本稿では，MRI検査ワークフローにおけるSiemens Healthineersの最新技術として，“Deep Resolve Boost”を紹介する。

■Deep Resolve─最先端のAIを用いて開発した画像再構成技術

“Deep Resolve”は，画像再構成プロセスにDeep Learning Reconstructionを用いた先進的なMR画像再構成技術である。Deep Resolveには，これまでMR画像のノイズ除去技術である“Deep Resolve Gain”と，空間分解能を向上させSuper Resolutionを可能とする“Deep Resolve Sharp”の2種類の機能があった。これらにより，SNRが高く，空間分解能の高い画像を短時間で取得可能にする^1）。
また，Deep Resolve Boostという機能がDeep Resolveの新たな技術として搭載された。Deep Resolve BoostはDeep Neural Networkを用いた画像再構成技術で，繰り返し計算の中にDeep Neural Networkを用いることでノイズ低減を効率化するもので，Deep Resolve Gainの繰り返し計算を発展させた手法である。これまでDeep Learningを用いた画像再構成技術は，1回のDeep Neural Networkを用いた手法が多かったが，Deep Resolve Boostでは，これらDeep Neural Networkを複数回使用し，各iterationでは元のrawデータとの整合性（data consistency）を高める手順を経るため，元の情報を加味したノイズ低減が可能である。それらを用いることで，コントラストを損なわず，ノイズを効率的に低減することができる
（図1）。

図1　Deep Resolve Boost

さらに，これらDeep Neural Networkには，パラレルイメージングを使用していないfull samplingしたデータとパラレルイメージング高倍速となるようにunder samplingしたデータを学習データとして使用している。そのため，パラレルイメージングによるノイズ上昇を効率的に抑えることができる。
図2に示すように，パラレルイメージングを高倍速に設定しても，高速化を行っていない画像と比べノイズの上昇は見られない。

図2　Deep Resolve Boost Comparison

さらに，パラレルイメージングを高倍速に設定することで時間短縮を行っているため，加算を下げることなく時間の短縮が可能である。そのため，呼吸性のアーチファクトなど体動によるアーチファクトに対しても，安定した設定を行うことができる。つまり，体幹部領域においても応用しやすい技術である。また，すでにリリースされている超解像技術のDeep Resolve Sharpとの併用も可能で，さらなる時間短縮，高画質化も可能である（図3）。
前述したように，Deep Resolve Boostの技術的なポイントは，従来では設定が困難であった高倍速のパラレルイメージングによる高速化が可能な点である。3Tと比較し，SNRの低い1.5Tにおいてもこれらの機能を有効に使用することが可能で，Deep Resolve Boostを用いることで，SNRを保った高速化が容易に実現できる。さらに，Deep Resolve Sharpによる超解像技術を併用することで，高画質化も同時に行う。

図3　Deep Resolve Boost & Sharp

図4は，1.5T装置を用い，頭部，脊椎検査においてパラレルイメージングを高倍速に設定し，Deep Resolve BoostとDeep Resolve Sharpを適用した例である。パラレルイメージングを高倍速に設定しながら，それに伴う中心部のノイズ上昇も抑えた高分解能な画像取得が可能となる。

図4　Deep Resolve Boost & Sharp（1.5T）

さらに，Siemens Healthineersの高速撮像パッケージである“Turbo Suite”との併用も可能で，“Simultaneous Multi-Slice（SMS）”を併せて使用することで，さらなる高速化・高画質化を実現する。SMSは，従来1スライスずつ励起を行う2D MRIデータ収集において，複数枚を同時に励起し撮像時間短縮を行う技術である。SMSを用いることで，位相方向のパラレルイメージングに追加し，2D撮像においてもスライス方向への高速化を行うことができる^2）。
それらにより，これまでの2D検査では考えられなかった高倍速化と，それに伴うルーチン撮像の高速化が可能となる。従来の位置決め画像と同程度の撮像時間で，高分解能な画像を得ることができ，2分以内で各断面のコントラストを得ることもできる（図5）。
1.5Tにおいても，2D撮像において8倍速という従来考えられないような高倍速化が可能となり，超高速化しつつDeep Resolveを用いて高画質化を実現している（図6）。

図5　Deep Resolve with SMS

図6　Deep Resolve with SMS（1.5T）

◎

本稿では，Siemens HealthineersのMRI装置における最新技術として，Deep Resolve Boostを紹介した。これらの技術が普及することでMRI検査における長時間撮像という概念を払拭し，被検者や医療従事者の負担が軽減される一助となることを期待したい。

^{●参考文献
1）Behl, N. : Deep Resolve Mobilizing the Power of Networks. MAGNETOM Flash, 78 : 29-35, 2021.
2）Simultaneous Multi Slice Supplement. MAGNETOM Flash, 63 : 2015.}