ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Technical Note腹部領域におけるArea Detector CT Aquilion ONEの最新技術
2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
■Aquilion ONEの撮影技術
Aquilion ONE(図1)は,0.5mm×320列の面検出器を搭載し,1回転で160mmの範囲を撮影するVolume Scanが可能である。Volume Scanの利点は,対象臓器においてZ軸(体軸)方向に時相のズレがなくなり,最速0.35sで160mmの範囲の等時相データを収集できることである。また,撮影時間が短縮されることで,息止め負担の軽減や造影剤量の低減が可能となり,総合的に患者負担が低減される。さらに,Helical Scanによるオーバーラップが排除され,照射線量が従来に比べ腹部で20%,心臓で75%低減でき,被ばく線量においても患者負担が低減される〔自社比較(Aquilion 64,Aquilion ONE)〕。
本稿では,このVolume Scanを応用したAquilion ONEならではの最新臨床技術と被ばく低減技術について紹介する。
■Dynamic Volume Scan
Dynamic Volume Scan(DVS)は,Volume Scanを連続または間歇で複数回撮影することにより,Volumeデータに時間情報を加えた4次元データを取得する撮影法である。DVSは寝台移動を伴わないため,幾何学的な位置ズレのない,臓器の連続した血流情報を得ることができる。この4次元データは任意の方向から観察可能であり,臓器,骨,血管の重なりを避けた評価や,病変の微細な時間変化をとらえることが可能となる。
図2に,肝細胞がん術前検査の例を示す。本症例で使用した造影剤量はわずか20mL(倍希釈)のみであり,従来のInterventional Radiology(IVR)に比べ,造影剤量の低減と検査時間の短縮を図っている。
図2 Dynamic Volume Scanを用いた肝細胞がん術前検査(画像ご提供:医療法人 大雄会様)
■Body Perfusion(灌流解析)
臓器の灌流(Perfusion)情報は,血流量,血液量,平均通過時間などを用いての病態鑑別や治療効果判定に有用と期待されている。CT Perfusionは,画像上で造影した臓器におけるCT値の時間変化を解析することで,臓器の灌流情報を数値化,または視覚化するものである。
従来,CT装置ではPerfusionデータを得るための撮影範囲が,32〜40mm程度に限られていた。そこで,寝台を体軸方向に連続的に動作させ,ある程度の範囲を撮影する方法もあるが,前述のとおり,Perfusion情報は画像上における各ピクセルの微細なCT値変化を評価するため,寝台移動に伴う慣性力や位置ズレの影響が懸念される。一方,DVSは,寝台を動かさずに160mmの範囲の経時的な撮影が可能なため,膵蔵や腎臓の全域,および肝臓のほぼ全域を幾何学的位置ズレから根本的に脱却した状態で収集できる。さらに,本装置では自律運動により発生する動きの影響を,非剛体位置合わせソフトウェア(Body Registration)を用いて補正することができる。このように,Aquilion ONEは従来に比べ,より高精度なCT Perfusion解析を可能としている(図3)。
■Dual Energy System
Dual Energyは,対象物を異なる2種のX線エネルギー(管電圧)で撮影し,エネルギー透過性の違いから物質を特定,弁別する技術である。これにより,造影剤や石灰化の抽出,仮想単色X線画像の作成やビームハードニング効果の低減などの利点が得られる。
本装置には,Dual Energy Volume Scan(DE-Vol)とDual Energy Helical Scan(DE-Hel)の2種の撮影法が搭載されている。DE-Volは,同一部位上でVolume Scanを2回転行う間に,高速(最速0.16s)で管電圧,管電流を切り替える撮影法である。DE-Helは,管電圧を回転周期ごとに切り替えながらHelical Scanを行う撮影法であり,X線曝射を背面に限定することで,乳房など,放射線感受性の高い臓器への被ばく低減を図ることができる(図4)。
収集したデータは,2種のkV画像として提供可能なほか,ヨード造影剤によるCT値シフト量を表示するIodine MapやIodine差分画像,任意のkV画像を作成するBlending Image,結石の成分を評価するStone Analysisなどの解析ができる。これらの解析に対象部位の制限はなく,あらゆる臓器に対しての解析評価を可能としている(図5)。
図5 Dual Energy(肝細胞がん)
■AIDR 3D:被ばく低減再構成法
Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)は,東芝の新しい画像再構成法である。再構成処理の中でScanner Model, Statistical Modelを用いた生データ空間でのノイズ低減処理と,Anatomical Modelを用いた画像空間でのノイズ低減処理を併用することで,従来よりも,最大50%のSD改善および75%相当の被ばく線量低減を実現した(図6)。また,投影データの検出器カウントが不均一な場合に発生するストリークアーチファクトも低減することができる(図7)。
図8に,ノイズ特性を示した。AIDR 3Dは,特に低線量データに対するSD改善率が高いことがわかる。実測した再構成時間は,34flame/s〔0.5mm×80列/0.35s/rot/HP 111/FC13/AIDR 3D(Strong)〕であり,臨床現場でストレスなく活用できる。さらに,AIDR 3Dは適用部位に制限がなく,心電図同期やVolume EC(Auto Exposure Control)との連動も可能である。追加ユニットは不要であり,東芝CTのAquilion PRIME,Aquilion CXL Edition,Aquilion RXL Edition,Alexion,Alexion Access Editionに標準搭載されている。
図6 AIDR 3Dアルゴリズム
図7 AIDR 3D効果比較(模擬結節入り胸部ファントム)
120kV/10mA(3.5mAs)/0.35s/rot/BP 1.391/0.5mm×64
(画像ご提供:慶應義塾大学病院様)
図8 AIDR 3Dの強度別SD比較
120kV,水ファントム(M),画像厚0.5mm,FC13
冒頭で述べたように,これらDVS,Body Perfusion,Dual Energyを支える技術は,すべてVolume Scanによる収集を根本としており,今後,CTは面検出器を基本として発展することが予想される。また,さらなる被ばく低減への技術開発はますます加速され,特に複数時相を撮影するScan法において,AIDR 3Dの適用は,これら最新臨床技術の発展に貢献できると考える。東芝は,医療機器メーカーとして,今後も多くの患者被ばくの低減と新技術の開発に注力していきたい。