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取材報告

2008

平成19年度 放射線影響研究功績賞および放射線影響研究奨励賞 発表
大阪大学・中村仁信教授らが受賞


中村教授 記念楯

賞状

中村 仁信 教授
放射線影響研究功績賞の記念楯と賞状

 平成19年度放射線影響研究功績賞を中村 仁信氏(大阪大学大学院医学系研究科・教授)が,放射線影響研究奨励賞を大野 和子氏(京都医療科学大学医療科学部・教授)と高橋昭久氏(奈良県立医科大学・講師)が受賞した。平成20年3月18日(火)東京ジョンブル ロベリアホール(朝日生命大手町ビル28階)において,贈呈式が行われた。

 放射線影響研究功績賞は,放射線の生物および環境への影響,放射線の医学利用の基礎ならびに放射線障害の防止など放射線科学の分野において,顕著な業績をあげた人に対して贈呈し,もって斯界の発展に資することを目的としている。

 毎年,本受賞候補者の推薦を日本医学放射線学会理事長,日本放射線影響学会超および日本保健物理学会長に求め,学識経験者からなる本賞選考委員会の厳正な選考を経て受賞1名を決定した。

放射線影響研究功績賞 受賞者
大阪大学大学院医学系研究科・教授 中村 仁信氏
((社)日本医学放射線学会理事長 推薦)
受賞研究 「インターベンショナル・ラジオロジー(IVR)における被曝防護に関する研究」
[研究概要]
インターベンショナル・ラジオロジー(IVR)における被曝が問題になっているが,受賞者は,1997年にICRP第3委員会委員になったのを契機に,IVRにおける患者および術者の被曝と防護に関する研究を行い,IVRにおける被曝低減に貢献して高い評価を得た。即ち,最も頻度の高い手技である肝動脈塞栓術(TAE),比較的透視時間の長い脳血管塞栓術,冠動脈インターベンション,肝動脈カテーテル留置に関して,患者の皮膚被曝線量,術者の実効線量を調査し,IVRにおける平均的被曝線量を明らかにすると共に,被曝低減方策を推進してきた。また,ICRP委員として,ICRP Publication85 「Avoidance of Radiation Injuries from Medical Interventional Procedures」の作成に携わり,この新勧告の普及のために尽力した。受賞者らの努力によって,IVRにおける患者皮膚障害の発生は著しく減少した。さらに,被曝が増え続けているマルチスライスCTに関しても,小児CTガイドラインの作成や,CT撮像法の最適化の研究などから,マルチスライスCTにおける被曝低減に貢献した。

放射線影響研究奨励賞 受賞者
京都医療科学大学医療科学部・教授 大野 和子氏
(社団法人日本医学放射線学会理事長 推薦)
受賞研究 「放射線診療におけるリスクコミュニケーション」
[研究概要]
受賞者は,放射線科専門医として診療に従事する中で,放射線のリスクコミュニケーションの重要性に着目するようになり,医療従事者と患者双方への啓発活動を継続して実施してきた。放射線専門医,看護師,診療放射線技師を対象とした医療レベルの放射線影響に関する意識調査を実施し,職域毎の具体的な安全教育の手法を提案した。さらに,診療の質を保持した上での患者の線量低減策についても種々の論文を発表し,専門医の修練過程における放射線防護教育プログラムの作成にも関与した。また,(社)日本医学放射線学会に届く放射線診療に対する患者からの質問に対して,2004(平成16)年より継続して対応している。さらに,これらの質問を分析し,放射線診療に対応して不安を持つ患者への効果的な対応方法について,論文や叢書の形で発表し続けている。リスクコミュニケーションは,医療だけでなく放射線分野全般において最も重要性が増している分野の一つであり,受賞者の今後の更なる活動が期待される。


奈良県立医科大学・講師 高橋 昭久氏
(日本放射線影響学会長 推薦)
受賞研究 「放射線適応応答の分子機構の解明」
[研究概要]
受賞者は,放射線適応応答の分子機構に関する基礎研究を一貫して進めてきた。これまでに,ヒト培養細胞を用いて,あらかじめ低線量放射線を照射しておくと,次にくる高線量の放射線による癌抑制遺伝子産物p53タンパク質の蓄積およびアポトーシス誘導が起こらないことを発見した。その後も,培養細胞でみられたこの現象について,マウス個体でも見られることを実証している。最近では,染色体異常(二動元体)の出現頻度を指標として,「p53」とその安定性を支配している「Hdm2」,さらにp53が誘導抑制していた誘導型一酸化炭素「NO」が,放射線適応応答において重要な役割を担っていることを明らかにした。
今後,これらの放射線適応応答にかかわる分子の相互作用が細胞の一時的な放射線抵抗性および遺伝子安定性の獲得をいかに発揮するのか,放射線被曝の記憶装置についてなどの更なる機構解明が期待される。


●問い合わせ先
放射線影響協会
TEL 03-5295-1481