ファイルメーカーが開催するFileMakerカンファレンス2011が,11月9日(水),10日(木)の両日,フォーシーズンズホテル椿山荘東京(東京都文京区)で開催された。同社が年1回開催するカンファレンスで,最先端のソリューションの紹介や技術の解説,先進ユーザー,デベロッパーの講演,セミナーなどが行われた。プログラムは,Bill Epling社長らによるオープニングセッションから始まり,ソリューショントラック,テクニカルトラック,Webトラック,iPhone&iPadトラックなどFileMakerの多様性を表すさまざまなセッションが設けられた。また,ショウケースでは,FileMakerソリューションの受託開発企業やコンサルタントのアライアンスであるFBA(FileMaker Business Alliance)のメンバー企業がブースを出展し,製品や導入事例のアピールを行っていた。
今年は2日目にメディカルトラックが設けられ,医療分野におけるFileMakerの活用事例について,3つのセッションで5題の講演が行われた。
最初のセッションは,「災害時病院情報統合管理システムMedPower」。ケース1として,吉田茂氏(名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンターセンター長)が「災害時病院情報統合管理システム・MedPowerの全体像」を講演した。
MedPowerは,病院の被災状況や稼働状況,応援医師派遣登録などが可能で,FileMakerとWebで構築され,医療関係者自身が直接,情報の登録や変更を行えることが特長だ。
吉田氏は,阪神・淡路大震災を被災者として経験したが,災害時には当事者(ウチ)とそれ以外(ソト)で大きな意識の隔たりが生じることを指摘した。吉田氏は,今回の東日本大震災を“ソト"の立場で実感するに連れ,かつての“ウチ"の立場を知るだけに強い焦燥感に駆られたことが,今回の災害時病院情報統合管理システムの構築につながったという。最初は,吉田氏の専門領域である小児科を対象にしたPedPowerを構築,続いてMedPowerに拡大し,専門領域を絞ったObsPower(産婦人科),CardioPower(循環器)と展開して,4月10日までに公開した。
MedPowerでは,電気や水道と入ったライフラインの状況や,透析や手術の対応状況などの病院機能の情報を入力参照できる。PedPowerでは,小児科領域に特化し小児科の特殊な手術やECMO(膜型人工肺)などへの対応や入院体制などを,ObsPowerでは妊娠分娩管理に関する情報を提供,CardioPowerでは日本循環器学会認定施設、学会震災対策室発表の情報を中心に情報を集約している。
災害後に起こる患者と医師の偏在,医療機器や薬剤などの需給のアンバランスをリアルタイムの情報共有によって,解消する仕組みだ。今回の構築では,迅速性が求められ公開する内容の専門性もあり,医師自らがシステムを簡単に構築できるFileMakerが大きく役立ったと吉田氏は述べた。
ケース2では,CardioPowerについて太田原顕氏(山陰労災病院 循環器科第3循環器科部長)が,CardioPowerの概要と構築にあたってのデータ集約の問題点を発表した。
2つめのセッションは,「医療情報システムの情報をiPadで俯瞰する,2施設での試み」として,ケース1「独立行政法人国立病院機構大阪医療センターの電子カルテ」を産婦人科の岡垣篤彦氏が,ケース2「東京都立広尾病院の参照型電子カルテ」を小児科医長IT推進担当兼務の山本康仁氏が講演した。
最後のセッションは,「月間 2500件の確実な往診が使命の在宅療養を支える訪問管理システム」と題して,浅海直氏(板橋区役所前診療所)と有ヶ谷薫氏(株式会社スプラッシュ)が発表した。
板橋区役所前診療所は,1996年に在宅医療専門の診療所として開設され,現在は在宅療養支援診療所として医師6名を中心にスタッフ57名で診療を展開している。同診療所では,患者情報データベースと施設訪問スケジュール管理,在宅訪問スケジュール管理を別々のシステムで運用していたが,患者数ならびに訪問件数の増加に伴い,統合的な管理とモバイルでの利用が可能な訪問管理システムとして,FileMakerをベースにした「Beluga」を株式会社スプラッシュと構築した。
6名の医師が,訪問先の患者情報をいつでもどこでも共有できるように,iPadを利用してモバイルでも情報参照が可能になっている。また,1200人を超える患者の訪問予定を,自動で作成する機能を搭載し,医師や患者の都合や予定を見ながらドラッグ&ドロップで簡単に変更でき,適切なスケジュール作成を支援する訪問診療スケジューリング機能などを紹介した。 |