバイス周囲の評価においては,目的部位に対して平行走査の方が良好に描出されたと報告した。
最後に,東京女子医科大学東医療センターの森 孝子氏が,「THAにおけるトモシンセシスの有用性」を講演した。森氏はまず,THA(人工股関節置換術)の対象や固定法(セメント法/セメントレス法)について概説。THAの合併症である骨折や,弛み・骨溶解の評価におけるトモシンセシスの活用について画像を供覧し,また,プロファイルによる濃度測定から,トモシンセシスの有用性を述べた。その上で,トモシンセシスで経時的観察を行う際の注意点として,ポジショニングの再現性が難しく,単純撮影以上に三次元を考慮してポジショニングを行う必要があるとした。また,セメントレス法における固着状態良好のサインであるSpot weldsとポーラス面への侵入像について解説し,これらの評価においても単純X線撮影と比べてトモシンセシスの方が検出能が向上し,早期の検出が可能であることから,THAの経過観察ではトモシンセシスがゴールドスタンダードになるのではないかと述べた。
講演後のQ&Aセッションでは,会場の参加者からも各施設におけるトモシンセシスの使用経験がコメントされ,撮影・画像再構成時間の短縮への要望の声が多く上がった。また,逐次近似画像再構成技術が進み,CTで超低被ばく撮影が可能になりつつあるものの,ワークフローや立位負荷撮影,コストといった点ではトモシンセシスに優位性があり,乳腺や整形領域などにおいて利点があるだろうとの意見が出された。胸部検診での利用では,微細な病変まで見つかりすぎるCTと,治療困難な段階での発見となりがちな単純X線の中間に位置する検査方法として活用できるのではないかといったコメントも出されるなど,さまざまな意見交換が行われ,会は盛況裏に終了した。 |