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【月刊インナービジョンより転載】
■AZE VirtualPlaceを用いた実体模型作製の有用性
中原 龍一
岡山大学医学部整形外科
●はじめに
CTやMRIの画像から実物大の臓器模型(実体模型)を作製するシステムとして,三次元プリンタが注目されている。術前に撮影したCT画像から,手術用に実体模型を作製することで,部分的ではあるが保険点数が認められるようになった。実体模型作製のためには,CTやMRIなどの画像データを実体模型用データに変換する必要があるが,これまでは変換作業に時間と人手がかかることが問題であった。当院では,「AZE VirtualPlace」(AZE社製)を用いることで変換作業コストを劇的に改善させることができたので,その方法と利点を概説する。
●背景:医療用実体模型の発達
三次元プリンタは,コンピュータ支援設計(computer-aided design:CAD)で作成した設計図データから,迅速に試作品を作製するrapid prototyping(RP)システムとして発展してきた。CTデータをCADデータ形式(STL形式)に変換して,実物大の臓器模型を作製する試みは1990年ごろから始まった。当初は非常に高価な光造形機を使っていたため,臨床使用は少なかった。近年,精度は低いが安価な石膏粉末を用いたRPシステム(3D Systems社製のZ Printerなど)が販売されるようになったため,臨床使用報告が増えてきた。特に,顎骨腫瘍の再建や脊椎疾患・骨盤腫瘍の分野では,手術前のプレートベンディング(図1)や複雑な三次元構造の把握に有用であるため,保険点数(K-939「画像等手術支援加算2 実物大臓器立体モデルによるもの」2000点)が認められるようになった。
図1 鎖骨骨折症例における手術前のプレートベンディング
骨折していない側の左右反転像(鏡像)の実体模型を作製し,骨折線を描き,手術前に最適な位置でプレートベンディングを行った。
●実体模型作製における医療用ワークステーションの有用性
実体模型作製のためには,CT画像から実体模型として作製する領域を抽出する必要がある。通常は,RPシステム用のCADソフト(Mimics:Materialize社製)が利用される。このソフトを用いることで,医療用データ形式であるDICOM形式のCTやMRIの画像から特定領域を抽出して,CADデータ形式であるSTL形式のファイルを出力することが可能となる。このように,実体模型作製に必要とされるデータ処理は,(1) CT・MRIの画像からの領域抽出,(2) CADデータ形式(STL形式)への変換である。MimicsなどのCADソフトは,STL形式への変換は有能であるが,CT画像からの領域抽出機能は医療用ワークステーションより劣る。模型作製時には,領域選択作業に多くの時間をとられるため,領域抽出をいかに正確に早く行うかが重要となる。
医療用ワークステーションであるAZE VirtualPlaceは,高機能な領域抽出機能を備えているだけでなく,抽出した領域をDICOM形式で保存することも可能である。そこで当院では,領域抽出をAZE VirtualPlaceで行い,STL形式への変換はMimicsで行うという分業体制を構築している(図2,3)。
図2 実体模型作製工程
図3 領域抽出画面
領域選択作業を医療用ワークステーションで行うメリットは大きい。抽出速度が速くなるだけでなく,作製コストも改善される。作製コストは体積と相関するため,作製コストを下げるには必要最小限の大きさで作製することが重要である。当院では,医師が領域選択を行い,必要最小限の大きさで抽出することを心掛けている。選択領域内を除去する機能を用いて,不必要な内腔をくり抜いて体積を小さくすることで,作製コストを下げる工夫も行っている。一度にまとめてたくさん作ると単独で作製するより安くなるので,複数の異なるオーダを蓄積しておき,作製時に敷き詰めて作製している(図4)。そのためには,なるべく早めにCTを撮影し,画像処理を行うことを関係者に周知している。また,抽出領域データを作製記録として保存することも可能である。
図4 複数のオーダをまとめて作製することでコストを削減
複数のオーダを貯めて,組み合わせて作製すると, 単独作製より安く作れる。
RPシステムは,安価になったとは言えまだ高価であるため,RPシステムを所有している病院は少ない。そのため多くの施設では,実体模型作製会社に外注することになる。外注の問題点は,外注会社で領域抽出処理を行うため,領域抽出コストがかかることと,抽出した領域が本当に必要としている領域かを確認するための時間がかかることである。しかし,医療用ワークステーションを用いて病院側で事前に領域抽出処理を行うことで,処理コストと確認時間を減らすことが可能になる。
このように,医療用ワークステーションを用いることで,(1) 作業コストと作製コストを減らし,(2) 作製記録を保存することが可能となる。
●実体模型の特性と今後の展望
実体模型は,手で触ることや,骨形状に合わせたプレートベンディングなど,二次元ディスプレイではできないことが可能となる。しかし,実体模型はすべての三次元情報を表示できるわけではない。実体模型は,本質的には領域抽出処理,つまり0か1か,ありかなしかの2値化処理を加えられた三次元情報を表現しているにすぎず,透明な素材や多色刷りが可能なシステムも販売されるようになったものの,まだまだ微妙な濃淡表現を行うことはできない。骨などの奥行きを含んだ複雑な三次元構造を確認したい場合や,手術前にプレートベンディングを行いたい場合には実体模型を用い,信号の微妙な濃淡が重要となる臓器では,三次元画像再構成を行い二次元ディスプレイで表示する,というように使い分けることが重要である。実体模型は現在も進化を続けており,半透明素材や多色刷りが可能な三次元プリンタも販売されるようになった。硬い素材だけでなく,軟らかい素材も利用可能となってきており,軟部組織を含めた実体模型作製など応用範囲が広がることが予想される。将来的には,模擬手術などが可能となる時代が来るかもしれない。
このように,二次元ディスプレイ以外の新しい出力装置として実体模型が登場したことにより,出力装置の特性に合わせた新しい画像処理が必要となってきている。ますます高度化する撮影装置と出力装置をつなぐシステムとして,医療用ワークステーションを有効に活用することが,今後の医療において重要な要素となるであろう(図5)。
図5 医療用ワークステーションを用いたシステム接続
医療用ワークステーションは(WS),さまざまな入力システムを,さまざまな出力システムにつなぐハブとして重要な位置を占める。
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace(AZE社製)
(2012年3月号)