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取材報告

2010
第20回日本心臓核医学会総会・学術大会 開催
テーマは「マルチモダリティ時代の心臓核医学」

ラウンドディスカッション
「マルチモダリティを駆使した虚血心の統合評価 治療効果判定(バイアビリティを含む)と予後予測」

座長:
石田良雄氏(関西労災病院核医学診断部・循環器内科兼)
林 宏光氏(日本医科大学放射線医学)
1.心臓CTを用いた心筋虚血評価
  城戸輝仁氏(愛媛大学大学院医学研究系生体画像応用医学分野)
2.虚血性心疾患評価におけるMRIの有用性
  平野雅春氏(東京医科大学循環器内科)
3.心臓核医学検査に関連したマルチモダリティによる総合的な虚血性疾患の評価
  桐山智成氏(日本医科大学放射線医学)
ディスカッサー 
  佐藤裕一氏(黒沢病院附属ヘルスパーククリニック院長)
  天野康雄氏(日本医科大学放射線医学)
  笠井督雄氏(東京慈恵会医科大学附属青戸病院循環器内科)

座長の林 宏光氏と石田良雄氏
座長の林 宏光氏と石田良雄氏
城戸輝仁氏
城戸輝仁氏
平野雅春氏
平野雅春氏
桐山智成氏
桐山智成氏

ディスカッションの様子
ディスカッションの様子
佐藤裕一氏
佐藤裕一氏
天野康雄氏
天野康雄氏
笠井督雄氏
笠井督雄氏

  これまで心臓核医学や冠動脈造影(CAG)ならびに超音波検査が,心臓,冠動脈の評価方法の中心を担ってきたが,最近では心臓CTや心臓MRIなど非侵襲的なモダリティの発展により大きな転換期を迎えつつある。しかし,そのような急速な機器の進歩に対し,それぞれのモダリティの特徴を理解していないまま別々に検査が行われるようなことを避けなければならない。むしろ,これらの進歩したモダリティの特長を統合していくことによって,新しい方向を見出すべく,この場が設けられたという座長の林氏の挨拶に始まった。

  まずCT分野からは,「心臓CTを用いた心筋虚血評価」として愛媛大学大学院医学研究系生体画像応用医学分野の城戸輝仁氏が,冠動脈評価と心筋血流評価に分けて心臓CTの特長と現状および課題について講演を行った。心臓CTを用いた冠動脈評価として,CTの多列化により狭窄評価は高い精度と検査成功率を得ることが可能となった。今後は,プラークの性状評価を含めてその治療適応評価や予後の検討が期待されている。しかし,まだエビデンスも豊富ではなく,目的に合わせた撮影条件の標準化や解析法の統一が待たれるとした。心臓CTを用いた心筋血流評価については,エビデンスがまだまだ不足しており,いかにSPECTに近づけることができるか研究を行っているとし,ATP負荷併用撮影,心位相による評価,デュアルエナジー解析,心筋血流定量評価について述べた。心位相による心筋評価では,心筋細胞に入り込むSPECT薬剤とは異なり,CT造影剤は心筋内の微小冠動脈の血流現象をとらえるものとし,収縮期と拡張期でのCT値の違いから評価ができると報告した。また,デュアルエナジー解析では,シーメンス社のDual Source CTを利用した2管球2管電圧によるイメージングの有用性を紹介し,心筋血流定量評価についてはダイナミックスキャンが必要となるため被ばく線量を抑えるために画質を落として撮影し,各心筋にROIを置き,心筋と大動脈の造影効果を用いたパトラックプロット解析を行っていると報告した。最後に,心・大血管領域では冠動脈狭窄評価による病変検出と,心筋虚血評価による治療適応評価はともに重要であり,現在はCTとSPECTを融合させて虚血診断を行っているが,CTによる心筋全体のパーフュージョン評価も可能となってきたことから,いずれは冠動脈CTAとCTPの融合画像で診断が可能となるのではないかと期待しているとして締めくくった。

  続いて,CTにおけるディスカッサーとして,黒沢病院附属ヘルスパーククリニック院長の佐藤裕一氏が,CTパーフュージョンを行っていくにあたって今後の被ばく低減に関し,また,デュアルエナジー解析の虚血の評価におけるATP負荷の必要性について意見を述べた。

  次に,MR分野からは,東京医科大学循環器内科の平野雅春氏が「虚血性心疾患評価におけるMRIの有用性」と題して,1回45分間の検査でパーフュージョン(虚血評価),wall motion(心機能評価),T2強調像(心筋性状評価),遅延造影(LGE:心筋性状評価),冠動脈MRA(冠動脈評価)が可能なone stop shoppingを軸に講演を行った。その中で特に,遅延造影による心筋バイアビリティ評価の有用性について強調し,他のモダリティに比べ小さな梗塞領域も描出でき,予後予測に貢献できるとした。また,MRを用いたプラークイメージングについては,3Tのポテンシャルへの期待を寄せた。平野氏は,さまざまなイメージングが可能なMRIではシングルモダリティでフュージョンイメージングが可能となってくるであろうと締めくくった。

  続いて,MRIのディスカッサーとして日本医科大学放射線医学の天野康雄氏が,心臓MRIを用いた不整脈源の描出にテーマを絞って講演を行った。MRIの特長として梗塞後の心室性不整脈のオリジンを探ることがきるとし,心室性不整脈とこれに伴う臨床症状を呈し,虚血性心疾患のリスクを有する心筋梗塞の既往のある症例では心臓MRIは有用であると述べた。自検例として,遅延造影MRIで不均一な造影効果を示す梗塞(clinically unexpected scar)と,遅延造影MRIで辺縁凹凸を示し,貫壁率が20〜50%程度の梗塞(gray zone)の2症例を紹介した。

  最後に,核医学分野から,日本医科大学放射線医学の桐山智成氏が「心臓核医学検査に関連したマルチモダリティによる総合的な虚血性疾患の評価」と題して,核医学検査による虚血心の評価,虚血評価の必要性,SPECT/CT融合画像のトピックに分けて講演した。その中でも,狭窄について解剖学的狭窄と機能的狭窄があり,心筋虚血評価から得られる機能的狭窄の重要性を強調した。マルチモダリティの時代では,心臓核医学とCTなどの解剖学的情報とを併せてより良い診断を実現できるのではないかと締めくくった。

  続いて,ディスカッサーとして東京慈恵会医科大学附属青戸病院循環器内科の笠井督雄氏が,核医学検査では,心房細動があっても虚血と心機能の評価,予後予測が十分に可能であり,CTのように造影剤を使用する必要もない。高齢者には腎臓機能と心房細動が予後規定因子として重要であり,それらを評価できる心臓核医学検査の有用性を強調した。また,機能的狭窄がなければ心イベント発生率が低いため,負荷心筋SPECTによる冠血流予備量比(FFR)測定が重要とした。

  講演終了後,各演者が集まりラウンドディスカッションが行われた。ディスカッションは,1)機能的狭窄など機能的な血流障害を判断しようというフィールドにおけるCT,MRIの進歩,2)CT,MRIにはSPECTにはない情報が得られるメリットがあり,CTのプラーク診断,遅延造影MRIによるバイアビリティ評価が可能になるかもしれない点,3)フュージョン画像について,CTによる形態画像とSPECTとの融合によって診断へのより良い貢献が実現できる点をトピックに行われた。

  同ディスカッションでは,myocardial perfusionとしてSPECTよりも優れているという報告が見られるようになってきたほど,CTやMRIの進歩には目をみはるものがあるが,今後求められる要件として,安全,簡便かつ再現性があること,定量的なマーカーになりうることが必要だと考えられ,CT,MRIにおける定量性の確保に課題が残る点が指摘された。