セミナーレポート(日立製作所)

日本超音波医学会第91回学術集会が,2018年6月8日(金)〜10日(日)の3日間,神戸国際会議場(兵庫県神戸市)などを会場に開催された。9日(土)に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー10では,医療法人松尾クリニック理事長の松尾 汎氏を座長に,北播磨総合医療センター中央検査室の久保田義則氏と埼玉医科大学国際医療センター中央検査部の山本哲也氏が,「達人に聞く! 『動脈エコーの活かし方』」をテーマに講演した。

2018年9月号

日本超音波医学会第91回学術集会ランチョンセミナー10 達人に聞く!「動脈エコーの活かし方」

達人に聞く! 動脈エコーの活かし方

山本 哲也(埼玉医科大学国際医療センター中央検査部)

山本 哲也

本講演では,日立の超音波診断装置に搭載され,主に心エコーで用いられている“Dual Gate Doppler”の血管疾患での活用と,ワンボタンで切り替え可能なリニアおよびコンベックスプローブによる連続波(CW)ドプラの有用性を中心に報告する。

Dual Gate Dopplerの血管疾患での活用

Dual Gate Dopplerは,異なる2か所のドプラ波形を同一心拍で観察可能なアプリケーションである。例えば,パルスドプラと組織ドプラの組み合わせでは拡張能の指標であるE/e’が再現性良く測定できるほか,組織ドプラと組織ドプラの組み合わせではdyssynchronyの評価が,パルスドプラとパルスドプラの組み合わせではTEI indexの測定が可能である。また,不整脈症例でも任意の3心拍の安定したところが自動で選択される。ここでは,Dual Gate Dopplerの血管エコーへの応用について述べる。

1.血流速度の比較への応用
一般に,下肢動脈の血流速度は末梢に進むに従い低下する。日本超音波医学会の「超音波による大動脈・末梢動脈病変の標準的評価法」では,収縮期最高血流速度(peak systolic velocity:PSV)1.5m/s以上を有意狭窄としており,部位ごとに血流速度が規定されているわけではない。また,狭窄部位が複数ある場合, PSVにおける狭窄の判定には限界があり, 収縮期最高血流速度比(peak systolic velocity ratio:PSVR)による狭窄の判定が必須である。このPSVRは狭窄度の推定も可能であり,PSVR 2以上で50〜74%狭窄,PSVR 4以上で75〜89%狭窄,PSVR 7以上で90〜99%狭窄と判断できる。
PSVRの算出方法は,正常部位と狭窄部位のPSVの比から算出される。従来の評価手順では,まず狭窄部位にカーソルを合わせて血流速度を測定し,次にカーソルを中枢側に移動して血流速度を測定してからPSVRを算出する。末梢動脈疾患が両下肢の複数箇所に及ぶ場合は,この手順ですべての狭窄部位の流速を測定してPSVRを算出するため,検査後に混乱を来す場合も少なくない。そこで,一つの工夫として,中枢側にカーソルを合わせてから,瞬時に狭窄部位にカーソルを移動させることで,流速の遅いところと速いところを1枚の画像に収めることができるが,不整脈症例には限界もある。しかし,Dual Gate Dopplerを用いて,狭窄部位とその中枢側にカーソルを合わせて同時に血流速度を測定すれば,PSVRを容易に算出することができる。Dual Gate Dopplerでは,不整脈症例でも同一時相で血流速度を比較できるため,短時間で再現性良くPSVRを算出可能である(図1)。

図1 Dual Gate Dopplerを用いた不整脈症例の狭窄病変の血流速度比較

図1 Dual Gate Dopplerを用いた不整脈症例の狭窄病変の血流速度比較

 

2.血流速度時間の比較への応用
ステントグラフト治療後のエンドリークは,その発生部位・原因によってTypeⅠ〜Ⅳに分類される。最も多いのがTypeⅡであり,この診断にDual Gate Dopplerを活用できると考えた。
通常,大動脈瘤にステントグラフトを留置すると,内部に漏れがなければステントグラフト周囲の動脈瘤内部の圧は低下する。血液は圧の高い方から低い方へと流れるため,圧の急激な低下によって逆行し,分枝血管から瘤内に血液が流入する。これがTypeⅡである。Dual Gate DopplerによるTypeⅡエンドリークの診断について,実際の症例で検討を行った。
まず,従来の測定方法でステントグラフト内部とエンドリークそれぞれのR波の立ち上がり時間を測定すると,大動脈血流開始時間とエンドリーク血流開始時間の差は64msであった。次に,Dual Gate Dopplerにて,ステントグラフト内部とエンドリークにカーソルを合わせて測定したところ,エンドリーク血流の時間差は60msと,やはりR波の立ち上がり時間に差が見られた(図2)。これは,血流が分枝血管を経由して瘤内に流入することで,流入のタイミングに時間差が生じるためと考えられる。そこで,TypeⅡ以外とTypeⅡエンドリークにおける,グラフト内血流とエンドリーク血流の時間差を比較したところ,TypeⅡの方が時間差を有していることがわかった。

図2 Dual Gate DopplerのTypeⅡエンドリーク診断への応用

図2 Dual Gate DopplerのTypeⅡエンドリーク診断への応用

 

3.その他の応用
このほか,例えば,ステントや石灰化によって見えない部分の中枢と末梢側の血流をDual Gate Dopplerで測定して,正常であるかどうかを判断できる(図3),あるいは大動脈解離の真腔と偽腔にカーソルを合わせて測定することで,entry位置や偽腔の状態の変化を推測するのに役立つ可能性もある(図4)。また,カテーテルの穿刺部位の中枢側と末梢側,あるいは静脈や動脈などに用いることにより,血管の機能検査などに応用できるのではないかと考えている。

図3 Dual Gate Dopplerによる見えない部位の血流評価

図3 Dual Gate Dopplerによる見えない部位の血流評価

 

図4 Dual Gate Dopplerによる真腔と偽腔の血流評価

図4 Dual Gate Dopplerによる真腔と偽腔の血流評価

 

4.Dual Gate Dopplerの有用性のまとめ
Dual Gate Dopplerを用いることで,検査時間が短縮するほか,同一心拍での比較が可能なため,血流の時間差などを正確に測定可能である。また,PSVRの算出に当たっては,効率的にレポートを作成できるほか,1枚の画像で重症度を把握可能である。同一時相で血流速波形を比較できることにより,血管機能検査など,新たな知見を見出すことが期待される。

リニアおよびコンベックスプローブによるCWドプラの有用性

CWドプラは従来,専用プローブもしくはセクタプローブでしか測定できなかったため非常に手間がかかったが,2010年に日立(当時はアロカ)製超音波診断装置「ProSound α7」のリニアプローブでCWが可能となった。また,2012年にはコンベックスプローブでもCWが可能になり,ワンボタンでパルス(PW)ドプラからCWドプラに切り替えて血流速度を測定できるようになった。

1.CWドプラの有用性
CWドプラでは,PWドプラにて測定困難な高速血流を簡便に測定可能である。当院では,コンベックスプローブのPWドプラ(コンベックスPW)で腎動脈狭窄を認めなかったが,CWドプラ(コンベックスCW)に切り替えて測定したところ高速血流が認められ,左腎動脈起始部狭窄と診断できた例を経験している(図5)。本症例は,血管造影検査でも75%狭窄が確認された。
ワンボタンでコンベックスCWに切り替えた場合と,プローブをセクタに持ち替えた場合(セクタCW)の血流速度測定に費やした時間を比較したところ,コンベックスCWでは30秒,セクタCWでは110秒と,コンベックスCWの方が80秒も速かった(図6)。このワンボタンでの切り替えの有用性の検討について,日本超音波医学会第83〜85回学術集会(2010〜2012年)にて発表したので,その内容を以下に紹介する。
最大血流速度について,まずコンベックスCWとコンベックスPW,コンベックスCWとセクタCWを比較すると,高い相関が得られた。次に,角度補正をしていない状態のリニアプローブのPWとCW(リニアPW,リニアCW)の比較,コンベックスPWとCWの比較を見ると,CWの方が正確な血流速度が得られるため,いずれもCWの方がやや高値を示した。続いて,リニアCWとセクタCW,コンベックスCWとセクタCWのそれぞれの比較では,いずれもセクタCWの方が高値を示した。これは,セクタプローブの探触子が最も小さく,血流方向に対するビーム入射角度を小さくするのに有利なためと考えられた。さらに,セクタプローブは主に心臓用に作られているため,リニアプローブと比べてフォーカスが深いことも影響していると思われる。最後に,最大血流速度測定時間について,リニアCWとセクタCW,コンベックスCWとセクタCWをそれぞれ比較すると,前述のとおりセクタCWが最も時間を要していた。セクタプローブでCWを行うためには,プローブの持ち替え以外にも,プリセットの変更や血管の同定,病変部位の検索,body mark・probe markの変更などの条件設定を行った上で,改めてCWの条件設定を行うためである。

図5 コンベックスCWによる左腎動脈起始部狭窄の診断

図5 コンベックスCWによる左腎動脈起始部狭窄の診断

 

図6 コンベックスCWとセクタCWの血流速度測定時間の比較(医原性による動静脈瘻)

図6 コンベックスCWとセクタCWの血流速度測定時間の比較
(医原性による動静脈瘻)

 

2.リニアCW,コンベックスCWのまとめ
リニア・コンベックスプローブ共に,PWよりもCWの方が血流速度は高値であり,さらにセクタCWの方が高値であった。リニア・コンベックスプローブがCWドプラに対応し,プローブを持ち替えることなくワンボタンで高速血流部位を描出し,短時間で正確な高速血流ジェットを確実にとらえられるメリットは大きいと言える。

 

山本 哲也(Yamamoto Tetsuya)
1991年 東洋公衆衛生学院卒業。同年 埼玉医科大学病院心臓病センター。2007年〜埼玉医科大学国際医療センター中央検査部。血管エコー職人。

 

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