一般社団法人医療統計情報プラットフォーム(CISA)研究会は2010年12月11日(土),品川インターシティの京都大学東京オフィスにおいて,シンポジウム「CISA Study:医療統計情報の有効な活用事例」を開催した。CISA研究会は,DPCデータなどの医療統計情報の活用を図ることを目的として,全国の大学病院を中心に,2005年9月に設立された。2010年4月の時点で,13国立大学がデータを提供しており,匿名化された医療統計情報は,臨床薬学研究や医薬品の効能調査,医療ニーズの調査などに活用されている。シンポジウムは今回で3回目の開催となる。
当日は,まず代表理事の吉原博幸氏(京都大学病院医療情報部教授)が,CISAの活動について紹介した。CISAのデータは,月次に各医療機関から,患者属性情報,入退院歴,疾病履歴,外来履歴,診療行為,処方,DPC履歴の各ファイルがデータベースに送信・登録される。吉原氏は,こうしたデータの活用の仕組みを説明した。
続いて,CISAの研究事例として,7題の発表が行われた。
最初に,宮崎大学医学部附属病院医療情報部教授の荒木賢二氏が,「病院経営分析へのCISAデータ活用〜とくに薬剤費について〜」と題して発表した。荒木氏は,注射におけるジェネリック医薬品の導入におけるCISAデータの比較分析を行った結果を報告した。2番目の演題では,「手術をキーとした在院日数ベンチマーク分析」をテーマに,長崎大学大学院医師薬学総合研究科医療情報学教授の本多正幸氏が発表した。本田氏は手術回数1回の症例の術前と術後の在院日数データをを13国立大学間で比較を行い,同大学が他大学に比べ長いことを明らかにした。この後,大阪大学医学部附属病院医療情報部の張 祁雁氏が,「電子カルテデータによる薬剤疫学研究事例 PCI後再狭窄のClopidogrelによる予防効果に対するPPIの抑制作用の評価」をテーマに発表した。張氏は,同大学のデータウエアハウスを用いたproton pump inhibitor(PPI)併用による再狭窄について評価を行った結果を紹介した。
4番目の発表では,千葉大学医学部附属病院企画情報部教授の高林克日己氏が,「関節リウマチの生物製剤使用状況」をテーマに登壇した。高林氏は,医薬品の中でも利用金額が高い抗リウマチ製剤と併用する医薬品について,CISAデータと比較,分析を行い,その結果を説明した。次に,群馬大学医学部附属病院の岩澤由子氏が,「CISAデータによるNICU(新生児集中治療室)診療行為分析」と題して発表した。この発表では,13病院のNICU患者6749人を対象にした入院日数などの分析結果が報告された。6番目の発表では,「ベンゾジアゼピン系薬剤の処方実態調査(第2報)」として,筑波大学附属病院医療情報部教授の大原 信氏が発表した。大原氏は,ベンゾジアゼピンの精神科と一般診療科での処方の実態について比較を行い,一般診療科の場合は高齢者に短時間作用型が多く処方されるという結果を説明した。7番目の発表では,新潟大学医歯学総合病院医療情報部准教授の寺島健史氏が「CISAによるパーキンソン病内服治療についての大学間ベンチマーク分析」と題して発表した。寺島氏の発表では,パーキンソン病の治療薬について,カテゴリー別に処方患者と処方率を集計,大学間での比較した結果が紹介された。
この後,パネルディスカッションが行われた。テーマは,「医療保健情報の解析環境整備にむけて〜CISAデータでどこまで解析できるか〜」。座長を金沢大学附属病院経営企画部教授の長瀬啓介氏が務め,吉原氏,高林氏のほか,愛媛大学医学部附属病院医療情報部准教授の木村映善氏,佐賀大学医学部附属病院医療情報部の藤井 進氏がパネリストとして参加した。このパネルディスカッションでは,まず木村氏から,研究者がCISAの現在のような集計データではなく,元データにアクセスして,より精緻な分析ができるようなデータマイニング環境を整備することが提案された。そして,プライバシーの保護などを含めた運用ポリシーや,その実現の可能性について,パネリストたちが意見を交換した。
最後には,社会保険病院中央総合病院名誉院長の齋藤寿一氏が「DPCの現状と課題」をテーマに特別講演を行った。齋藤氏は,わが国がDPCを導入する経緯や機能評価係数などの制度の推移について説明を行った。そして,DPC制度の課題として,内科系技術の保険点数への反映などを挙げて,内保連加盟学会に対し行ったアンケート結果を紹介した。齋藤氏は,講演のまとめとして,内科診療に対する評価を新設することの必要性を参加者に向かって述べた。
この後会場からは,DPC制度などについて意見が出され,白熱した議論が行われ,会場は最後まで盛り上がった。 |