特定非営利活動法人日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)は,10月7日(火),東京ミッドタウン・ウエスト2Fホール(東京・港区)において,「JAMINA東京セミナー」を開催した。今回のセミナーは,8月8日(金)に大阪大学中之島センター佐治敬三ホールで行われた「JAMINA大阪セミナー」の盛況を受けたもの。大阪セミナーと同様「医療現場における完全ペーパーレス化は可能か?」がテーマとなった。
まず,開会の挨拶として,事務局長である穴水弘光氏が,JAMINAの活動の趣旨やこれまでの実績などを説明した。これに引き続き,総合司会である大阪大学医学部附属病院医療情報部部長の武田裕氏が,「医療情報システムにおけるDACS(文書保管通信システム)の意義」と題して講演した。武田氏は,自院におけるIT化の歴史を振り返りながら,診療プロセスが複雑なため,完全なペーパーレス運用が困難だと説明した。その上で,紙媒体の診療情報を統合する情報システムとして,DACS(document archiving and communication system)を提唱。PACSとの比較や課題などを説明した上で,DACSを広めていくためには,低コストで医療の質や効率,サービスの向上につながるシステムが求められると述べた。
続いて,「レガシーなペーパーレスHISの緩やかな軌道修正」をテーマに,国立成育医療センター病院臨床研究開発部医療情報室室長の山野辺裕二氏が講演した。同院では,2003年から電子カルテシステムを運用しているが,2008年のEDNA2へのシステム更新では,データの収集と保存を中央集中型から適材適所型へと変更。同時にグループウエアと病院情報システムの統合をめざした。山野辺氏は,その経緯を説明し,統合の問題点について言及した。この後,岐阜大学医学部附属病院医療情報部准教授の白鳥義宗氏が,「チーム医療における情報共有化のためのペーパーレス化」をテーマに発表した。白鳥氏は,インテリジェントホスピタルをめざして,2004年の新病院開院とともに稼働した病院情報システムについて説明。紹介状などの紙の書類を集中的にスキャナで電子化する同院の運用を紹介した。さらに白鳥氏は,チーム医療を行うために,クリティカルパスを用いたデータの可視化・標準化・最適化することの重要性について述べた。
休憩を挟んで,東海大学医学部基礎医学系医学教育・情報学教授の灰田宗孝氏が講演した。講演のテーマは,「外来診療におけるペーパーレス化は必用か?」。同院は2004年から,外来診療においてNECの「NEOCIS」というシステムを稼働させた。バーコード付きの紙カルテを使用し,それをスキャナで読み込みJPEGファイルで保存。モニタ上で閲覧する。灰田氏は,これによりスピーディで効率的な診療ができていると述べた。その上で灰田氏は,外来診療では必ずしもペーパーレス化は必要ないとまとめた。これに続き講演した津山中央病院副院長で川崎医科大学特任教授の宮島孝直氏も,診療時の完全ペーパーレス化を否定する立場に立った。宮島氏は,電子カルテシステムでの診療録の質・量的管理は紙カルテより困難だと説明。津山中央病院では,診療時には紙を使用し,富士ゼロックス(株)のシステムで原本性を確保したデジタルデータにして,閲覧用としてペーパーレス化するという運用にした。宮島氏は,これにより診療現場での効率を確保しつつ,データ管理を容易にしたと報告した。
すべての講演が終わった後に,講演者全員によるパネルディスカッションが行われた。武田氏が提唱したDACSについての意見や,原本性をいかに確保するか,紙データをスキャニングしてデジタル化する運用方法のコストをどのように考えるかなど,会場からの質疑応答を交えて話し合われた。会場はほぼ満席となり,「どこまでペーパーレスにできるのか」という参加者の関心の高さがうかがわれた。
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