ホーム ザイオソフトTechnical Noteネットワーク型WSとクラウドシステム
2010年7月号
Workstaion Technology Guide−技術の最前線
ここ数年で医療の現場におけるデジタル化は急速に進んでいる。従来のフィルム読影からデジタル機器によるモニタ読影へ,手書きカルテから電子カルテへとさまざまなシステムが電子化されている。画像処理・解析の現場では,デジタル化,ネットワーク化がさらに加速しており,すでにネットワーク型画像処理は珍しいものではなくなってきている。ネットワークからクラウドへと,さらに進化する画像処理・解析ソフトウエアに対する当社の取り組みについて紹介する。
■ネットワーク型画像処理の歩み
当社は従来,難しいと言われていたボリュームデータのネットワーク型画像処理を実現し,2005年春に業界初のネットワーク型画像処理ワークステーション(WS)「ZIOSTATION System1000」を発表した。
ネットワーク型画像処理では,モダリティからデータサーバにデータを転送し,そこに集積されたデータを用い,画像処理サーバで集中的に画像処理・解析を行う。クライアント側には画像処理・解析結果のみが送信されるため,WS専用端末のような高スペックな機器ではなく,通常のスペックのPCを利用できる(図1)。複数の場所で,同時にWSレベルの画像処理・解析ができるだけでなく,専用機器を必要としないためコストの削減も期待できる。データはデータサーバに蓄積されているので,複数の場所にあるクライアントにはデータは残らず,データの一元管理も容易である。
このようにネットワーク型画像処理では,離れた場所でも複数のPCから同時に画像処理や解析ができるという物理的な制限が緩和されるだけでなく,セキュリティ・投資効果も期待できる。
図1 ネットワーク型画像処理の仕組み
■選べる2つのクライアントタイプ
当社のネットワーク型画像処理WSには,専用ソフトをインストールするフル機能クライアント「VGR」と,Webブラウザを利用するWebクライアント「VersaWeb」の2種類がある。
フル機能クライアントVGRでは,WSと同等の高度な画像処理・解析が行える。複数の場所から同時に解析処理が可能なので,必要な場所に設置することで撮影から画像解析までのスループットの効率が上がる。解析結果はデータサーバに保存することで,どのクライアントからも結果画像の閲覧できる。JPEGやPDFへの圧縮がないので,高画質で読影が可能である。
データサーバと画像処理サーバは,運用や規模に合わせて拡張することができる。後述のVGRとVersaWebを組み合わせた既存の設備を活用した3D画像処理ネットワークを展開できる。
■高度な解析も可能なフル機能クライアント「VGR」
フル機能クライアントVGRでは,WS専用機と同じ高度な画像解析が可能である。複数の場所で,複数のユーザーが同時に利用できる。
当社では,部位や目的に合わせた解析アプリケーションを用意している。特に,心臓領域の検査では高度な画像解析が求められている。当社では,“CT冠動脈解析2”“CT心機能解析2”“CT/SPECT心臓フュージョン”“MR心機能解析2”“MR心筋パフュージョン解析”“MR遅延造影解析”など心臓領域の解析をフルラインナップしている(図2)。これらの解析はもちろんのこと,オートセグメンテーションによる骨除去やサブトラクション機能など,すべての機能がVGRから利用可能である。さらに,自動前処理機能と組み合わせて使用すれば,VGRクライアント上で,データを開いたらすぐに前処理ずみの画像を確認することができる。
図2 心臓解析アプリケーション
■Webブラウザを利用したクライアント「VersaWeb」
WebクライアントVersaWebでは,2Dで観察できるだけでなく,リアルタイムに3Dの画像処理を行うことができる。3D画像の回転・拡大縮小だけでなく,リアルタイムに骨除去やカットなどの操作が行える。画像処理結果のマスクを保持した状態のデータを操作できるため,画像診断部門が解析した結果画像を診療科の医師がいつでも自由に閲覧できるといったワークフローも実現する。さらに,複数のクライアントで画像処理の操作と表示を共有できる“コラボレーション機能”(図3)を搭載している。この機能を利用すれば,URLを記した電子メールを送信するだけで,離れた場所にいながらにして同じ画像を操作しディスカッションすることができる。
図3 VersaWebのコラボレーション機能
離れた場所でもWebブラウザで同じ画像を操作できる。
実際にZIOSTATION System1000をコアにし,VGRとVersaWebをクライアントに用いたネットワークシステムの構築例を紹介する。財団法人脳血管研究所附属美原記念病院では,画像診断部門でフル機能クライアントVGRにより解析を行った結果を各診療科に配信している(図4)。診療科では,既設の電子カルテシステムの端末(約200台)の連携ボタンからVersaWebを起動し,画像を参照して電子カルテへ貼り付けてカルテ作成を行う。既存の電子カルテネットワークを生かし,ボリュームデータを生かした画像診断を可能にしている。
図4 ネットワーク型画像処理WSと電子カルテネットワークの連携例
■クラウド型の画像処理モデル
2006年ごろにクラウドコンピューティングが提唱されてから,クラウド型のサービスは増加している。特に昨今では,ハードウエアとソフトウエアの両者の性能が上がったため,これらのサービスはすでに現実にさまざまな形で提供されている。
当社で提供している教育・研究を目的とした無償の3D画像処理DICOMビューワ「zioTerm2009」のサービスの一部は,すでにクラウド型となっている。アプリケーションとデータはユーザーのPC上にあるが,インターネットを利用したオンライン認証を行うことで安全に利用できるようになっている。
■クラウドコンピューティングで広がる画像処理ネットワーク
実際に当社で臨床実験しているクラウド型のモデル(図5)を紹介する。
ユーザーは,画像診断装置で撮影後に,クラウド上のデータサーバにデータを転送する。データサーバにデータが転送されると同時に,読影担当医の携帯端末には読影依頼メールが送信される。担当医は,院内にいる場合は院内の画像処理WSのクライアントから読影を行う。外出先など院外では,携帯端末にインストールされたビューワからデータを参照することができる。また,インターネットに接続したPCがあれば,Webブラウザ利用型クライアントのVersaWebから画像観察・解析を行える。このように,クラウド型のサービスのメリットは,インターネット環境があれば,遠隔地からでも院内とほとんど同様の画像処理・解析や参照ができることである。
図5 臨床実験中のクラウド型サービス
■今後の展望
2010年5月に発表された内閣府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が発表した骨子によると,診療履歴などの共通データ網を整備するなど,医療分野のIT化はますます進む方向である。遠隔診断や地域連携医療の分野においても,クラウド化が進むことで,より質の高い画像解析・診断が可能になるだろう。当社はこれからも最先端の技術で新しいソフトウエアの開発に取り組んでいく。