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【月刊インナービジョンより転載】
■部分的脾塞栓術前後の脾臓体積測定
渡部 祐樹
社会医療法人 社団更生会 村上記念病院画像診断センター
●はじめに
近年,MDCTとワークステーションの進歩により,詳細な画像情報を比較的容易に得ることができるようになった。
脾機能亢進症のほとんどは肝硬変による門脈圧亢進症に伴うもので,食道静脈瘤や胃静脈瘤を合併していることが多く見られる。MDCTのデータとワークステーションを使用することは,治療方針の決定や治療効果の判定に有効である。
脾機能亢進症の治療に部分的脾塞栓術(partial splenic embolization:PSE)がある。PSEは,脾動脈からの分枝に塞栓物質を留置して脾臓への血流を改善し,血小板の増加や門脈血行動態の改善,静脈瘤の縮小を目的として施行する。外科的に脾臓を摘出する治療法に比べ低侵襲であり,脾機能温存の面からも有効な治療法である。当院では,PSEの効果判定にワークステーションを用いて3D画像上で体積を測定し,数値的,視覚的に脾臓の塞栓効果を確認している。
●撮影法
使用CT装置は16列MDCT「Bright Speed Elite」(GE社製),ワークステーションは「AZE VirtualPlace Advance-300」(AZE社製)を用いている。
CT撮影プロトコールは表1に示す。PSE後,バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)を施行予定のため,単純CTおよび造影4相(早期動脈相,後期動脈相,門脈相,平衡相)のダイナミックCTを行う。右肘静脈より,630mgI/kgの造影剤を注入時間30s一定で注入する。モニタリング位置は腹腔動脈分岐部とし,撮影範囲は,単純CT,早期・後期動脈相が上腹部,門脈相が静脈瘤の観察のため下部食道から下腹部としている。平衡相も,腹部全体を観察するため上下腹部としている。各相5mmの厚いスライス厚の画像をサーバへ保存し,薄いスライス厚の画像は脾臓体積測定や3D画像,MIP像作成のためワークステーションへ送信し,作成した画像はサーバに保存している。また,早期動脈相の薄いスライス厚の画像については0.625mmとし,より細かい血管の描出ができるようにしている。
表1 CT撮影プロトコール
●脾臓体積の測定方法
画像処理は脾臓の体積を測るため,脾臓がよく造影されている門脈相で行うようにする。当院では,肝臓用の体積解析ソフトを使用するわけではないので,AZE VirtualPlace Advance-300のセミオート抽出機能を使用する。この機能は,複数のスライスで抽出したい領域を指定することにより,スライス間を自動的に補間し,ボリュームで抽出したい部分を輪郭として設定する。次に,“フリーハンドモード”を用いて輪郭をトレースする。画像上でマウスをドラッグせずにクリックしていくことで,その近傍で画素値が異なる点をソフトウェアが自動的に表示してくれるので,脾臓を造影された部分だけを選んで描出することが可能となる(図1)。続いて,トレースした領域を抽出し,脾臓を3D画像として描出する(図2)。MPR像で抽出されていない部分がないか確認して,なければ体積測定をし,抽出できていない部分があれば,追加抽出により抽出を行う。領域を指定するときは,脾動脈や脾静脈を一緒に描出してしまうと体積が多く測定されてしまうので,抽出しないように注意を払う必要がある。PSE後の脾臓は,造影される部分と塞栓により造影されていない部分が明瞭に分かれるので,オパシティを変化させることでどの部分が塞栓されているのかを表示することができる。薄い青色の部分が,塞栓され血流がなくなった脾臓の部分で(図3 ←),赤い部分が残った脾臓の部分である(図3 ←)。
図1 ワークステーション上での輪郭トレース
図2 PSE前後の脾臓3D画像
図3 PSE後の脾臓3Dオパシティ変化画像
●症例提示
68歳,男性。C型肝硬変,肝細胞がん(HCC)の症例で,経過観察中に食道静脈瘤,脾腫が見られ,PSE施行の対象となる。PSE前のダイナミックCTでは,肝S8に早期造影効果,washoutが見られた。脾臓には脾腫が,胃壁には1cm程度の副脾が見られた(図4 a)。3D画像にて体積を測定したところ,約620mLであった(図4 b)。
PSE施行時の上腸間膜動脈経由門脈造影では,門脈も太いが,側副路の発達は見られなかった。脾動脈造影では,脾臓は著明に腫大しており,脾動脈は脾門部まで著明な拡張が見られ,分枝も拡張している。カテーテルを脾動脈の下区域分枝まで進め,塞栓物質にて塞栓した。
PSE施行後の梗塞率確認のCTにて,腫大していた脾臓は内部に不均一な低吸収域が斑状に見え,塞栓された部分があることがわかる。3D画像上でも塞栓された部分が明瞭に見られ,体積を測定すると約474mLで,PSE前と比べると30%程度の塞栓率であった(図4 c,d)。
図4 C型肝硬変,HCC(68歳,男性)
●まとめ
PSE前後で脾臓の体積測定を3D画像上で行うことは,治療の効果判定のための一つの有効な指標である。また,患者さんへの説明を数値と3D画像を用いることにより容易に行え,診療に役立つと言える。
しかし,解析ソフト等を使用したデータではないので,画像作成者により作成した体積が異なるということが起こる。そこで,作成マニュアルを整備するな ど,誰が作成してもできるかぎり同じ画像が出来上がるような環境をつくる必要がある。
【使用CT装置】 BrightSpeed Elite(GE社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace Advance-300(AZE社製)
(2010年5月号)