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【月刊インナービジョンより転載】
■低侵襲心臓手術のシミュレーション動画作成
阪本 剛
東邦大学医学部医学科研究員
森田 照正
順天堂大学医学部附属浦安病院心臓血管外科准教授
●背景
近年,内視鏡下の手術術式が腹腔内手術(消化器科・泌尿器科・婦人科)をはじめ,呼吸器外科などでも展開され,急速に普及している。心臓外科に関しては,従来よりほとんどの手術は胸骨を正中切開し,人工心肺補助装置による体外循環を確立し,心停止下に行われてきた。
本稿で提示する低侵襲心臓手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery:MICS)では,胸骨切開を行わず,肋間に皮膚切開を置き胸腔内に侵入しターゲットである僧帽弁等にアプローチし治療することが可能となる。これには,以下の利点が挙げられる。
(1) 術後合併症のリスクが低く,術後の回復が早い低侵襲性
(2) 非常に小さい手術痕による患者の高い満足度
(3) 治療部位(僧帽弁)を正面から見ることができる解剖学的優位性
心臓手術の適応患者は,腎機能や呼吸機能など各臓器の予備能が低下していることが多いことなどを考えると,低侵襲性という利点は,患者に大きな恩恵をもたらすと考えられる。
しかし,内視鏡下では術野が狭く特殊な環境下であることと,実施施設がまだわずかで症例も少数であり,関心があっても踏み出せないという問題点がある。これらの問題点を少しでも解消すべく,今回われわれは,AZE社製ワークステーション「AZE VirtualPlace 雷神Plus」を使用して,CTから取得したボリュームデータをもとにボリュームレンダリング(VR)を行い,仮想内視鏡ソフトによる手術シミュレート動画を作成した。事前に取得したCT画像でシミュレートすることにより,心臓の位置・形状などの個人差に対応でき,手術の精度を高め難易度を下げることができると思われる。また,未経験の医師・スタッフの教育や,患者への説明に理解が得やすく有効である。さらには,アプローチ部位によって変わる術野,内視鏡カメラのアングル,また,ターゲットへの距離の違いなども事前に知ることができる。
●方法
僧帽弁手術におけるアプローチの手順を,シミュレート画像とともに示す。
(1) 第5肋間-前腋窩線を切開。VRの向きは胸部右側面,画面の左が頭側(図1)。
(2) 切開部より右胸腔へ内視鏡を挿入。
(3) 胸腔内の障害となる構造物(右肺)を除去し,右肺静脈に向かって直進する。
(4) 右心房背側で,右肺静脈起始部にて右側左心房壁を頭尾方向に切開し,左房内に進む(図2)。
(5) 左房内で,右前方に位置する僧帽弁を観察する(図3)。
図1 第5肋間を切開し,右胸腔内をのぞく |
図2 右肺静脈基部にて左房壁を切開 |
図3 左房の内部 (僧帽弁,左心耳,上下左肺静脈) |
僧帽弁を展開するためには,胸椎付近の背側に位置する左心房から斜前方を向かなくてはならず,胸骨正中切開による手術だとすべてを直視することは難しい。しかし,MICSによる右開胸の手術では,僧帽弁は自然な状態で容易に直視できる。CTによるアプローチのシミュレートに併せ,経食道3Dエコーで僧帽弁の機能評価を行うことで,より総合的な評価ができスムーズな手術につながると考える。
これとは別に,右開胸による大動脈弁手術のMICSをシミュレートした動画を現在作成中である。提示しているのは,上行大動脈のST接合部より大動脈内に侵入する画像である。実際の手術では,交連部の支持糸を利用し正対させるが,仮想内視鏡シミュレートでは,大動脈弁直上まで進み正対視することができる(図4)。また,左開胸でのMICSを想定し,左胸腔内に内視鏡カメラを置いたシミュレート画像も作成した(図5)。これは,心尖部から行う大動脈弁治療への応用に有効なシミュレートとなりうる(図6)。
図4 右胸腔内で上行大動脈より大動脈弁を観察 |
図5 左胸腔内で左心室を観察 |
図6 左室心尖部から流入路・流出路を観察 |
●終わりに
現在,幅広く内視鏡下による手術技法が開発され,術者や患者に大きく貢献しているところである。しかし,新しい技法を取り入れる際には,どうしても事前の情報量が少なく,術者に不安を与える。ここでは,3D-CTを最大限に活用することで,手術を実施する術者に有用な情報を与えることが可能である。さらに,これからこの手技を習得しようとする外科医においては,これら事前情報があれば,非常にスムーズに新しい手技を取り入れられるのではないかと考える。
【使用CT装置】 Aquilion ONE(東芝社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace 雷神Plus(AZE社製)
(2010年4月号)