ITを活用して医療を変えよう——そんな志を持った医学部生などが集まったイベントが2012年5月26日(土),アップルストア銀座(東京都中央区)で開催された。
医療分野でもiPadなどのタブレットやiPhoneをはじめとしたスマートフォンの利用が進み,医療系学生の間でも勉強や研究に使われるようになっている。その一方で,学生たちは日々の講義や実習などに追われ,他大学との交流や学生同士の情報交換などの時間がとれなくなってしまっている。こうした中,現在の医療に対して問題意識を持っている慶應義塾大学などの医療系学生が集まり,ITを用いて学生たちによるボトムアップ型の医療改革を図ろうとして結成されたのがMEDiSHAREである。
今回のイベントでは,Facebookで告知を行い,各学生のプレゼンテーションをTwitterでレポートするなど,SNSを駆使。会場に来られなかった学生たちとも,医療を変えるためのIT活用のアイデアを共有(シェア)し合う形で進められた。
まず,MEDiSHARE代表の慶應義塾大学医学部2年の大岡令奈氏が,「現在の医療とこれからの医療〜データから未来を考える〜」と題し,MEDiSHAREのビジョンと今回のイベントの趣旨についてプレゼンテーションを行った。大岡氏は医療系学生の情報不足の現状を紹介し,勉強方法などの良いアイデアを分け合うことが重要だと説明。「シェアすれば変われる」というメッセージを参加者に伝えた。
続いて,同大学医学部5年の田沢雄基氏が,「医学教育におけるiPadの活用〜海外事例の紹介と日本での試み」と題して発表した。田沢氏は,「inkling」など,自身が活用するiOS向けアプリケーションを紹介し,このような情報をみんなでシェアすることが大切だと述べた。そして,米国の大学でiPadを導入し学生の勉強に活用した事例を取り上げた上で,実験的に慶應義塾大学でも導入したもののあまり利用が進まなかった経験について報告。この理由として,トップダウン式での意思決定ができなかったことなどを挙げた。これを踏まえて田沢氏は,技術と時間,勇気のある医療系学生たちが,医療を変えていく活動をしなくてはいけないと訴えた。
これを受けて,実際に技術と時間,勇気を持って,医学教育の場面にiPadを導入させた昭和大学医学部4年の鷺坂彰吾氏がプレゼンテーションを行った。鷺坂氏は,医師ではない医学生としての視点から,手術室にiPadを持ち込めるように働きかけ,「OsiriX」による術中画像参照を行う仕組みを導入した経緯について紹介した。
次いで,スペシャルゲストとして神戸大学大学院医学研究科の杉本真樹氏のプレゼンテーションが行われた。学生時代の経験談などを話すとともに,地域医療にかかわった中で,職種や医局,企業,行政などの障壁を取り払い,チーム医療を実現するという「医領解放」の考えに至った経緯を紹介。そのための手段としてOsiriXやiPadなどを活用したと述べた。杉本氏は,このような取り組みを広げていくには,それを人に伝えることが大事だとして,“Presentation is Present”という言葉を挙げて,プレゼンテーションのあり方を説いた。
この後,トークセッションが設けられ,杉本氏を中心に各プレゼンターと,会場の間で質疑応答が行われた。会場からは医療系学生からの質問だけでなく,現役の医師からの学生に対する応援のメッセージが贈られるなど,キックオフイベントは最後まで盛況であった。 |