2011年2月5日(土),ベルサール八重洲(東京都中央区)において,「医療におけるクラウドコンピューティング」と題したセミナーが開催された。主催はメディキャスト(株)が運営する,医療IT製品・関連製品の総合展示場のメディプラザ。GEヘルスケア・ジャパン(株)が協力した。社会的にクラウドコンピューティングが広まる中,2010年2月の厚生労働省の通知で,診療情報の民間事業者による外部保存が認められたことにより,医療分野においても,その技術が普及しようとしている。このセミナーは,「クラウド」というキーワードに対する医療関係者の関心の高まりを受け,どのように活用していくかを探ることをねらいに行われた。
最初に(株)日本経営医療ITコンサルタントの嶋崎正貴氏が,「クラウドコンピューティングで変わる医療」をテーマに講演した。嶋崎氏は,クラウドコンピューティングが医療機関のIT投資に対するコストやリスク抑制になると説明。SaaS,PaaS,IaaSといったサービスモデルを説明した。また,法制面の現状についても言及。クラウドコンピューティングの導入にあたって,医療機関は目的を明確化することが大事だとして,組織体系,地域ニーズ,導入コストを知ることがポイントだと述べた。
続く2番目の講演では,GEヘルスケア・ジャパンITヘルスケア本部の本部長である大塚孝之氏が,「GEにおけるクラウドコンピューティングへの取り組み」を解説した。大塚氏は,GEが2015年までに60億ドルを投資するとして,ワールドワイドで展開しているヘルシーマジネーションを紹介。さらに,日本国内での事業開始をめざしているデータセンター事業について言及した。また,大塚氏は,クラウド化により医療情報は「所有から利用へ」と考え方が変わっていくと指摘。これによりコスト削減,安全性確保,管理負担の軽減,地域連携が実現すると述べた。大塚氏は,データセンターを活用したデータの運用法にも触れ,短期間のデータ保存は,医療機関内にある短期保存サーバ(STS),長期保存はデータセンターの長期保存サーバ(LTS)を利用するという方法を解説した。大塚氏は,このほかにもモダリティの高度化によってデータ量が増大している状況を取り上げ,この点からもクラウドの活用が大事であるとの見方を示した。
休憩を挟み,北里大学病院病院長補佐(情報システム担当)の村田晃一郎氏が,「クラウドコンピューティング時代に向けて病院は何をすべきか─北里大学4病院の病院情報システム一括更新プロジェクトについて─」をテーマに講演した。村田氏は,医療におけるクラウドコンピューティングのニーズの高まりについて,日本の疾病構造の変化により疾病管理が長期化しデータ量が増えていることを理由の1つに指摘。データ量が増大する中,医療機関には,安全で医療と経営を両立したシステムを構築するITガバナンスが求められていると述べた。さらに村田氏は,導入・運用コストの観点から,病院内に閉じたシステムは,維持できなくなっていると指摘した。このほか,村田氏は,北里大学の関連病院4施設間において構築を進めているプライベートクラウドでの施設間連携システムについて解説した。
最後の講演では,京都ProMed(株)代表取締役社長,画像診断センター長の河上 聡氏が登壇した。演題は「クラウドコンピューティングで本格化する遠隔画像診断─京都ProMedから見た変貌する日本の医療システム─」。河上氏は,彦根市立病院勤務時に取り組んだ,京都大学医学部附属病院との遠隔画像診断の実証実験など,これまでの経験について説明。外部データセンターを活用した京都ProMedにおける遠隔画像診断の事例について,ニュース映像も交えて紹介した。また,河上氏は,データの外部保存により,医療機関は安全な運用ができ,更新時のデータ移行が不要になり,地域連携が進むといったメリットを挙げた。その上で,今後PACSは放射線科医だけでなく,施設内全医師の視点で選定する必要があるとし,クラウドコンピューティングにおいては,マシンインターフェイスよりもヒューマンインターフェイスが重要だとの認識を示した。
この後,質疑応答が行われた。会場からは遠隔画像診断ビジネスの考え方や今後のシステム担当者の業務の変化などについて質問があり,クラウドコンピューティングに対する関心の高まりを改めて感じさせるセミナーとなった。 |