セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

日本超音波医学会第89回学術集会など超音波関連の学会が集まったUltrasonic Week 2016が,5月27日(金)〜29日(日)の3日間,国立京都国際会館などを会場に開催された。28日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー9では,奈良県立医科大学附属病院総合画像診断センター病院教授の平井都始子氏を座長に,近畿大学医学部消化器内科講師の矢田典久氏が,「分かりやすく進化した超音波エラストグラフィ〜その原理と臨床応用〜」をテーマに講演した。

2016年8月号

Ultrasonic Week 2016ランチョンセミナー9

分かりやすく進化した超音波エラストグラフィ ~その原理と臨床応用~

矢田 典久(近畿大学医学部消化器内科)

矢田 典久(近畿大学医学部消化器内科)

エラストグラフィは,2003年に日立メディコ社(現・日立製作所)が“Real-time Tissue Elastography(RTE)”を世界に先駆けて開発・製品化した。2008年以降には各社がさまざまなエラストグラフィを製品化している。その種類はStrain imagingとShear wave imagingの2つに大別され,日立製作所の超音波診断装置では現在,この2種類の検査が1台の装置で可能となっている。

Strain imagingの特徴と進化

1.肝線維化診断におけるRTEの有用性

Strain imaging とは,圧迫を加えた時の組織のひずみの程度で判断する手法であり,励起法には,用手的加圧(Strain erastography)と音響的加圧の2種類がある。肝臓のRTEでは,プローブでの用手的加圧を行わず心拍動や下大静脈の振動によって生じるひずみを観察することで,検者ごとの差を少なくしている。
RTEにてC型慢性肝炎の線維化ステージを比較すると,線維化の進行に伴い低ひずみ領域(青い領域)がランダムに増加し,テクスチャの乱れが生じる傾向があった。そこで,C型慢性肝炎の310症例と15名の健常ボランティアのRTEからLiver Fibrosis Index(LFI)を算出した結果,線維量の増加に伴いLFIも漸増し,線維化ステージ間で有意差が認められた1)。また,線維化ステージの診断にLFIを用いると,正診率は8割弱と高く,線維化を示すほかの血清マーカーとLFIのROC曲線を比較した検討でも遜色なく,非常に高い診断能があることがわかった1)

2.コンベックスプローブの活用

一方,以前のRTEはリニアプローブを使用していたため,多重反射やペネトレーション不足により硬さが正しく描出されないほか,肝臓では音響陰影が出やすく,描出範囲が狭いなどの問題があった。しかし,近年,コンベックスプローブが使用可能となり,深部領域でも良好に描出可能となった。リニアプローブとコンベックスプローブのLFIにも大きな差はなく,従来と同様に使用可能である。
図1は,リニアプローブとコンベックスプローブによるRTEの比較であるが,コンベックスプローブでは視野が深く広くなったことで脈管の少ない場所など,RTEを行うのに適した領域を選択することも容易である。

図1 リニアプローブとコンベックスプローブによるRTEの比較

図1 リニアプローブとコンベックスプローブによるRTEの比較

 

Shear wave imagingの特徴と進化

1.Shear wave imagingの原理と有用性

剪断弾性波の伝播速度〔Vs(m/s)〕を測定するShear wave imagingには,剪断弾性波を発生させる手法として大きく音響的加圧と機械的加圧の2種類があり,硬い組織ほど剪断弾性波の伝播速度が速くなり,弾性率〔E(kPa)〕は,E=3ρVs2ρは密度≒1(g/cm3)〕で求められる。肝線維化の進行に伴いEやVsが漸増するため,肝硬変や肝線維化の程度の診断,ウイルス性肝炎の発がんリスクの予測などに有用であることが多数報告されている。

2.結果の信頼性を評価するShear Wave Measurement

日立製作所は,測定結果の信頼性を評価できるツールを備えた新たなShear wave imagingである“Shear Wave Measurement(SWM)”を開発した(図2)。
従来は,例えば複数回の測定結果の平均値やバラツキを見て信頼性を評価していたが,いずれも誤った測定結果の場合などは,その誤りに気づかないことがあり問題であった。
一方,SWMでは,ワンボタンで複数回×ROI内の複数ポイント(深さごと)のVsの測定を行い,VsNという新しい信頼性指標を表示することを特徴としており,四分位範囲(interquartile range:IQR)やヒストグラム表示と併せて測定結果の信頼性を評価する。ROIはBモード画像で確認しながら自由に設定し,そのままコンベックスプローブで測定可能である。測定結果のうち,(1) Vsがマイナス,(2) Vsが特定の範囲外,(3) 特定の深度で位相ゆらぎを観測,という3つの棄却条件を設け,残った有効点のみのVsの集合からVs,IQR,VsNを計算する。なお,VsNは,測定されたVsのうち正しく検出された割合であり,Vsを正しく検出できない場合はVsNが低下する。さらに,SWMでは,肝線維化の進行や炎症が強くなるに伴いVsが速くなることがわかっている2)

図2 Shear Wave Measurement(SWM)の特徴

図2 Shear Wave Measurement(SWM)の特徴

 

エラストグラフィの新たな使用法:Combinational elastography

日立製作所の超音波診断装置「ARIETTA S70」と「HI VISION Ascendus」では,1本のコンベックスプローブでStrain imagingとShear wave imagingの両方が施行可能なため,われわれはこの2種類を同時に行って肝の病態を把握するCombinational elastographyを推奨している。
肝臓の硬さ(弾性率)に影響を及ぼす因子として,線維化のほかに炎症や黄疸,うっ血,アミロイドーシス,食事や息止めなどが報告されている。Shear wave imagingでは線維化以外の因子にも影響されるが,Strain imagingは線維化以外の因子の影響を受けにくいため,Shear wave imagingの結果からStrain imagingの線維化の情報を差分することで,炎症や黄疸,うっ血の程度を判別可能と考えている。
図3は自己免疫性肝炎と原発性胆汁性肝硬変のオーバーラップ症候群の症例で,上段がSWM,下段がRTEである。SWMでは肝の弾性率が約7kPaと高値であるが,プレドニンを投与して1週間後には4.3kPa,2週間後には3.2kPaまで低下している。一方,RTEのテクスチャおよびLFIに大きな変化は見られず,これらの情報を差分することで炎症の程度を評価可能と思われる。

図3 Combinational elastographyによるオーバーラップ症候群の経過観察

図3 Combinational elastographyによるオーバーラップ症候群の経過観察

 

図4はC型肝炎の症例であるが,RTEではLFIは1.5と線維化はF1相当であるが,SWMによる弾性率は4.76kPaと,線維化の程度はF2相当ととらえてしまう値である。本症例は,ダクラタスビル/アスナプレビル(DCV/ASV)併用療法開始後1週間で弾性率はF1相当の3.6kPaまで低下したが,RTEに変化は見られなかった。

図4 Combinational elastographyによるC型肝炎の治療前後の比較

図4 Combinational elastographyによるC型肝炎の治療前後の比較

 

C型肝炎の治療奏功例(SVR例)(図5 a)では,炎症(ALT)の低下に伴い肝臓の硬さ(LS)も低下し,再燃例(図5 b)では,ALTの低下および上昇に合わせてLSも低下および上昇している。
このように,Combinational elastographyを行うことで,肝臓の硬さに影響を及ぼす線維化以外の因子の程度を判断可能であり,きわめて有用と思われる。

図5 Combinational elastographyを用いた炎症の評価

図5 Combinational elastographyを用いた炎症の評価

 

まとめ

RTEではコンベックスプローブが使用可能となり,容易に検査できるようになり,検査対象も広がった。VsNなどにより信頼性のある測定結果かどうか判断可能なSWMが新開発された。また,これらを同時に行うCombinational elastographyを行うことで,肝線維化はもとより炎症の程度なども把握できる可能性がある。

●参考文献
1)Yada, N., et al., Oncology, 84, 13〜20, 2013.
2)Yada, N., et al., Oncology, 89, 53〜59, 2015.

 

矢田 典久(Yada Norihisa)
1999年滋賀医科大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院などを経て,2008年京都大学大学院内科系専攻消化器内科学修了。2008年近畿大学医学部消化器内科助教,2010年より同講師。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP