医療IT推進協議会は,1月31日(木),麻布セミナーハウス(東京・港区)において,「平成19年度医療IT推進協議会シンポジウム」を開催した。同協議会は,わが国における医療のIT化を推進することを目的に,2006年に有限中間責任法人日本医療情報学会,(財)医療情報システム開発センター,保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の3団体が設立。その後規模を拡大し,(社)日本病院会,(社)全日本病院協会,日本診療録管理学会も加わり,現在に至っている。今回のシンポジウムでは,レセプトのオンライン化や特定健診・保健指導の義務化,健康・年金情報を収めた社会保障カードの導入検討など,国民が生涯にわたって健康情報を活用できる情報基盤の構築に向けての動きが活発になってきたことを受け,「保健医療分野におけるIT化の推進に向けて−地域医療連携情報システムの今」をテーマとした。
当日は,まず同協議会会長である東京医科歯科大学情報医科学センター教授の田中 博氏(写真1)が,開会の挨拶を兼ねて,「EHRを巡る国内外の状況と医療IT推進協議会」と題し講演した。田中氏は,EHRへの取り組みは,世界各国で国家プロジェクトとして進められていると述べ,英国やカナダ,米国など海外における進展について,現状を説明した。その上で,第二世代のEHRとなるPHR(personal health record)について触れた。さらに日本国内でのEHRの構築に向けた方向性やスケジュールに関して見解を示した。
この後,来賓の内閣官房内閣参事官の伊藤 仁氏(写真2)が挨拶した。伊藤氏は,医療分野はわが国のIT化戦略の重点項目となっており,国としても強力に推進していくと述べた。また,ITは医療が抱える課題の解決に貢献するとし,官民が志を持って,利用者がメリットを感じることができるようなEHRを構築していくことが大事だとまとめた。
引き続いて行われた省庁講演では,厚生労働省医政局研究開発振興課医療機器・情報室室長の冨澤一郎氏が2008年度以降始まる健康情報活用基盤実証事業や社会保障カードの実証事業について説明。経済産業省商務情報政策局医療・福祉機器産業室課長補佐の坂無英徳氏が医療情報システムにおける相互運用性実証事業の成果などを報告した。この講演の続き,医療IT推進協議会の活動報告として,「最近のEHR関連国際情勢−各国PHRの取り組み」と題し,JAHIS特別委員の長谷川英重氏が発表した。
休憩を挟んだ後行われた地域医療連携講演では,まず,特別医療法人財団董仙会理事長の神野正博氏が,「けいじゅヘルスケアシステム:医療・福祉・介護・保健のシームレスな展開」をテーマに講演した。同グループは,恵寿総合病院を中心に,急性期から慢性期,介護施設までをすべてオンライン化しけいじゅヘルスケアシステムを運用している。講演では,その構築手法や今後の展開について説明があった。続いて,終末期の在宅医療を行っている三つ葉在宅クリニック理事長の舩木良真氏が「地域のインフラとしての在宅医療システムの構築」と題して講演した。舩木氏は,在宅医療向けの電子カルテシステムを開発し,地域の医師や介護士などと協力し合いながら,患者ケアを展開している。講演では,その事例について紹介された。この後,九州大学病院医療情報部の中島直樹氏が,ディジーズマネジメント手法を取り入れた糖尿病予防システム「カルナ」について講演した。このカルナは,2002年度から民間企業と共同で開発を始めたものである。クリティカルパスを用いて,糖尿病の一〜三次予防を支援するもので,特定健診・保健指導にも対応し,2008年度から事業化される予定である。中島氏は,講演の中でシステムのコンセプトなどの説明を行った。
講演の後,パネルディスカッションが行われた。座長を同協議会理事の豊田 建氏が務め,地域医療連携講演の講演者3名と厚生労働省の冨澤氏,経済産業省商務情報政策局医療・福祉機器産業室室長の渡辺弘美氏がパネラーとなった。テーマは,「これからの地域連携システムとそれを支えるIT」で,会場からの質問を交えながら活発な意見交換が行われ,盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じた。 |