第16回日本乳癌学会学術総会が9月26日(金)と27日(土),大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて開催された。13年ぶりの大阪開催ということで,会長は稲治英生氏(大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科主任部長)が務めた。
同学会は乳がん罹患数の増加や注目度に伴い,乳腺外科・内科の医師,看護師などを中心に約9000名の会員数にまで発展。今回の演題応募数は1500題を超え,2日間の参加者は約4700人にのぼるなど,乳がんがいままさにホットな領域であることをうかがわせた。
今回の総会テーマは,「標準化から個別化へ」。稲治会長によれば,EBMのひとつの到達点である標準化がある程度達成されたいま,次に取り組むべき課題は個別化であるとの信念によるテーマだという。薬物療法でのオーダーメード治療に限らず,治療から検診・診断も含めたすべての面での個別化を想定したとのことで,プレジデンシャルシンポジウム「乳癌診療−標準化から個別化へ−」をはじめ,遺伝子・分子生物学研究で著名な中村祐輔氏(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授)による特別講演「乳癌に対するゲノム医療の進展」などの企画が注目された。同学会が主導したEBMに基づく『乳癌診療ガイドライン』は2004年以降,「薬物療法」「外科療法」「放射線療法」「検査・診断」「疫学・予防」と順次刊行され,その後改訂版が逐次刊行されている。これらのガイドラインおよび「乳癌取扱い規約改訂版」に対する説明会も設けられた。
また,9月22〜24日に倉敷で共同開催された第26回International Association for Breast Cancer Research(IABCR)を記念して,JBCS-IABCR Joint Symposiumが行われた。
乳癌の治療を中心にした臨床研究が中心的テーマである同学会において今回,画像診断をテーマにしたシンポジウム「乳癌診療における画像診断の進歩」(座長:岩瀬拓士・癌研究会有明病院乳腺科,角田博子・聖路加国際病院放射線科)が企画された。3Mと5Mモニタの診断能の比較,光マンモグラフィ開発,超音波エラストグラフィ,PET/CT,拡散強調画像併用全身MRI,術前化学療法における造影MRIと,現在のスタンダードであるX線マンモグラフィ以外の検査技術の最新情報が報告された。いずれの検査技術も一長一短はあるものの,十分な有用性が認められるもので,これらの画像診断の進歩が診断能の向上に寄与することが期待される。
また,検診に関するパネルディスカッションでは,「事業評価からみた乳癌検診の現状と今後の課題」(座長:大内憲明・東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科,福田護・聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科)というテーマが設けられた。近年,乳がん検診の受診率向上に向けた啓発活動が企業や各種団体を中心に精力的に実施され,2007年の受診率は20.3%になった。がん対策基本法に基づく「がん対策推進基本計画」が2007年に策定され,がん検診の受診率を5年以内に50%にすること,全市町村において精度管理・事業評価が実施されることが目標とされている。本パネルディスカッションのテーマである事業評価とは,技術・体制的指標,プロセス指標(受診率,要精検率,発見率など),アウトカム指標(がん死亡率)からなることが示された。職域の乳がん検診は,40歳未満の受診者が多く,モダリティの指針がないことや,受診データが取りにくいことなどの問題点が指摘されている。また,2008年度から,がん検診は老健法から健康増進法に移行して市町村の“努力義務”となり,職域におけるがん検診も含めて,受診率50%の目標達成が求められることとなった。しかし,強制力のない“努力義務”で,財源の裏付けもないため,財政事情が厳しい市町村の検診現場では困難な状況が問題視されている。今年4月から始まった特定健診は医療保険者に義務化されたため,がん検診が疎かになっているという批判もある。厚労省は,2009年度のがん検診関連事業に約20億円の概算要求を行ったが,がん検診の義務化や財源確保などは難しく,あくまで現場の努力を望むという姿勢である。本パネルディスカッションでは,さまざまな課題を抱える乳がん検診の現状が報告されたが,座長の大内憲明氏は事業評価を徹底させ,将来的には職域も含めたアウトカム指標(死亡率の減少)を達成していきたいと総括した。
第17回日本乳癌学会学術総会は2009年7月3日(金),4日(土),ホテル日航東京,ホテルグランパシフィックLE DAIBA(東京都台場)にて開催される。会長は芳賀駿介氏(日本医科大学乳腺科)が務め,テーマは「Humanity Based Medicine」である。 |