3.0T MRIとziostation2を用いた心臓検査
ーziostation2をMRI、CTの心臓解析に活用して最先端研究を進める
北海道大学病院 放射線診断科 真鍋(大山)徳子 氏
▲ECR、RSNAの賞状の前で。真鍋(大山)徳子講師 |
北海道大学病院放射線診断科の真鍋(大山)徳子講師は、心大血管領域放射線診断学を専門として、MRI、CTによる画像診断研究に取り組んでおり、2010年のヨーロッパ放射線学会(ECR)および北米放射線学会(RSNA)では、それぞれ心臓MRIとCTに関する演題で受賞されるなど、循環器画像診断の気鋭の研究者である。
真鍋(大山)氏は、現在、ザイオソフトと共同で、3.0T MRIによる心臓解析アプリケーションの研究、開発に取り組んでいる。ザイオソフトの3D医用画像処理ワークステーション「ziostation2」を用いた心臓解析の最先端の動向を、北海道大学病院における心臓検査の現況も含めて真鍋(大山)氏に取材した。
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3.0T MRIによる心臓画像診断の可能性を追究 |
3.0T MRIで心臓検査を積極的に展開。
真鍋(大山)講師(中央)と心臓研究チームスタッフ |
真鍋(大山)氏は、2004年から心臓画像診断の研究(Framingham Heart Study)を目的に、ボストン(Beth Israel Deaconess Medical Center、Harvard Medical School、Boston)に3年間留学し、2007年から北海道大学病院でMRI、CTによる心臓領域の臨床研究を行っている。2010年のECRでは、3.0T MRIによる新しいストレイン解析法(演題名:Fast strain-encoded(SENC)MRI to evaluate subendocardial and transmural infarction at 3.0 Tesla)でscientific exhibitionのCertificate of Merit Awardを受賞、RSNAでは心臓CTのEducation ExhibitでCum Laude賞(演題名:What the Clinician Needs to Know:Noncoronary Cardiac Findings and Pitfalls in Coronary Computed Tomography Angiography)を受賞するなど、心臓の画像診断のホープとして期待されている。
同院には、3.0T MRI「Achieva 3.0T TX」(フィリップス)が導入されており、診療・研究に活用されている。3.0Tによる心臓MRIについて、真鍋(大山)氏は次のように語る。
「3.0T MRIによる心臓の撮像は、1.5Tに比べてSSFP(steady state free precession法シネ画像)でのアーチファクトなどが問題になるため、広く臨床普及しているとは言えません。しかし、3.0TではSNRが大きく向上するなどのメリットがあり、その特長を生かしてワークステーションを活用した心筋パフュージョンの定量評価、タギング法によるストレイン解析などを中心に積極的に取り組んでいます。現在は、ほとんどの心臓検査は3.0Tで行っています」
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大学病院の総合力を活かしMRIデータの定量化に取り組む |
ザイオソフトと共同でziostation2による心臓解析アプリケーションの研究、開発に取り組む |
真鍋(大山)氏は、現在、ザイオソフトと協力して、ziostation2を使用した3.0T MRIでのタギング法によるストレイン解析の臨床評価、心筋血流パフュージョンの定量評価などを中心に共同研究を行っている。心臓MRI解析のポイントを、真鍋(大山)氏は次のように述べる。
「心臓MRIは、高い空間分解能で形態から機能までを観察できることがメリットですが、ひとつの課題としてデータの定量化が挙げられます。MRIから得られるのは、信号強度(signal intensity)という相対値であり、経験に基づくビジュアル評価が中心でしたが、これからは画像診断においてもエビデンスが求められます。この課題を解決するため、ザイオソフトとの共同研究により、ワークステーションを用いてMRIデータの定量解析を行おうとしています」
MRIデータの定量化のエビデンスを確立するには、指標となるデータとの“すり合わせ”が必要になると、真鍋(大山)氏は語る。
「心臓血流定量評価のゴールドスタンダードは核医学検査であり、PETを中心に蓄積されたエビデンスがあります。同一患者の心臓のデータをMRIとPETで比較していくことで、MRIデータの定量化が可能になると考えています。北海道大学病院では、CT、MRIだけでなくPETやSPECTなどの核医学検査、超音波画像診断まであらゆる検査が行える体制が整っています。心臓核医学のデータとMRIの測定値の相関性を積み重ねていき、エビデンスを確立することがひとつのねらいです」
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MR心筋パフュージョン解析 〜核医学データとの相関性を検証 |
ziostation2のMR心筋パフュージョン解析では、安静時と薬剤負荷時のガドリニウム造影データにより心筋血流量と冠血流予備能を半定量的に解析する。心筋パフュージョン解析のアプリケーションの開発について真鍋(大山)氏は次のように言う。
「心筋パフュージョンの解析にワークステーションを使うことで、従来の経験に基づいたビジュアル評価から、信号値をベースにした経時変化や、心内膜側と外膜側の信号値の比などを数値として算出することが可能になりました。同一患者のMRIデータと核医学検査のデータとの相関を検証し、その結果をziostation2にフィードバックするように研究を進めています」
共同研究では、まず2011年中に30例以上の症例で比較検討を行っていく予定だという。心筋パフュージョン解析のアプリケーションは、同院での臨床評価を反映しつつ、今後もziostation2のバージョンアップを重ねていく予定だ。真鍋(大山)氏は、アプリケーションのポイントについて次のように述べる。
「解析では、結果の普遍性、計測値の再現性とデータの出力方法も重要です。再現性に関しては、熟練者でも初心者でも同じ解析結果が得られるように、ワークステーションで計測する対象範囲の選択や、ROIの設定方法などを中心に要望しました。データ出力は、定量化を進める上では計測結果を数値として記録することが必要ですので、エクセルなど汎用的なソフトで利用できるようにしています。製品として、ユーザーフレンドリーな操作性が実現されていますが、さらに開発を進めています」
MRパフュージョン解析結果画面(ziostation2)
左:心筋画像上に血流量をカラー化したものを重ね合わせて表示
中央:安静・負荷時の心筋血流量と冠血流予備能をbull's eye map表示
右:心筋血流信号の経時変化をグラフ化して表示
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MR心筋ストレイン解析 〜タギングデータ解析にPhyZiodynamicsを活用 |
MR心筋ストレイン解析は、シネMRIで心筋に磁気標識(タグ)を印加したデータから局所の壁運動異常などをとらえるもので、心筋への血流途絶により、早い段階で出現する隣接する正常心筋との時間的な収縮のズレを解析する。
「3.0Tでは、心筋に印加したタグが長く持続し、心周期の終わりまでその変化を観察することが可能です。タグの解析を行う方法としては、HARP法を用いたソフトウエアが開発されていますが、開発中のMRIストレイン解析方法では、心筋の検出から解析までを自動で行うことを目標としており、解析時間の短縮と精度の向上が期待されています。3.0T MRI自体のアーチファクトや画像の歪みの問題はありますが、臨床評価の積み重ねにより、期待が持てる結果が得られつつあります」
壁運動評価では、超音波画像が広く用いられており、タギングによる心筋ストレイン解析についても、超音波画像をリファレンスとして定量化に向けた臨床評価を行っている。真鍋(大山)氏は「ziostation2での解析では、セグメントやポイントを指定するだけで、ほぼワンクリックに近い操作で解析可能です。解析は、撮像しながら行うことが多いので、短時間で簡単に行えることは重要なポイントです」と語る。
MRストレイン解析は、ザイオソフトの最先端技術であるPhyZiodynamicsの機能を生かしたもので、ziostation2の新しいアプリケーションとして近くリリースを予定している。
ziostation2の心臓CT用アプリケーションの使い勝手について、真鍋(大山)氏は、「心臓の解析において、CTのワークステーションに要求されるのは再構成画像をいかに速く作成できるかです。通常の3DのボリュームレンダリングやCPRの作成、血管短軸の解析において、ziostation2はインタラクティブで使いやすいですね」と評価する。
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ziostation2による心臓の画像解析アプリケーションの開発を進める |
今後、ziostation2の心臓領域での期待については次のように言う。
「心臓の画像診断は、モダリティによって見ている情報が違いますので、それぞれの検査を相補的に行って総合的に評価することが重要です。ziostation2には、MRIのデータでもCTのデータでも活用できるアプリケーションがそろっています。複数のモダリティを同時に、解析結果や形態画像を重ね合わせて表示するなどの機能があると面白いかもしれません」
これからの研究の方向性について真鍋(大山)氏は、「研究は、臨床の延長上にあるものです。循環器領域のCTやMRIの検査件数が増加し、読影や解析が必要な画像情報が増え続けていますが、それを生かすのに欠かせない存在となったワークステーションを有効に活用できるように、認識率の向上や自動化の可能性を追究していきたいと考えています」と期待を込めて語っている。
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(2011年1月14日取材)
(インナービジョン2011年4月号掲載) |