SPECIAL LECTURE − 特別講演2
3D Slicer as a Research Platform for Medical Image Computing
(医用画像処理のための研究用プラットフォームとしての3D Slicer)
Ron Kikinis, M.D.
Professor of Radiology, Harvard Medical School, Robert Greenes Distinguished Director of Brigham and Women's Hospital
特別講演2では,ハーバード大学医学部放射線科教授のRon Kikinis氏により,「3D Slicer as a Research Platform for Medical Image Computing」と題する講演が行われた。講演に先立ち,同大学医学部准教授の波多伸彦氏が,オープンソース医用画像処理ソフトウェア「3D Slicer」の開発コンセプトや,米国国立衛生研究所(NIH)の助成金を受けて3D Slicerの研究開発を行っているNational Alliance for Medical Imaging Computing(NA-MIC)について日本語で解説。その後,Kikinis氏が3D Slicerの基本機能や新しいソフトウェア開発の現状,NA-MICのプロジェクトについて,デモンストレーションを交えながら英語で詳述した。
(事前解説)波多 伸彦 Associate Professor of Radiology, Harvard Medical School, Brigham and Women's Hospital |
オープンソース医用画像処理ソフトウェア「3D Slicer」には,医用画像処理に必要な2D/3D/4Dの画像表示や画像フュージョン,比較表示などの基本機能をはじめ,より高度なさまざまな機能が搭載されている。マルチモダリティに対応しており,診断はもとより,治療前計画などにも有用である。本講演では,3D Slicerの研究開発の現状や先進的な機能,有用性などについて述べる。
●NA-MICの開発の方向性と 3D Slicerの基本コンセプト
3D Slicerの研究開発にあたり,NA-MICがめざしているのは,個々の患者に合わせた医療のための画像処理技術の開発である。腫瘍のある患者の診断で特に重要なのは,例えば皮質脊髄路がどこにあるかということではなく,腫瘍と皮質脊髄路との位置関係であり,それを知るための患者固有の解析である。そこでNIHは,過去数十年にわたり,こうした新しい技術開発のために膨大な研究費を投じてきた。
NA-MICにおける主な取り組みは,アルゴリズム開発,ツール開発,臨床研究である。臨床的有用性が確認されたツールは最終的に製品としてまとめ上げ,流通させることになるが,それまでには10年,ときには20年もの時間がかかることがある。そこでわれわれは,研究成果を誰でも利用可能な形に変換できるプラットフォームを開発することとし,それを活用して得られた成果をフィードバックさせることを強制はしないが歓迎するというオープンコミュニティ方式を採用した。これが,3D Slicerの基本コンセプトである。
●3D Slicer開発の経緯と特長
3D Slicerの特長は,オープンソースであることであり,120万行のソースコードはすべて無料で公開されている。このため,世界中どこの研究者であっても,自分自身のコンピューターを使って研究内容に特化した開発ができるようになっている。
3D Slicerは,東京大学大学院在学中に波多氏が博士論文の1部として開発したソフトウェアの原型となり,最近設計の見直しを行い,Version3をリリースした。ソースコードの作成には,米国はもとより,日本や欧州を含むさまざまな地域から60名もの研究者が携わったが,これこそが,真の意味でのコミュニティによる研究開発であると言える。
●3D Slicerの機能と有用性
1.レジストレーション
“レジストレーション(Data Fusion)機能”(図1)は,2つの異なるデータセットを重ね合わせるのに有用である。剛性,非剛性の数種類のレジストレーション・アルゴリズムが採用されており,チェッカーボード表示によって,レジストレーション前後の3D画像の重なり具合を表示し,位置が補正されていく様子を見ることができる。
図1 レジストレーションの主な機能
2.セグメンテーション
“セグメンテーション機能”は,アルゴリズムを使用して,画像データからアトラスを自動的に判別する最先端の技術であり,今日盛んに研究が進められている。3D Slicerに搭載されたアトラスデータには,さまざまな被検者の画像をマッピングすることが可能だが,これは,セグメンテーションとレジストレーションの両方を用いた非常に高度な技術であり,サーフェイスモデルを作成して患者ごとのアトラスを簡単に視覚化することが可能となる。
図2は,セグメンテーションされた脳,腫瘍,腫瘍の嚢胞性成分,脳室であり,その結果を反映させたCTモデルを得ることもできる。正常な構造だけでなく,例えばアトラスと患者個人のfMRI情報との重ね合わせ表示や,腫瘍などの病変部にも適応している(図3)。
図2 セグメンテーション後の画像
図3 患者ごとに最適化された画像表示
3.トラクトグラフィ
“トラクトグラフィ”は,特定の部位にマーカーを設定してから,任意の領域の神経線維束を描出する機能である。それらのデータセットから,定量的測定値を得ることもできる。
4.画像ガイド下治療への対応
3D Slicerは,画像ガイド下治療(Image Guided Therapies:IGT)にも対応している。例えば,腹腔鏡検査においては,術前CTのボリュームデータおよび三次元再構成画像と,現在の超音波画像を位置合わせして連動させておけば,術野のより詳細な情報を得ることができる。さらに,MRIやCTはもちろん,さまざまなモダリティの3D画像表示に対応したロボットなど,他のナビゲーションシステムに接続するインターフェイスも搭載されており,臨床あるいは臨床研究に合わせた設定を行うことができる。
現在,手術現場においては市販のナビゲーションシステムが利用されているが,それらのプログラム内容は非公開であり,研究に用いることは困難である。しかし,われわれは,そうしたシステムとの共存をめざしており,実際に,BrainLab
社のVV Linkという研究用インター
フェイスとOpen IGT Linkを用いて,BrainLab社のニューロナビゲーションシステムと3D Slicerを接続し,手術に活用している。これにより,例えばトラクトグラフィでは,3D Slicerをニューロナビゲーションシステムのマウスポインターとリンクさせ,術中に白質神経路の観察を行うことが可能となった。そのため,執刀医は術中に,特定の神経路について患者ごとの特異的な情報を得ることができる(図4)。
図4 トラクトグラフィによるインタラクティブな神経路の描出
●まとめ
NA-MICでは,頭部はもとより,全身の各領域に関して多数のプロジェクトが進行しており,世界各国から多くの研究者が参加している。年2回,1週間にわたって行われるワーキンググループには,1回につき約130名が参加する。決して大規模ではないが,優秀な開発者,研究者からなる,決して小さくないコミュニティであると考えている。
*本講演は学術的な観点から述べられたものであって,AZE社の製品のプロモーションではありません。
1982年University of Zurich, Switzerland卒業。