松本洋一郎 氏
(東京大学)
森田 朗 氏
(東京大学政策ビジョン研究センター)
坂田一郎 氏
(東京大学政策ビジョン研究センター)
秋山昌範 氏
(東京大学政策ビジョン研究センター)
新田見有紀 氏
(東京大学政策ビジョン研究センター)
森川富昭 氏
(徳島大学)
佐藤智晶 氏
(東京大学政策ビジョン研究センター)
康永秀生 氏
(東京大学)
Azeem Majeed氏
(Imperial College London)
伊藤孝行 氏
(名古屋工業大学)
野村泰伸 氏
(大阪大学)
John D. Halamka氏
(Beth Israel Deaconess and Harvard Medical School)
Nikolaus Forgó氏
(University of Hanover)
古川俊治 氏
(慶應義塾大学・参議院議員)
岩中 督 氏
(東京大学)
活発な意見交換があったパネルディスカッション
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東京大学政策ビジョン研究センターは3月5日(金),同大学内の鉄門記念講堂において,「クリニカルデータ国際シンポジウム 2010―未来へ向けたデジタル診療情報の利活用を考える」を開催した。政策ビジョン研究センターは,同大学で多岐にわたって行われている先端的な研究に基づき,日本だけでなく国際的な課題に対する政策研究を行い,それを発信していくことを目的に,2008年に発足した。今回のシンポジウムでは,医療のIT化によって蓄積が進んでいるクリニカルデータが,医療の効率化や安全性の向上,エビデンスに基づいた研究開発や医療政策に役立てられるという視点から,海外の状況を含め現状と今後の展望について発表するセッションやパネルディスカッションが設けられた。
開会にあたって,同センター長の森田 朗氏が挨拶を行った。中央社会保険医療協議会(中医協)委員も務める森田氏は,高齢化などわが国が抱える課題について述べた上で,今後の社会のあり方を考える場であると,シンポジウムの趣旨について紹介した。この挨拶に続き,同センター教授の坂田一郎氏が,午前中に行われるプレセッションについて説明した。
プレセッションでは,「わが国におけるクリニカルデータの利活用の現状」がテーマに掲げられた。まず,同センターの特任研究員の新田見有紀氏が,「類似症例における処方パターン提示システムの開発と課題」について発表した。新田見氏は,同大学医学部附属病院のデータベースに蓄積されている診療データを利用し,患者と類似した医療内容のパターンを端末から検索するシステムの開発経験を説明した。続いて,徳島大学医学部・歯学部附属病院の病院情報センター部長の森川富昭氏が「病院経営,臨床指標をいかに病院情報システムから抽出し役立てるのか―徳島大学病院事例」をテーマに発表した。森川氏は,医療行為の見える化を図った例として,パレート分析や在院日数分析,地域連携分析などの実例を示しながら紹介した。3番目に,東京大学政策ビジョン研究センターの特任助教の佐藤智晶氏が発表した。テーマは「クリニカルデータの利活用における法の役割」。佐藤氏は,クリニカルデータの活用について,英国や米国の動向について説明した上で,わが国の法令における個人情報の扱い方などを述べた。
午後からは,シンポジウムが行われた。最初に同大学理事・副学長の松本洋一郎氏が,センター設立の目的についてプレゼンテーションを行った。松本氏は,課題先進国から課題解決先進国となるべく政策提言を行い,100年先を見据えた道筋を提示していくと述べた。
この後セッション1として「クリニカルデータの知の構造化の実例」が行われた。1番目の発表では,同大学大学院医学系研究科医療経営政策学講座特任准教授の康永秀生氏が,「Diagnosis Procedure Combinationデータベースを用いた臨床研究」と題して発表した。康永氏は,日本におけるDPCの状況について説明し,厚生労働省のDPCデータを用いた分析事例を紹介した。続いて,「イギリスにおけるクリニカルデータの疫学・医療サービス研究での利用」をテーマに,Azeem Majeed氏(Professor of Primary Care and Head of Department of Primary Care & Public Health, Imperial College London)が発表した。同氏は,NHS(National Health Service)の主導で進められているデータの二次利用について説明を行った。3番目の発表では,名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻・情報工学科准教授の伊藤孝行氏が「クリニカルデータ応用のためのマルチエージェント技術」,4番目の発表では,大阪大学大学院基礎工学研究科教授の野村泰伸氏が「多階層における生理機能の定量的統合を支援するプラットフォームの開発」をテーマにして,クリニカルデータの活用に関連したソフトウエアなどの技術開発の動向が報告された。
セッション2の「クリニカルデータの高度利用に必要な『社会システム』」では,John D. Halamka氏(Chief Information Officer, Beth Israel Deaconess and Harvard Medical School)が,オバマ政権下での米国におけるクリニカルデータ活用について,Google Healthなど民間のPHR(Personal Health Record)サービスも含めた状況を紹介した。これに続き,Nikolaus Forgó氏(Professor of law, Chair, Legal Informatics and IT Law, the University of Hanover)が「ヨーロッパにおけるEヘルスプロジェクトでのデータ保護とセキュリティ法的・倫理的側面からの検討」をテーマに,個人情報の保護基準の異なる国間でのクリニカルデータの取り扱いなどについて説明した。さらに3番目の発表として,東京大学政策ビジョン研究センター教授の秋山昌範氏が,「クリニカルデータを高度活用して効果的な予防・治療を受けるために」と題して発表した。秋山氏は,医療政策に生かすクリニカルデータとして,全数データが必要であるとの観点から,国立国際医療センターにおけるデータ収集の例などを紹介した。
この後,秋山氏が座長を務めたパネルディスカッションが行われた。パネリストには,Majeed氏,Halamka氏,Forgó氏のほか,慶應義塾大学教授・参議院議員の古川俊治氏,東京大学大学院医学系研究科小児医学講座教授の岩中 督氏が加わった。パネルディスカッションでは,個人情報保護とクリニカルデータを中心に議論が行われたが,データを活用できれば,医療の質を上げ,医療政策にも生かされ,医療費を抑えることにもつながるといった意見が出された。
最後に,まとめとして森田氏がクリニカルデータを活用することは重要だが国民の意識が整っていないと述べた。その上で,IT化やデータ活用のメリットが国民に示していくことが重要だと言及して,シンポジウムを締めくくった。 |