セミナーレポート(東芝メディカルシステムズ)

第40回日本救急医学会総会・学術集会が2012年11月13日(火)〜15日(木)の3日間,国立京都国際会館にて開催された。初日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催の教育セミナー9では,市立堺病院副院長の横田順一朗氏を座長に,大阪府立急性期・総合医療センター高度救命救急センターの中森 靖氏が,IVR-CTを核としたHybrid Emergency Roomの有用性について講演した。

2013年4月号

第40回日本救急医学会総会・学術集会教育セミナー9 次世代救命救急センター初療室の展開:外傷初期診療のBreakthrough

Hybrid Emergency Room─IVR-CTを核とした新たな救急初期診療の提案─

中森 靖(大阪府立急性期・総合医療センター 高度救命救急センター)

外傷初期診療におけるCT検査は,国や施設によってさまざまな考え方や取り組み方がある。当院高度救命救急センターでは2011年,初療室でスクリーニングCT,動脈塞栓術,ダメージコントロール手術を完結することを目的にIVR-CTを導入し,Hybrid Emergency Room(Hybrid ER)と命名した。本講演では,救急診療にCTを積極的に施行している当センターにおける,IVR-CTを核とした外傷初期診療の変革について報告する。

■外傷初期診療におけるスクリーニングCTの歴史

2000年,当時の所属先である大阪大学救命救急センター内に占有の4列MDCTが導入され,外傷患者のスクリーニングにも使い始めた。従来,発見が難しかった血管損傷も確認することができ,スクリーニングCTの重要性を痛感した。
当時の状況を世界の論文から振り返ると,まず,1997年にはドイツのLöwらが,ヘリカルCTによる多発外傷患者に対するスクリーニングCTの有用性に関する初の報告を行った。その後,MDCTが登場すると,2002年にドイツのKlöppelらが,また本邦からは,現・順天堂大学の岡本 健教授らが,スクリーニングCTによる撮影時間短縮と確定診断率の向上を報告した。
2002年には,日本版外傷初期診療ガイドライン「JATEC」が開始された。JATECにおける画像検査の位置づけは, FAST(超音波),胸部・骨盤X線検査で判明した問題に対して処置をし,それでも循環が安定しなければ手術に踏み切るという流れで,CTは“死のトンネル”とされていた。
2003年,大阪府立急性期・総合医療センターに異動後,外傷患者に対するスクリーニングCTの調査を再開した。
2005年,鈍的外傷患者の初期診療におけるCT検査の適応拡大について報告したが,生命予後に言及することはできなかった。
当時の関連文献としては,2007年にドイツのHilbertらが外来初療室にMDCTを,2009年にドイツのWurmbらが外来にスライディングガントリCTを設置したが,時間短縮の報告にとどまる。同年,Huber-Wagnerらが,外傷患者に全身CTを撮ると予後が改善すると報告した。
われわれは経験上,緊急止血術が必要な重症外傷患者にこそスクリーニングCTが必要という仮説をたて,2009年に調査を開始した。対象基準は,鈍的体幹外傷で直送,緊急の開胸・開腹術やTAEを要した症例で,除外基準は,来院時心肺停止と頭部外傷が原因で脳死に至った症例である。2012年,ヨーロッパ救急医学会でようやく,「外傷初期診療における早期CT検査の有用性」として発表し,予後の改善を証明できた。

■Hybrid Emergency Room

2010年当時,循環が不安定な重症外傷患者に対しても,安全にCTが行え,速やかに止血術に移れる環境を整備することで生命予後が改善すると考え,Hybrid Emergency Room(Hybrid ER)構想へとつながった。Hybrid ERは,スライディングガントリCT+CアームのIVR-CTシステムにより,外来初期診療,CT検査,緊急手術,TAEが同一寝台で行える初療室である(図1)。
IVR-CTのガントリは自走式で,そこにCアームを入れることができる。IVR-CTは,TAE等のために開発されたため,救急初療に使う発想がなく,Hybrid ER実現に向けて次の5つの対策を行った。
対策1:ガントリがスライドするレールのまわりに多くの溝を配置。ガントリ下の床面には彎曲・勾配をつけ,レールを通常より1cm高い場所に置くことで,血液等の汚染により装置に不具合いが生じないよう工夫した(図2)。
対策2:エコーや人工呼吸器等の医療機器を天吊りにし,配線などで処置時の動線が妨げられるリスクを軽減させた(図3)。
対策3:56インチ高精細モニタを寝台の横に天吊り設置。画面にはCT 2画像,アンギオ画像,エコー,ワークステーション画像,電子カルテ,モニタ,血液ガス分析等,必要なものを自由に表示可能とした(図4)。
対策4:寝台に延長天板を装備。カーボン製の延長天板をつけて,160cmまで撮影範囲を延長した(図5)。
対策5:多くの機器を天吊りにしたので,無影灯は赤外線誘導型を採用した。

図1 Hybrid Emergency Room

図1 Hybrid Emergency Room

図2 排水ピットに向けてつけられた10mmの勾配

図2 排水ピットに向けてつけられた10mmの勾配

   
図3 天吊りした医療機器

図3 天吊りした医療機器

図4 56インチ高精細モニタ

図4 56インチ高精細モニタ

   
図5 延長天板

図5 延長天板

 
   

 

■外傷スクリーニングCT撮影プロトコール

外傷スクリーニングCTの撮影において,上肢を拳上することは時間のロスにつながる。当センターでは,バックボードの横に肘を下垂させた肢位をとることによって,ストリークアーチファクトの軽減に努めている(図6)。
外傷スクリーニングCT撮影プロトコールはまず,頭頸部単純撮影を行い,血管損傷の評価が必要なければ体幹部造影2相を行う。頭頸部の血管損傷の評価が必要な場合は,頭頸部に続いて,体幹部の動脈相を撮るようにしている。

図6 バックボードより上肢を下垂させた肢位

図6 バックボードより上肢を下垂させた肢位

 

■IVR-CTがもたらした救急診療の変化

IVR-CTを使ったHybrid ERの外傷初療においては,CTは“命のトンネル”になると考える。IVR-CT導入後15か月で,CTが2188件,TAEを含む血管造影が168件,CTガイド処置が54件となった。さらに,外傷患者を対象に,IVR-CT導入前の従来群(1年7か月間)561例と,導入後のIVR-CT群(1年間)312例でCT施行率を比較した結果,従来群の82.5%からIVR-CT群は89.4%と増加した。従来,ショックが原因でCTが撮れない一群があったが,IVR-CT導入後は1例もない。
CT施行までの時間は,23分から11分に,CT終了までは42分から18分に短縮した。CPAを除くISS16以上の症例では,CT施行率が95.3%から98.5%に増加。全身CTの施行率も84.6%から94.8%へと増加し,CTまでの時間は重症例でもほぼ同様の結果であった。
また,緊急止血術を要する症例について,従来群31例,IVR-CT群24例を対象に検討した。その結果,IVR-CT群のCT施行率は100%で,CT開始まで10分,終了まで15分であった。特筆すべきは,止血術開始までの時間が,従来群の87分から50.5分に短縮され,特に開腹・開胸術では108分から43分へと,有意に短縮した(図7)。
2011年以降の文献によれば,2011年にドイツのWurmbらが,スライディングガントリCTで緊急手術までの時間が短縮したと報告している。一方,アメリカのNealらは,緊急手術を要する腹部外傷患者(鈍的,鋭的)では,術前にCTを行うと予後が悪化すると報告した。米国におけるCTの位置づけとして,真摯に受け止めるべきと思っている。
さらに,2012年には,オランダのREACT study (外来スライディングガントリCT群と従来型CT群の前向き研究)と,フランスのFIRST study(フランス外傷データバンクの解析)の2つのスタディが行われ,FIRST studyでは,全身CT群で有意に死亡率が下がったと報告された。
2012年に当センターから発表したHybrid ERのIVR-CTシステムによる検討は,止血術までの時間が大幅に短縮されている点で,欧米でも今後注目されるデータだと自負している。

図7 IVR-CT導入による効果

図7 IVR-CT導入による効果

 

■まとめ

今後,IVR-CTシステムが多くの施設に導入され,共同研究ができるような環境になることが期待される。これからも日本発のエビデンスをめざし,当センターのTeam IVR-CTのメンバーとともにがんばっていきたい。

 

中森 靖
1995年 大阪大学医学部卒業。同年 大阪大学医学部附属病院特殊救急部に入局。大阪警察病院外科で外科研修後,98年
大阪大学医学大学院および救命救急センターで研究と臨床を兼任。2003年より大阪府立急性期・総合医療センター 高度救命救急センターに勤務。

 

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