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次世代の画像解析ソフトウェア

【月刊インナービジョンより転載】

■大血管用解析ソフトウェアの有用性

本郷 哲央/首藤利英子/清末 一路/松本 俊郎/森 宣
大分大学医学部放射線医学講座

●はじめに

2007年に大動脈ステントグラフトが薬事承認を受けて以来,大血管の血管内治療が国内で急速に普及している。旧来は,CTで得られた水平断像のみに基づき,留置するステントグラフトの選択,治療計画を行っていたが,三次元ワークステーションの利用により正確な設計に加えて,術前の詳細なシミュレーションが可能となった。治療戦略の決定に有用であるのは疑いがなく,大動脈弓部の治療や分枝型のステントグラフトの治療計画においては必須となっている。
このような背景から,大血管のより正確な解析と治療シミュレーション,および治療後評価の効率化を目的とし,当教室ではAZE社の協力のもと,大血管解析に最適化したソフトウェアを共同開発してきた。それらの経緯から,大血管用解析ソフトウェアの特長を,臨床における使用経験とともに紹介する。

●血管軸自動抽出と網羅的表示

大動脈は複雑に蛇行,屈曲しており,また,その断面は必ずしも正円ではない。ステントグラフト治療の計画では,宿主動脈の径の正確な把握が必要不可欠であり,そのためには大動脈軸と垂直な断面のcross sectionでの検討が重要である。
一方,大動脈では解析軸の自動抽出が従来のソフトウェアではうまくいかないことがしばしば経験されていた。今回の大血管用の血管解析ソフトウェアでは,大動脈軸の自動抽出能が向上しただけでなく,大動脈分枝を含めたツリー状の抽出も可能となっている(図1)。これにより検討の対象となりうる血管の中心線を速やかに,かつ網羅的に抽出することができ,効率的な解析が可能になる。

図1 血管抽出後の3D VR画像 アクティブな解析軸(桃色線)に加え,網羅的に抽出されたその他の解析軸(青線)がツリー状に表示されている。
図1 血管抽出後の3D VR画像
アクティブな解析軸(桃色線)に加え,網羅的に抽出されたその他の解析軸(青線)がツリー状に表示されている。

●血管内径の自動検出

本ソフトウェアでは,上記の過程で作成された血管軸を基に,血管内径の自動抽出を行い,複数箇所の最大径,最小径,平均直径を同時に計算,表示することが可能である(図2 a)。また,閾値の設定や抽出方法の変更により,外径に近い計測を行ったり,石灰化を省きながら内径を計測したりする細かな計測が可能なのも特長である。加えて,平均直径はグラフ(トレンドグラフ)にて表示が可能で,血管径の変化を連続的に検討することができる(図2 b)。Cross sectional imageは,ストレートCPR上で指定した任意の6点での表示が可能で,血管径や血管壁の詳細な評価が可能である。また,指定した6点においては血管軸方向の距離の任意の組み合わせを別表にてリアルタイムに表示しており(図2 c,d),治療計画において測定すべき血管軸上の距離を容易に網羅できる。

●血管解析に最適化した自動マスク作成

骨除去等を主体としたマスク作成による3D volume rendering(VR)での画像作成は,大動脈ステントグラフトの治療計画において表示する必要性の低い構造まで描出し,検討の妨げになることが経験される。本ソフトウェアでは,上記プロセスにて検出された血管内径をマスクとして用い,抽出された複数血管の合成マスクを作成することができる。これにより,関心となりうる動脈イメージを直ちに三次元にて可視化できる。ソフトウェア機能に含まれる動脈外径の抽出を行えば(図2 b,e),動脈瘤の血栓や血管壁のプラークなどもマルチレイヤーマスクにて表示が可能になる。また,骨の画像を別レイヤーとして表示可能で,実際の内挿術のシミュレーションにも有用である(図2 d)。

図2 胸部下行大動脈瘤における血管解析画面
図2 胸部下行大動脈瘤における血管解析画面
a:cross sectional image
b:ストレッチCPRと内径(水色),外径(緑色)のグラフ
c:指定された6点間の組み合わせ距離
d:3D volume rendering(VR)(骨および壁在血栓表示)
e:外径認識部分のcross sectional image(緑線)

●解析軸のカスタマイズ

中心軸は,ストレートCPRやストレッチCPR,3D VRなどさまざまな画面上にて自在に修正することができる。CPR画面上のフリーハンドでの中心線修正も本ソフトウェアでは可能である。実際のステントグラフトが挿入された状態に近い軸を想定し計画を作成したり,大彎側に沿った解析軸に修正したりすることが容易であり,実際のステントグラフトが留置される範囲を予測する際などにも有用である(図3)。

図3 3D VR大動脈大彎側へ修正された解析軸
図3 3D VR大動脈大彎側へ修正された解析軸

●アクセス血管の比較(2枝比較)

大動脈ステントグラフト内挿術では,アクセスする血管の選択も重要である。胸部ステントグラフトでは,最大で26F(8.6mm)程度の内腔がアクセスに必要な場合があり,より内腔が広く,石灰化の少ないアクセスを選択する必要がある。ソフトウェア上では,1画面に2つの血管軸のストレートCPR画像および内径の変化グラフを横に並べて比較することができ,アクセス血管の評価,決定にしばしば用いられる(図4)。

図4 二枝比較画面
図4 二枝比較画面
左右の腸骨動脈のストレートCPRとトレンドグラフを並べ,アクセスの血管の性状が容易に比較評価できる。

●おわりに

大血管解析用のソフトウェアの術前評価における有用性を紹介した。大血管の血管内治療や手術の術前計画において,専用の三次元ソフトウェアは綿密な治療計画の立案を可能にし,ひいては治療の有効性の向上に寄与するものである。今後も,大血管に対する血管内治療は治療手技やデバイスの開発により適応が拡大し,より複雑かつ綿密な治療計画が必要になり,適切なソフトウェアを用いた解析の必要性が増していくものと思われる。現時点では,バージョンが浅く,紹介した機能の中でもオペレーターによる細かな修正が必要になる場面も多いが,今後のさらなる開発が期待されるソフトウェアである。

【使用CT装置】 Aquilion 64,Aquilion ONE(東芝社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace(AZE社製)

(2012年11月号)

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