ホーム AZE 次世代の画像解析ソフトウェア当院における脳神経外科領域の術前手術シミュレーション ─ Isolated IVth ventricleに対する神経内視鏡下中脳水道形成術の術前シミュレーション応用例
【月刊インナービジョンより転載】
■当院における脳神経外科領域の術前手術シミュレーション
─ Isolated IVth ventricleに対する神経内視鏡下中脳水道形成術の術前シミュレーション応用例
木下 良正(医療法人社団水光会宗像水光会総合病院脳神経外科)
●はじめに
従来,脳神経外科医は自らの頭の中で二次元画像から立体化し手術シミュレーションを行い,狭い視野で手術を行っていた。しかし,十数年前より画像解析ソフトウェアの発展および普及によって容易に立体画像を作成することが可能になり,コンピュータ上で画像を動かしたり,手術では見ることができない方向から観察したりすることで,術野の全体イメージをよりつかみやすくなり,より安全な手術が可能になった。
当院でも,64列のヘリカルCTの導入により高解像度のスライスデータを数十秒の短時間で取得できるようになり,CTを用いた動脈瘤のクリッピング術や血腫除去,腫瘍切除の手術シミュレーションに積極的に利用している。本稿では,「AZE VirtualPlace 雷神」(AZE社製)を用いた神経内視鏡的中脳水道形成術の術前シミュレーションが有用であったので紹介する。
●症例提示
50歳代,男性。くも膜下出血を発症して昏睡状態で救急搬入された。WFNS gradeXであり,CTでは後頭蓋窩に強いくも膜下出血を認め,緊急のCT血管撮影(CTA)で左椎骨動脈の紡錘状動脈瘤の破裂と診断した(図1 a)。入院同日,全身麻酔下に左椎骨動脈のコイル塞栓術を施行し,左後下小脳動脈を温存して左椎骨動脈本幹と動脈瘤を塞栓した(図1 b)。コイル塞栓術に引き続き,両側脳室ドレナージ術を施行した(図2 a)。術後,脳血管攣縮のため小脳腫脹が強く(図2 b),1か月間脳室ドレナージにて脳圧を管理した。脳室ドレナージ中,第4脳室が拡大し(図2 c),Isolated IVth ventricleと診断し,脳室-腹腔シャント手術と同時に神経内視鏡による中脳水道形成術を計画した。
図1 来院時造影CT血管撮影とコイル塞栓術前後
左椎骨動脈に紡錘状破裂脳動脈瘤を認める(←)。
左後下小脳動脈を温存して左椎骨動脈本幹と動脈瘤を塞栓。術後の血流も良好であった。
図2 CT経過とMRI
両側脳室ドレナージ術直後のCT(a)。発症2日目のCTでは血管攣縮のため小脳腫脹が著明であった(b)。
発症50日目のCT,発症40日目のMRI矢状断では第4脳室のみが拡大しIsolated Wth ventricleと診断した(c)。
中脳水道の閉塞の状況を確認するため,CTを用いた手術シミュレーションを行った。手術2時間前に,ヨード造影剤4mLを脳室ドレナージチューブを介して注入し,60分後にヘリカルCTを撮影した。造影剤のごく少量の通過ポイントを赤でマーキングして,AZE Virtual-Place 雷神上で仮想内視鏡画像を作成した(図3)。仮想内視鏡上で右モンロー孔から第3脳室底を確認して,後方の拡大した中脳水道入口部を観察する動画を作成した(図4)。中脳水道入口部正中に前後に走るseptum(図5↑)があり,その左側の薄い癒着膜(図5▲)部を穿孔する計画とした。また,第4脳室をsegmentation(青色)して中脳水道入口部の画像と合成することで,中脳水道と第4脳室の位置関係を術前に検討できた。
シミュレーション直後に手術に移動し,全身麻酔下に右前角穿刺を行い神経内視鏡(オリンパス社製VISERA脳室ビデオスコープ)を挿入した。シミュレーション通りにモンロー孔を通過し,第3脳室底と中脳水道を観察した。中脳水道入口部にフィブリン様癒着の膜ができており,前後方向に走るseptumがシミュレーション通りに認められた。septumの左側に一部小孔があり(図5▲),その部を3Frフォガティーカテーテルで穿孔して拡張した。その後,4Frのフォガティーカテーテルと鉗子を用いて,septumの右側を第4脳室方向に穿孔して拡張させた。第4脳室からの髄液拍動を確認してアートセレブ(脳脊髄手術用洗浄灌流液)で十分洗浄し,出血がないことを確認して神経内視鏡の操作は終了し,脳室-腹腔シャント手術を追加して手術を終了した。本手法は,安全な神経内視鏡操作を可能にした非常に有用な術前シミュレーションであった。
図3 AZE VirtualPlace 雷神のシミュレーション作成画面
造影剤のごく少量の通過ポイントをマーキング(●)して,AZE Virtual-Place 雷神上で仮想内視鏡画像を作成した。
図4 仮想内視鏡画像
仮想内視鏡上で第3脳室底(←)を確認にして,後方の拡大した中脳水道入口部(▲)に接近する動画を作成した。中脳水道の正中に前後に走るseptumがあることと,第4脳室への造影剤の流入ポイント(●)がseptumの左側であることが,術前シミュレーションで確認できた。
図5 手術シミュレーション,仮想内視鏡画像と手術所見の対比
第4脳室をsegmentation(青色)して中脳水道入口部の画像と合成することで,中脳水道と第4脳室の位置関係を術前に検討できた。神経内視鏡手術と比較すると,中脳水道の正中に前後に走るseptum(↑),その左側に薄い癒着膜(▲)の存在を確認できた。中脳水道の正中のseptumの左右で開窓して第4脳室と交通をつけた。
●さいごに
神経内視鏡の欠点は,視野が狭く,disorientationに陥りやすいことが挙げられる。特に,神経内視鏡下中脳水道形成術では,手術操作により中脳水道周囲組織障害を来す危険性が非常に高いため,安全な神経内視鏡操作が求められる。本症例のように中脳水道に膜様閉塞物がある場合には,穿孔部位や穿刺方向の術前シミュレーションが術者にとって有用な情報となった。
【使用CT装置】 Aquilion 64(東芝社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)
(2012年9月号)