10月27日(木)〜29日(土),第51回日本核医学会学術総会(会長:小須田 茂・防衛医科大学校),第31回日本核医学技術学会総会学術大会(大会長:荒井 孝・埼玉県立小児医療センター放射線技術部)が,つくば国際会議場(茨城県)にて開催された。なお,今回の学会では,全国の放射線医療現場にも影響を及ぼした福島第一原発事故や昨今のテクネチウム製品供給問題を議題にした合同シンポジウムが開催された。
1日目の27日には,緊急合同シンポジウム「福島第一原子力発電所事故による放射性物質漏えいについて」が開催され,「チェルノブイリ原発事故について」福島原発との対比」「健康への影響と医療上の対応―放射線生物学の観点から」「被曝・汚染患者の受入について」「正確な情報収集」「医療関係者に必要な知識」をテーマにした講演が行われた。そのほか,PET核医学ワークショップ「FDGや15Oガス以外のPET薬剤を臨床使用するための注意点と今後の展開」やシンポジウム1「ガンマ線検出器の開発動向と臨床応用」が行われた。
2日目の28日には,合同シンポジウム「国産化99Mo/99mTcの運用に向けての課題」が,井戸達雄氏(日本アイソトープ協会),遠藤啓吾氏(京都医療科学大学)を司会として行われた。
日本は,テクネチウム製剤の供給のすべてを輸入に頼っており,2009年5月に主要製造元であるカナダの原子炉(NRU)が停止し深刻な供給不足が発生した(インナビ・ボイス「食料だけではない,輸入頼みのテクネチウム-99mの供給問題」参照)。現在は,NRU炉は復帰し安定供給に戻っているが,モリブデンを製造する世界の原子炉のほとんどが老朽化しており,今後の継続的な稼働が不透明な状況だ。NRU炉は,とりあえず2016年までの更新は決定したが,次の更新時期が迫る2015年ごろが新たなタイムリミットになる。今回のシンポジウムでは,供給不安を受けて官民が合同で行ってきた国産化を含めた安定供給に向けた取り組みの現状を報告した。
最初に,「Mo-99原料の国産化に向けての現状と課題」を講演した中村吉秀氏(アイソトープ協会)は,現在の供給元はカナダのほかオランダ,南アフリカ,ベルギーと多様化しているほか,輸送方法も旅客便の利用が可能になり安定化しつつあるが,日本と同じように輸入に頼っていた米国が100%国産化に向けて動き出しており,日本としても今後の方針を決める必要があると述べた。そのために,内閣府の元に産官学が協力した「モリブデン-99/テクネチウム-99m安定供給のための官民検討会(以下,官民検討会)」が,2010年10月から2011年7月まで検討を行い,7月7日に「『我が国のテクネチウム製剤安定供給』に向けてのアクションプラン」を発表した。さらにこれを引き継いで,2011年10月から日本アイソトープ協会が「Mo-99国内製造の事業化に向けた検討委員会」を立ち上げて,国産化に向けた検討と民間事業者を中心とした“事業化"についての具体的な議論を始めている。中村氏は,「将来的な安定供給のためには,国産化が不可欠と考えて事業化に向けた継続的な検討を行っていく。福島原発の影響は大きいが,技術や制度を含めた具体的な取り組みを進めていきたい」と述べた。
続いて,国産化を進める際に必要な取り組みについて,研究用原子炉(日本原子力研究開発機構大洗研究所材料試験炉:JMTR)を用いた方法について大山幸夫氏(原研・東海研究開発センター)が,加速器製造法による99Mo/99mTc生成(n,2n法)について永井泰樹氏(原研・原子力エネルギー基盤連携センター)が,PETセンターのサイクロトロンを利用したMo-99およびTc-99の製造と供給について藤林靖久氏(放射線医学総合研究所)が講演した。また,分離・抽出・濃縮方法など製造上の課題を山林尚道氏(千代田テクノル)が整理し,製剤としての流通させる際の課題を森川康昌氏(日本放射性医薬品協会)が紹介した。
最後に,「我が国におけるMo-99の国内安定供給の方向性」を,核医学会の立場から井上登美夫氏(横浜市立大学医学研究科 放射線医学)が講演した。日本核医学会は,2010年に日本医学放射線学会との連名で国内供給体制の確立をめざすための省庁横断的な産・官・学の枠組みづくりの要望を提出し,これをひとつのきっかけとして官民検討会が発足した。井上氏は,官民検討会が報告した「『我が国のテクネチウム製剤安定供給』に向けてのアクションプラン」を紹介し,国内での生産を考えた場合に核不拡散や廃棄物処理の問題から,高濃縮ウランおよび低濃縮ウランの利用以外の方法を検討することが前提で,製造の選択肢として「研究炉」,「発電炉」,「加速器」の利用を中心に検討を行ったと述べた。ビジネスモデルとしては発電炉を利用する方法が有力で,沸騰水型軽水炉2基で日本の需要をまかなえる可能性があったが,福島第一原発の影響で不透明となったことを紹介した。アクションプランでは,5年をめどにテクネチウム製剤の販売を開始するなど国産事業化をめざすことを提言している。
そのほか,日本核医学会学術総会のシンポジウム3「増え続ける認知症における地域連携,治療の進歩」では,増加の一途をたどるそれぞれの地域でどのように対処していくのか,背景分野の異なる演者がそれぞれの立場から講演をした。信州大学精神医学講座の天野直二氏からは,認知症発見の歴史や,アルツハイマー病(AD)を中心とした病理の解説,治療戦略について解説があり,東北大学加齢医学研究所脳科学研究部門老年医学部門の荒井啓行氏からは,現在の症状緩和薬から根本治療薬の開発に向け,現在の研究開発状況と課題について解説があった。荒井氏はその中で,診断・治療におけるpreclininal ADの概念の導入や,複数の発症機序に効能のある治療薬の開発が重要であると述べた。また,岩手医科大学内科学講座神経内科・老年科部門の高橋 智氏からは,早期発見・早期対応を主眼とした認知症の地域連携をテーマに,同氏の岩手県内における学童指導の経験や,実際の患者さんに見られる問診の傾向などの紹介しつつ,高齢の認知症患者が"いま"を心地よく感じて過ごしてもらえるような,やさしい社会を地域連携等で実現していくべきだと締めくくった。このほか,総合討論では,会場より認知症の告知に関して質問が出,高橋氏は告知すると答え,その理由として患者のその後の医療機関探しにつながってしまうためとした。
シンポジウム4「日本核医学会における分子イメージング戦略の方向性」では,横浜市立大学の井上登美夫氏,放射線医学総合研究所の藤林靖久氏の司会のもと,日本核医学会分子イメージング戦略会議の経過報告が,PETイメージングの標準化と品質管理,PET薬剤製造標準化,PETを活用する臨床試験ネットワークの構築,PETイメージングと先進医療のテーマで行われた。分子イメージング戦略会議とは,同学会による分子イメージング臨床研究に用いるPET薬剤についての基準(製造基準,非臨床安全性基準,臨床評価基準)を提案し,臨床研究→先進医療・治験→診療へのシームレスな支援を実現するために発足したワーキンググループである。標準化と品質管理については,部位が限られるもののJ-ADNIのPET QCを参考にしPET撮像条件の統一化を図り,また,PET撮像の施設認証などの検討中の案件について報告があった。臨床試験ネットワークの構築に関しては,米国核医学会の臨床試験ネットワークの事例紹介が行われ,米国のネットワークと情報を共有することで世界規模の臨床試験に参加し損ねないようにしないといけないと指摘があった。また,学会がバイオマーカー等の開発を,企業が治療薬の開発を担うことでスムーズに臨床試験が行えるような仕組みの構築に取り組んでいきたいと報告があった。
最終日の29日には,「糖尿病および合併症における核医学検査の適応に関するガイドラインの作成」「99Mo,99mTc供給問題とその対策WG」「放射能の投与量と収集時間が画質に与える影響に関する基礎検討」「造影PET/CTのエビデンス確立と標準化プロトコールの作成」「核医学診療のあり方に関する医療経済学的分析」についてのワーキンググループ報告や3つのシンポジウムが開催された。
併設展示会は,島津製作所,日立メディコ/フィリップスエレクトロニクスジャパン,東芝メディカルシステムズ,GEヘルスケア・ジャパン,シーメンス・ジャパンなど24社が出展した。
次回,第52回日本核医学会学術総会(会長:玉木長良・北海道大学病態情報学講座・核医学),第32回日本核医学技術学会総会学術大会(大会長:鈴木幸太郎・北海道大学病院放射線部)は,2012年10月11日(木)〜13日(土)に札幌にて開催される予定である。 |