膵Perfusion画像の現状と今後―ziostation2に対する期待 京都大学医学部附属病院 消化器内科 辻 喜久

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膵Perfusion画像の現状と今後 — ziostation2に対する期待

膵疾患の予後改善のためには、早期の正確な診断と適確な治療介入が求められている。病態の正確な診断・評価を行う方法のひとつとして、3DワークステーションによるCT Perfusion画像を使った試みが進められている。膵疾患に対する膵 Perfusion画像の現状を、ziostation2のボリューム血流解析(W.I.P.)を用いて膵実質血流をカラーマップで表示するPerfusion 画像による解析を含めて紹介する。

s なぜ、膵Perfusion画像が必要なのか?
図1 3D 膵Perfusion CT画像
図1 3D 膵Perfusion CT画像
ziostaion2ボリューム血流解析(W.I.P.)を用いてボリュームデータを解析して作成した。

昨今の医学の進歩にもかかわらず、膵疾患の予後は改善されたとは言い難い。昨年、Apple創業者のSteve Jobs氏が膵腫瘍で亡くなったが、比較的若年者にも起こりうる膵疾患の予後を変えることは、社会的な側面から考えても重要な課題のひとつと思われる。

膵疾患の予後はなぜ悪いのか。その答えのひとつとして、診断・評価の難しさが挙げられる。例えば、急性膵炎は重症化すると命にかかわる病気である。一方、膵炎重症化の重要な因子である膵壊死を発症早期に正確に診断することは容易ではない。臨床の現場では、膵炎の"重症"の診断が遅れることで治療介入が遅れる場合もまれではない。急性膵炎の発症早期の正確な壊死・重症化予測法が求められている。

慢性膵炎の臨床においても、発症早期の正確な診断法がないことが問題になっている。不可逆的な状況にまで進展した、後期慢性膵炎の診断はすでに確立された。しかし、可逆性が期待される早期慢性膵炎の診断については、意見が分かれている。このため、早期慢性膵炎の診断の世界的なコンセンサスの形成は遅れている。こうした状況を背景に、臨床の現場では、慢性膵炎の治療はより病状が進んだ状況から始められることが多く、この治療開始の遅れによって、その効果が制限されている可能性がある。

図2 3D 膵Perfusion CT画像
図2 3D 膵Perfusion CT画像
a:元画像、b:Axial画像、c:Colonal画像(LAO35°方向からの画像)、d:Sagittal画像(LAO125°方向からの画像)

膵がんの場合、早期発見が難しく、ある程度病期が進展した状態で発見されること多い。発見された膵がんに対して、臨床的に要求されることは質的診断である。例えば、「局所進行膵がんに対して手術前化学療法を施行するか」という臨床的な問題が存在するが、これに有意義な情報を与えられるような画像診断法が求められている。膵 がんは、病気の進行が速く、かつ予後が短い(6〜8か月)ため、化学療法を"試しにやってみる"という選択は、手術適応の時期を失いかねない。このため、発見時での質的診断、予後予測法や、抗がん剤への反応予測法の確立が非常に求められている。

今、膵疾患の予後を改善するために、診断における問題がクローズアップされ、いくつかの新しい試みが精力的になされている。CTデータをもとに3Dワークステーションによって画像解析を行い、膵実質血流を カラーマップで表示するPerfusion画像 (図1、図2)もこうした新しい取り組みのひとつであり、膵疾患に存在する診断における問題を解決するために有用な方法である可能性がある。

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s 急性膵炎と膵Perfusion画像

Perfusion画像が、急性膵炎の重症度予測法1)、壊死予測法2)として有用であることはすでに報告されている。また、膵炎患者の血清のAngiopoietine-2値は膵炎の重症化に重要な役割を担うことが報告されているが、Angiopoietine-2値と膵Perfusion ParameterであるTau値(Compartment Model法)が相関することが判明した3)。近年は、予後予測のみならず、こうした膵炎重症化の機序解明のToolとしてPerfusion画像が用いられる場合もある。

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s 慢性膵炎・自己免疫性膵炎・糖尿病と膵Perfusion画像

現在の慢性膵炎の診断のTopicsのひとつとして、早期慢性膵炎をいかに診断するかが挙げられる。早期発見・早期介入し不可逆的な慢性膵炎に至る時期を遅らせ、 膵性糖尿病や膵がん発症のリスクを下げることは、臨床上大変重要な課題である。 2011年のアメリカ膵臓学会での慢性膵炎のConsensus Meetingでは、膵機能を評価する上でSecretin MRIが有用であるという意見が主流を占めたが、早期慢性膵炎に関するその有用性については意見が分かれた。その議論の際、ひとつの期待として、慢性膵炎の早期の特徴である膵Perfusion低下に意見が及んだことは興味深い。実際に膵Perfusion画像を用いた早期慢性膵炎の診断の試み4)がすでに報告されている。

膵Perfusion画像の慢性膵疾患への応用に関しては、新たな報告が続いている。例えば、自己免疫性膵炎(ステロイド投与前後での血流変化)5)や、糖尿病(膵内血管の透過性の変化)6)などがPerfusion画像を用いて報告されている。Perfusion画像による慢性膵疾患への応用は、今後の広がりを感じさせている。

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s 膵がんと膵Perfusion画像

Perfusion画像は、膵がんの放射線化学療法への反応予測に有用である7)。また、Compartment modelを用いてPerfusion Parameterとして腫瘍内血管密度を測定し、これが病理像と一致することが明らかになっている8)

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s Perfusion CTと被ばく低減の試み

Perfusion CTの場合、被ばくの問題にも注意を払わなければいけない。体格の小さい患者さんの場合、管電圧を80〜90kV程度まで落とすことで、被ばく量は通常の 3相CT程度まで低減できる。しかし、欧米人なみの体格(BMI35)を超えるような患者さんの場合、Perfusion Imageの作成に、より多い線量が求められる9)。こうした理由からPerfusion CTにおける被ばく線量の低減へのアプローチは積極的に研究されている。例えば、Perfusion CTにおいて、撮像間隔や総撮像時間を緩和し、被ばく線量を減らすことができるか調べた研究がある10)。また、最新の試みとして、低線量条件に逐次近似法を組み合わせることで、より被ばく線量の低い条件でのPerfusion画像の作成の取り組みを行っているものもある。

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s ziostation2に対する期待

近年、Perfusion 画像の解析アルゴリズムとして、動物実験モデルやヒト臨床においてPatlak法や、Compartment法が 報告されている。こうした新しい世代の解析アルゴリズムは、単純な実質血流だけではなく、膵実質におけるPermeabilityや血管密度などを測定できると考えられ、臨床での期待は大きい。ziostation2は従来の 解析アルゴリズム(Maximum Slope法、Deconvolution法)に加えて、こうした 新しいアルゴリズム(Patlak法、Compartment法)の使用がCTおよびMRI画像にて可能である。また、研究者向けには、対象実質内のCT値の変化をEXCELファイルに落とすことができるので、Perfusion解析研究を進めるうえで大変便利である。こうした有用性が、より膵疾患の診断に役立つ方向に進むことを期待している。

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●参考文献
1) Bize, P.E., Platon, A., Becker, C.D., et al. : Perfusion measurement in acute pancreatitis using dynamic perfusion MDCT. Am. J. Roentgenol., 186, 114〜118, 2006.
2) Tsuji, Y., Yamamoto, H., Yazumi, S., et al. :Perfusion computerized tomography can predict pancreatic necrosis in early stages of severe acute pancreatitis. Clin. Gastroenterol. Hepatol., 5, 1484〜1492, 2007.
3) Watanabe, T., Tsuji, Y., Kodama, Y., et al. :Relationship between serum angiopoietin-2 level and perfusion CT parameters in severe acute pancreatitis. Am. J. Gastroenterol., 2011(in press).
4) Delrue, L., Blanckaert, P., Mertens, D., et al. : Tissue perfusion in pathologies of the pancreas ; Assessment using 128-slice computed tomography. Abdom. Imaging, 2011(Epub ahead of print).
5) Hirota, M., Tsuda, M., Tsuji, Y., et al. : Perfusion computed tomography findings of autoimmune pancreatitis. Pancreas., 2011(Epub ahead of print).
6) Yu, C.W., Shih, T.T., Hsu, C.Y., et al. : Correlation between pancreatic microcirculation and type 2 diabetes in patients with coronary artery disease ; Dynamic contrast-enhanced MR imaging. Radiology, 252, 704〜711, 2009.
7) Park, M.S., Klotz, E., Kim, M.J., et al. : Perfusion CT ; Noninvasive surrogate marker for stratification of pancreatic cancer response to concurrent chemo- and radiation therapy. Radiology, 250, 110〜117, 2009.
8) Bali, M.A., Metens, T., Denolin, V., et al. : Tumoral and nontumoral pancreas ; Correlation between quantitative dynamic contrast-enhanced MR imaging and histopathologic parameters. Radiology, 261, 456〜466, 2011.
9) Tsuji, Y., Takahashi, N., Chiba, T. : Pancreatic perfusion CT in early stage of severe acute pancreatitis. International Journal of Inflammation, 2012(in press).
10) Kambadakone, A.R., Sharma, A., Catalano, O.A., et al. : Protocol modifications for CT perfusion (CTp)examinations of abdomen-pelvic tumors ; Impact on radiation dose and data processing time. Eur. Radiol., 21・6, 1293〜1300, 2011.

(インナービジョン2012年2月号掲載)

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