ホーム AZE 別冊付録 Virtual Human & Analysis No.9ネットワーク型ワークステーションAZE VirtualPlace 雷神 Plusによる院内画像配信を開始 佐賀大学医学部附属病院
Power User Report
ネットワーク型ワークステーション AZE VirtualPlace 雷神 Plusによる院内画像配信を開始
診断,手術支援から医学教育まで幅広い領域で3D画像を有効活用
佐賀大学医学部附属病院
佐賀大学医学部附属病院は2008年12月,AZE社のネットワーク型ワークステーション「AZE VirtualPlace 雷神 Plus」を導入した。CTやMRIの技術革新によって画像データ量が飛躍的に増加するなか,ボリュームデータを最大限に診療に生かすためには,いまや3Dワークステーションは不可欠となった。さらに近年では,その臨床ニーズもスタンドアローン型から,3D画像を院内のあらゆる場所で参照できるネットワーク型へと,大きくシフトしつつある。同院では,こうした時代の変化にいち早く対応し,院内全体に3D画像を配信して,ほぼすべての診療科が自由に参照できる環境を構築。さまざまな場面で,3D画像を有効活用している。同院における3D画像配信の取り組みを報告する。
佐賀大学医学部附属病院は1981年,無医大県の解消をめざした国の一県一医科大学構想に基づき,佐賀医科大学医学部附属病院として開設された。2003年には佐賀大学と統合し,現在は診療科目26科,病床数604床を有し,1日の外来患者数は約800名に上る。
江戸時代末期から明治維新期にかけて,全国でもいち早く近代化を推し進めた佐賀県の独特な風土の中で歴史を育んできた同院は,開院以来約30年にわたり,常に“先進性”を大きな特色として打ち出してきた。高度な医療を支える画像診断装置は,64列検出器とX線管球を2対搭載したシーメンス社のdual source CT(DSCT)をはじめ,2台の3T MRIやアンギオCTなどの最先端機器が稼働している。また,2004年に大学病院としては最も早く全診療科での電子カルテを導入し,院内全体のフィルムレス化を図るなど,IT化にも力を注いできた。
医学教育においても,かなり早い段階から問題基盤型学習(problem based learning:PBL)を取り入れている。この手法は,医学生や研修医自身が自学自習によって主体的に学習に取り組むことで,問題解決能力を高めていくことをねらいとしている。
野出孝一 教授 |
佐久間理吏 医師 |
放射線部の北村茂利 技師 |
松島俊夫 教授 |
高瀬幸徳 医師 |
■院内各所での自由な3D参照を可能にするAZE VirtualPlace雷神 Plusを選定
同院では2008年12月,宮附k治院長が中心となり,DSCTの導入に併せてネットワーク型ワークステーション「AZE VirtualPlace 雷神 Plus」(以下,VirtualPlace雷神)を導入した。さらに,2009年8月に開設予定の卒後臨床研修センターには,スタンドアローン型の「AZE VirtualPlace Lexus64」(以下,Lexus64)を導入することが決定している。
その理由について宮負@長は,「DSCTから得られる膨大なデータを3Dワークステーションで三次元再構成し,さまざまな角度から参照できるようになれば,個々の症例の解剖の特性まで理解できるので,臨床で非常に役立ちます。また,研修医や医学生が自由に3D画像を参照できる環境を構築することは,医療の基本である解剖への理解を深めることにもつながり,PBLの観点からも大変意義のあることです」と述べている。
VirtualPlaceシリーズは現在,スタンドアローン型で小規模病院向けのLexus64から,ネットワーク型で大規模病院向けのVirtualPlace雷神まで幅広くラインナップされているが,消化器外科を専門とする宮負@長自身は,すでに2005年から,当時のスタンドアローン型「AZE VirtualPlace Advance」を肝門胆管がんの術前シミュレーションなどに使用し,その有用性を高く評価していた。その後,消化器外科ではシステムを「AZE VirtualPlace Lexus」(以下,Lexus)に更新し,さらには放射線科にもLexusが導入された。アプリケーションもどんどん進化していったため,宮負@長は,全身のすべての領域で活用できるとの認識を徐々に深めていった。
一方,スタンドアローン型ワークステーションを院内各所に設置することはコスト面からも難しいが,ネットワーク型であれば,コストを抑えつつ,すべての診療科で自由に3D画像を参照できる環境の構築も可能である。そこで,VirtualPlaceシリーズのネットワーク型ワークステーションの中でも大容量のデータ処理が恒常的に行え,アプリケーションの種類が最も豊富なVirtualPlace雷神を院内用として選定。さらに,卒後臨床研修センターには,教育用としてLexus64を選定した。
循環器内科医局のクライアント端末 |
心臓カテーテル検査室のクライアント端末 |
放射線部に設置されたVirtualPlace雷神本体 診療科から3D画像の作成を依頼された場合は,ルーチンの画像は診療放射線技師が,より詳細な解析が必要な症例では放射線科医がマニュアル操作で作成している。 |
■VirtualPlace雷神で大規模ネットワークを構築
VirtualPlace雷神の導入とともに,同院では20台のPC端末をクライアントとする大規模ネットワークが構築された。VirtualPlace雷神の本体サーバは放射線科に設置されており,CTとMRIのthinスライスデータが自動転送され,3か月間保存される。またPACSサーバには,thinスライスデータのほかに,2〜5mmのthickスライスデータが保存される。PACSは電子カルテと連携しており,画像処理ずみの3D画像をPACSサーバに保存しておけば,電子カルテ端末上でも見ることができる。
VirtualPlace雷神は,院内ネットワークに接続された汎用PCにクライアントの設定を行うだけで,何台でもクライアント端末として使用可能となる。画像処理は,本体もしくはクライアントからの指令を受けて本体サーバ上できわめて高速に行われ,クライアントには結果画像だけがリアルタイムに送信される。そのため,ネットワークへの負荷もかからず,ストレスなく画像処理を行うことができる。また,すべてのクライアント端末で本体と同じアプリケーションが使用できるため,わざわざワークステーションが設置されている場所に出向いたり,放射線科に3D画像の作成依頼をしなくても,各診療科の医師自身が病棟や医局にいながらにして簡単に3D画像を作成・参照できる。さらに,本体のほかに,4台のクライアント端末から同時に画像処理が行えるため,いつでもすぐに3D画像が参照できるなどメリットは大きい。
細血管解析アプリケーションにて,大動脈抽出範囲,左右冠動脈起始部を指定し実行する。 |
大動脈,左右冠動脈を抽出する。狭窄などが原因で,冠動脈を末梢まで追跡できていない場合は,追加で追跡作業を行う。 |
VR,ストレートCPR,ストレッチCPR,オブリークなどで,左右冠動脈の性状,狭窄の状態を確認し,診断を行う。 |
■VirtualPlace雷神が診断・治療で威力を発揮
VirtualPlace雷神を導入して約3か月が経過した現在,同院では3D画像を臨床で有効活用するための検討が診療科ごとに進められている。なかでも使用頻度の高い循環器内科,脳神経外科,消化器外科においては,すでに日常診療に欠かせない存在となりつつある。
● 循環器内科の使用経験
− VirtualPlace雷神を活用し,心臓CTの可能性を検証
循環器内科ではこれまで,MRIによる心機能解析などに力を入れていた。しかし,DSCTの導入をきっかけに,心臓CT検査が開始された。
心臓CT検査の意義について,野出孝一教授は,「循環器内科の重要な役割の1つに予防がありますが,その意味でCTは,虚血性心疾患,不安定プラークの性状評価,冠動脈の狭窄などを非侵襲的に診断するための重要な装置であると位置づけています。なかでも,冠動脈における不安定プラークの診断については,MRIよりもCTの方が有用性が高いと思います。また3D画像にすることで,患者さんへの説明の際にも理解が得られやすく大変有用です」と述べている。
同科ではいまのところ,トレッドミル検査や負荷心電図で確定診断に至らない症例などを中心に,これまでに約50名に対して心臓CT検査を施行している。VirtualPlace雷神のクライアント端末は,病棟,医局,心臓カテーテル検査室に計3台設置されているため,これらを活用して,不安定プラーク,線維性プラーク,安定性プラークのCT値の設定などについて,詳細な検討が行われている。
心臓CTの現状について,佐久間理吏医師は,「例えば心臓カテーテル検査を行う際に,2D画像ではどうしても見える角度に制限がありますが,VirtualPlace雷神では3D画像であらゆる角度から血管の状態が見られますので,非常に有用です。特に,血管が完全閉塞している症例では,造影検査だけでは閉塞部位より先がどうなっているかわかりませんが,3D画像を参考にすれば血管の走行を追うこともできます」と述べている。
一方,心拍動の影響により,3D画像の画質はCTの撮影条件によって大きく変わってしまう。そのため,CT室に近い心臓カテーテル検査室にクライアント端末を設置できたことは,CT担当の診療放射線技師とすぐに意見交換ができるという点でも大変助かっていると佐久間医師は話す。
現在,主に使用しているアプリケーションは“CT細血管解析”で,冠動脈の狭窄の評価などを中心に行っている。今後は心駆出率の評価や左室機能評価なども,順次行っていく予定という。
● 脳神経外科の使用経験
− 術前の治療計画,術中ガイドに3D画像を活用
脳神経外科では,医局と病棟にVirtualPlace雷神のクライアント端末を設置し,術前の治療計画や術中のガイドとして3D画像を活用している。医局ですぐに3D画像が参照できるようになりワークフローが向上したほか,電子カルテ端末からでも参照できるため,患者さんへの説明にも活用している。
3D画像の意義について,松島俊夫教授は,「脳の手術を行う際に,以前は骨の下に何があるかを,解剖の知識から想像するしかありませんでした。しかし,3D画像では,あらゆる角度から脳の構造が実際に見られますので,骨と血管,特に静脈洞との位置関係などもはっきりと確認でき,手術が正確かつ安全にできます。また,クモ膜下出血で救急に運ばれてきた患者さんに対しては,以前は血管撮影を行うしか診断の方法がありませんでしたが,いまは症例によってはCTで撮影し,3D画像で出血の原因となる破裂脳動脈瘤の有無を確認して,すぐに治療に取りかかれます」と述べている。
3D画像は患者さんの安全性の向上と,治療時間の短縮に大きく貢献していると言える。また,CTは短時間で撮影できるため,長時間の撮影に耐えられない小児のモヤモヤ病などの治療には,きわめて有用だという。
同科では現在,脳動脈瘤や脳腫瘍などのほか,片側顔面痙攣,三叉神経痛,舌咽神経痛などの疾患を多く扱っている。VirtualPlace雷神では主に,CTアンギオグラフィとMRアンギオグラフィを中心に,VR像やMPR像を作成して診療を行う。VirtualPlace雷神の操作性について,高瀬幸徳医師は,「以前に使用していたワークステーションと比べると,画像再構成スピードが格段に速く,動脈瘤の描出だけであれば,10〜15分程度で可能です」と話す。現状では,3D画像の使用頻度は,手術と外来を合わせて週に6〜7例だが,今後はさらに増えていくと思われる。
● 消化器外科での使用経験
− 肝・胆・膵領域における3D画像のさらなる有用性
消化器外科には,以前に独自で導入したLexusと,VirtualPlace雷神のクライアント端末1台が設置されている。3D画像は主に肝臓領域で使用されているが,肝門胆管がんの術前に,特に有用性を発揮していると宮負@長は話す。
「肝門胆管がんの診断では,血管造影検査でがんの進展範囲を確認します。特に術前には,切除範囲を正確に決定するために,血管の分枝や腫瘍と脈管の位置関係を正確に把握することが大変重要ですが,3D画像であれば,角度を変えて確認できますので,血管の走行がはっきりとわかります」
宮負@長はこのほか,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)の膵管の走行をCPR像で表示したり,早期の胆嚢がん,胆管がんの診断に仮想胆道鏡(Virtual Cholangioscopy)を活用することも検討していきたい考えだ。
内頸動脈高度狭窄症 狭窄の程度・範囲が詳細に描出されている。治療法の決定にあたって必要な狭窄部の高さや石灰化についても,簡便に評価することができる。画像は上からCPR像,VR像(中段左),MPR像(中段右)。 |
神経血管圧迫症候群(片側顔面痙攣) 後頭蓋窩の開頭に不可欠な静脈解剖が,骨透過像とともに描出できる。 |
脳神経外科医局のクライアント端末 |
■3D画像を活用した医学教育の充実に期待
VirtualPlace雷神を導入後,同院では順調に3D画像の活用の場が広がっている。いまのところ,ほとんどの診療科に1台以上のクライアント端末が設置されているが,1年ほど状況を見て,3D画像をより多く活用している診療科にクライアント端末を多く割り振ることも検討されている。
また,8月にはいよいよ卒後臨床研修センターが完成し,Lexus64の活用が開始される。各臨床科からは,個人情報を削除した状態であらゆる症例データが提供され,個々の解剖の特性まで踏まえた,より臨床に役立つ実践的な教育がスタートする。こうした環境が整えられることは,研修医にとってまたとないチャンスと言えるだろう。同センターを巣立つ研修医の中から,解剖への深い理解と,3Dワークステーションを自在に使いこなすスキルを身につけた,新しい世代の医師が誕生することが期待される。
(2009年3月17日取材)
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