FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.34

Case25 社会福祉法人恩賜財団 済生会松山病院 病床利用率や入退院の推移の情報を表示して,適切な病床管理とチーム医療を支援する「ベッドコントロールシステム」を構築

院長 宮岡弘明氏 医事課兼経営企画室 後藤道洋氏

後藤道洋 氏

後藤道洋 氏

済生会松山病院(病床数199床,診療科14科)は,松山市西部地域唯一の公的病院として保健・医療・福祉を含めて地域に根ざした医療を提供している。同院は,松山医療圏の救急輪番制担当病院として夜間救急を行っているが,救急患者受け入れのための病床管理を行う「ベッドコントロールシステム」をFileMakerで構築した。基幹の電子カルテからデータを取り込み,病床稼働率や入退院患者数などの推移を先の推測を含めて表示して,病床管理に必要な情報を表示するほか,検査や給食のデータとリンクして重症度や看護必要度,特別食提供のタイミングなどの情報も提供し,チームによる病棟業務をサポートしている。このベッドコントロールシステムについて,発案者の1人でもある宮岡弘明院長と,FileMakerを活用してユーザーメードで構築した医事課の後藤道洋課長に取材した。

松山西部地域の基幹病院として二次救急医療に対応

済生会松山病院は,1938年に松山診療所として開設され,1992年に現在地に新築移転した。内科,循環器内科,外科,整形外科,脳神経外科などを標榜し,敷地内に介護老人保健施設「にぎたつ苑」や在宅生活復帰支援センターなどを併設するなど,地域の保健・医療・福祉を支える中核施設としての機能を担っている。
松山市(人口約51万人)を中心とする松山二次医療圏(人口約65万人)では,地域の基幹病院が連携して輪番制で二次救急医療を担当する病院群輪番制度をとっている。8つの病院・病院群で順番に当番制で救急医療を担うものだ。同院は当初,病院群(いくつかの病院でその日の救急搬送を担当する)として参加していたが,2014年10月から単独での当番病院となった。これに伴い174床(当時)の病床数で,1日30〜40人の救急搬送に対応する必要に迫られた。宮岡院長は二次救急輪番への対応について,「8日に1度回ってくる当番日には救急患者受け入れのため,全病床の1/3〜1/4の空床を確保することが必要でした。当番日に向けたベッドの調整は病棟ごとに行っていましたが,病院全体として稼働状況が把握しにくく調整には苦労していました。病床利用率が大きく増減することは,病院経営はもちろんですがスタッフの業務の負担を考えても好ましいことではありません」と説明する。
同院では,電子カルテシステム(富士通,EGMAIN-GX)が稼働しているが,病床利用の状況を3フロア10診療科の病棟でリアルタイムに把握することは難しかった。そこで次の輪番当番までの病床利用状況の予測ができないかという院長の依頼を受けて,医事課の後藤課長がFileMakerで構築したのがベッドコントロールシステムである。

1週間先までの病床稼働データを基に入退院を調整

ベッドコントロールシステム(以下,BCS)は,電子カルテや医事,退院支援などの部門システムの診療データから,病床管理に必要な情報をFileMakerに取り込み,1画面に集約してグラフも含めて一覧で参照できる。ポータル画面の上部には,“ベッド稼働予測”として次の救急当番日に向けた入院患者数,病床利用率,日々の入退院数の情報をグラフとともに表示。DPCデータや退院支援システムなどのデータから,指標欄に看護必要度や連携室介入状況などを自動計算して表示する。また,画面下部には,入院患者の一覧が表示され,診療科,主治医,診断群分類名,退院予定日,入院期間などさまざまな情報が参照できる。これらの情報は,検索ボタンによって診療科とフロアごとに切り替えて表示できる。これによって,従来は病棟ごとに持っていた入院患者ごとの状態や退院期間などを,全病院的に参照できるようになり,予測データに基づいてより正確な退院調整が可能になった。
さらに,看護必要度やDPC情報などから転棟や退院の適切なタイミングが判断できるようになったほか,検査データの項目から高脂血症,貧血,肝機能異常,糖尿病などのデータをチェックして必要に応じて特別食に切り替えることで食事療養にもつながり医療の質向上にも効果を上げている。
宮岡院長は,「BCSの導入で病床利用率は90%以上になっており,退院調整が可能な対象患者や退院時期はいつが良いのかの判断も容易になり,業務の平準化,経営の安定化にも役立っています」と評価する。

ベッドコントロールシステムの自主開発を後押しした宮岡弘明院長ベッドコントロールシステムの自主開発を後押しした宮岡弘明院長

ベッドコントロールシステムの自主開発を後押しした
宮岡弘明院長

ベッドコントロールシステムのデータを病棟回診やカンファレンスなどに活用。宮岡院長を中心にカンファレンスを行うスタッフ。

ベッドコントロールシステムのデータを病棟回診やカンファレンスなどに活用。宮岡院長を中心にカンファレンスを行うスタッフ。

 

電子カルテなど基幹システムのデータを取り込み

BCSは,病床管理のために新たにデータを入力するのではなく,FileMakerに情報を取り込んで,誰でも全体の状況が把握できるよう,わかりやすく表示することが特長だ。後藤課長は画面デザインについて,「ベッド稼働“予測”ということで,天気予報の画面をイメージしました。グラフ表示を入れて,この先の推移や変化が一目でわかり,行動に移せるようなデザインにしました」と説明する。基幹システムからのデータの取り込みはCSVデータで,1日7回,最新データに置き換えられる。後藤課長は,「入退院の状況は刻一刻と変化しますのでリアルタイムが理想ですが,情報更新の頻度が高い午前中を中心に1日7回取り込んでいます」と述べる。
データ項目については,部門へのヒアリングや病床利用委員会などで取り上げられる項目を把握して,その中から必要なものをBCSに展開した。後藤課長は,「現在では現場が必要とする情報は電子カルテや部門システム内のどこかに必ずあります。BCSでは,その複数のデータを自動抽出し集約させて一覧表示させているだけです」とコンセプトを説明する。唯一,各入院患者について状態や退院に向けた状況などを記入する『備考欄』は,直接入力でデータ更新時にも削除されずに共有できる。BCSは,参照が必要な部署の電子カルテ端末では,端末起動時に自動で初期画面を表示する設定になっており,後藤課長は,「どんなに便利なシステムでも起動に手間がかかると使ってもらえません。そのためPC起動時に必ず起ち上がるように設定しました」と述べる。

ベッドコントロールシステムのポータル画面

ベッドコントロールシステムのポータル画面

 

入院患者の予測グラフと入院関連情報表示画面

入院患者の予測グラフと入院関連情報表示画面

検査データに基づいた食事(給食)状況画面

検査データに基づいた食事(給食)状況画面

 

医事課を中心にFileMakerをシステム構築に活用

同院でのFileMakerの利用は,バージョン4の時代に始まり,各部署での情報管理や個人の学会用のデータ整理などに使われてきた。特に事務部門では,現事務長の林田哲也氏が業務管理システムにFileMakerを導入したことから,早くからさまざまなデータ管理をユーザーメードシステムで構築・利用する土壌が育まれてきた。2010年に電子カルテシステムが導入されたことから診療関連のデータは電子カルテに統合されることになったが,現在でもFileMaker Serverには業務系を中心に50を超えるファイルが登録され,利用されている。後藤課長自身は,2002年に診療録管理体制加算の施設基準のために退院サマリー管理にFileMakerを利用,その後,DPC対象病院の様式1のフォーマットを林田事務長と構築したことがFileMakerでのシステム開発に取り組むきっかけになった。FileMakerでの構築について後藤課長は,「自分が頭で考えたことがほとんど実現できたことから,本格的にFileMakerで構築に取り組むようになりました。システムの開発では,最初に必要な機能は何かを考えて,それを画面のレイアウトとして当てはめます。BCSでも,ベッドの稼働率の予測のグラフと入院患者の詳細というレイアウトをまずイメージしました。FileMakerでは,最初の画面レイアウトが決まれば,その機能などはほとんど実現可能です」と述べる。

チーム医療の情報共有ツールとしてさらに機能拡張へ

BCSは,2015年1月に最初のバージョンをリリース,運用しながら徐々に機能アップを図ってきた。入院患者に関するあらゆる情報を“見える化”し,全病院での入退院のコントロールとチーム医療をサポートするというコンセプトは,市販システムにはなく現場のニーズを反映した究極のユーザーメードシステムと言っていいだろう。現在でも,診療報酬改定にあわせた改修や,現場からの新たな要望を取り入れてバージョンアップを続けており,後藤課長は,「まだ成長,発展中のシステムで最終形ではありません。今後は外来部門に向けた情報提供を検討しています」と今後の開発の方向性を語っている。

 

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社会福祉法人恩賜財団 済生会松山病院

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