6月18日(土),東京大学医学部附属病院入院棟A 15階大会議室にて,「第10回化学放射線治療科学研究会」が2008年3月以来,2年ぶりに開催された。昨今,がん治療の標準的な治療法として認知度が高まってきた高精度放射線治療,および粒子線治療の最新技術がひと通りそろった,「X線治療装置での高精度放射線治療」「最新の粒子線治療装置」という二部構成のプログラムということもあり,約200人もの聴講者が来場し会場から溢れるほどの大盛況であった。
冒頭,東京大学医学部附属病院放射線科准教授/緩和ケア診療部長の中川恵一氏が挨拶に立った。放射線治療にかかわる医学分野と理工学分野の架け橋となるような場をめざし開催されてきた同研究会である。第9回が開催された2008年以降も,放射線治療分野は日進月歩で発展してきた。しかし,各社の開発技術や臨床研究などの情報については,臨床の現場および各メーカー間で共有されていないのが現状である。そのため,それらの情報を得,患者利益につなげるため,今回は薬事承認前のものも含めて出せる範囲で,あくまで研究として各社,臨床の場から情報を提供してもらい共有しようという趣旨で開催したと述べた。
「X線治療装置での高精度放射線治療」の部では,まず,社会医療法人財団石心会 新緑脳神経外科の井上光広氏,(株)日立メディコ核医学治療製品営業本部の兪 栄氏,三菱重工(株)機械・鉄構事業本部機械事業部新製品部医療システム技術課の吉田光宏氏,シーメンス・ジャパン(株)イメージング&セラピー事業本部の津布久 繁氏,(株)バリアンメディカルシステムズの菅谷健一郎氏,(株)アキュセラ代表取締役の田辺英二氏が各社治療装置の技術や特性を紹介した。
井上氏は,「CyberKnifeによる追尾型定位放射線治療」というテーマで,アキュレイ社製CyberKnifeの動体追尾照射機能“シンクロニー”の精度検証とその臨床経験の報告をした。兪氏は「TomoTherpyでの高精度放射線治療」について,構造的な安定性による高いアイソセンター精度,装置の強度,CTイメージングと治療のビームソースの共有化など,リングガントリ型オールインワン装置としての特性を中心とした同装置の紹介を行った。吉田氏は「MHI-TM2000 三菱重工製放射線治療システム〜現状と今後の展望〜」というテーマで,“REAL ACCURACY FOR TREATMENT”“REAL INTEGRATED SYSTEM”“MOTION MANEGEMENT IN REAL-TIME”という3つのコンセプトをめざし開発されたMHI-TM2000の装置特性,特に今春5月にリリースされたばかりの独自のジンバル機構による動体追尾照射機能を説明した。津布久氏は「SIEMENSにおけるIn Line IGRT」について,MVision(3D IGRT System),In-Line kView(High Image Quality),CTVision(CT同室設置)の3つのコンセプトに分けて説明した。同社装置では,同社インターフェイス“syngo”をベースにIGRTが行え,そのメリットとして,治療直前の位置照合と修正のワークフローや,術者および患者の負担軽減などを挙げた。菅谷氏は,6月に薬事承認が下りたばかりの「TrueBEAM」について,その概要と治療アイソセンターと取得画像の位置照合ソフト“IsoCal”を紹介した。 田辺氏は「次世代放射線治療装置の開発(ロボット追尾型放射線治療装置)」というテーマで,放射線治療装置開発の歴史から発想の転換を得ることが重要し,現在研究開発中の小型加速器と角度フリーを実現する専用寝台を備えたロボット型治療システムを次世代治療装置として紹介した。
続いて,東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの水野和恵氏が「4次元呼吸ファントム」と題し,水野氏らが標準的な日本人成人の胸部のCT画像を元に,三次元プリンターなどを使用して作製した四次元呼吸ファントムの有用性を示した。呼吸性移動による胸部の過剰照射による副作用を指摘し,それを考慮した四次元放射線治療法の研究を検証するためには,腫瘍の複雑な動きを模擬でき,位置決め精度・再現性が高く,できるだけ人体に近い形状・電子密度であることが重要とした。水野氏らが作製した四次元呼吸ファントムは上記条件を満たした上,既存の市販ファントムより安価だという。動作精度の検証の結果も報告し,四次元放射線治療のイメージングシステムの検証に有用であることが示されたと締めくくった。中川氏は,「東大病院におけるIGRTと四次元同時CBCTによる肺VMAT」と題し,これまでの研究開発等について紹介をした。PTV内の均一性は良いDynamic CRTと,OARの線量は低いDynamic avoidance CRTの両者の長所を融合したVMATの開発やレジストレーション機能の研究などを解説し,臨床における4D VMAT CTと4D kVCTの位置合わせの比較では前者の方がより正確であったと報告した。
次の「最新の粒子線治療装置」の部では,国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部粒子線生物学室の西尾禎治氏,住友重機械工業(株)量子機器事業部の平林誠之氏,三菱電機の原田 久氏,(株)CICS取締役の藤井 亮氏,(株)千代田テクノルアイソトープ・医療機器事業本部プロトン事業推進室の後藤紳一氏,(株)日立製作所放射線治療システム設計部システム計画グループの秋山 浩氏が登壇し,陽子線治療装置の現状と,装置の小型化や照射法などを中心とした最新技術について解説した。
西尾氏は,現状の治療では,治療計画時の臓器情報や患者体内での腫瘍位置の可視化は可能だが,照射ビームが腫瘍に当たっているのか判断できない点を重要な問題として指摘した。そこで西尾氏らは,同院のビームライン上にPET装置を装備させた陽子線治療装置にて,照射後の体内の原子核破砕反応をPETで可視化するための研究を行い,成果として,的確な陽子線照射の実現と,腫瘍の線量感受性・効果判定および治療メカニズムの究明に対する可能性が示唆されたという。
続いて,平林氏は国立がん研究センター東病院などに納入している230MeVサイクロトロンの性能および加速器として利用する点や,従来機に比べ建屋をコンパクト化できる短軸ガントリによるシステムの小型化について紹介した。原田氏は,同社の治療装置導入実績や陽子線専用機,炭素線専用機,陽子線+炭素線複合機のラインナップをはじめ,照射法や治療計画システムなどの最新技術の紹介を行った。藤井氏は,「加速器を用いたBNCTシステム」というテーマで,本年1月に発表された同社と国立がん研究センターとで共同研究が行われる,加速器を用いるホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)について発表を行った。まず,BNCTの特長や重要な技術ファクターを紹介し,次に,共同研究の目的である従来原子炉を用いてきた同治療法に加速器を代用するための加速選定の過程や装置構成などを解説した。同臨床研究は,実用化への目処が立つような研究となれば画期的なことであるからこそ,関係者の高い関心を集めるとともに,加速器に海外メーカーを選定した理由や加速器におけるエネルギー出力不足への懸念などが指摘されるなど,会場からは厳しい意見も聞かれた。後藤氏は,同社が販売を請け負っているStillriver社小型陽子線治療装置の特長・性能について発表をした。Stillriver社の治療装置は,高磁場超伝導シンクロサイクロトロンを有するガントリ一体型サイクロトロンにより,重量20t以下,建屋容積13m×14m,消費電力250kW,ビームラインなし,加速器運転員が不要などを実現し,民間病院でも導入可能な装置であり,治療計画やIGRTを行うためのシステム面での充実も強調した。最後に,秋山氏は「日立プロトン−日立陽子線治療システムのご紹介」と題して,これまでの導入実績やスキャニング照射法を中心としたシステムによる小型化陽子線治療装置の開発概要を紹介した。同社では,これまでに粒子線治療装置およびシステムのすべての構成機器を設計し製作してきたという強みがあると締めくくった。
今回は,医薬品医療機器総合機構(PMDA)からも数名が聴講へ来ていた。その中で今回は急きょ,医療機器審査第一部の冨岡 穣氏が中川氏をはじめ現場からの質問に答えることとなった。冨岡氏は立場上,規制する側のPMDAの方からアプローチはかけられないが,日本の医療をより良くしていきたいと考えているのは医療関係者やメーカーと同じであるので,従来より連携を深めるためにもコミュニケーションを大切にしたい。だからこそ,メーカー側には何か考えなどがあったら,もっと積極的にアプローチしてほしい。また,現状よりも人員等を増やしていく予定なので,将来的にはFDAを超えるような審査体制を整えられるようになりたいと抱負も語った。
以上,放射線治療に関する情報共有を目的に2年ぶりに開催された同研究会であるが,今後もこのような場を継続して設けていきたいと,中川氏は締めくくった。 |