ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Technical Note3D Wall Motion Tracking技術の特長と最新動向
2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
近年,心エコーにおいては,スペックルトラッキング技術を用いた壁運動解析が注目を集めており,その応用が広がっている。当社は,この技術を応用した壁運動解析アプリケーション“Wall Motion Tracking”(2次元の2D WMTおよび3次元の3D WMT)を開発し,「Artida」および「UltraExtend Workstation」上に搭載している。特に当社では,3D WMTを世界に先駆けて開発・製品化し,3次元動画像を用いた多様な解析機能を提供している。本稿では,3D WMTの特長,およびその応用,最新技術に関して概説する。
心臓とその動きは3次元であり,3次元的な動きそのものを評価すべきであるという臨床ニーズは強い。われわれは,このニーズに応えるべく,Artidaの3次元動画像データを用いる3D WMTを開発した。3D WMTでは,テンプレート画像として2次元画像ではなく,立方体画像を使用する。この立方体テンプレートが,次の3次元画像中のどの部分の3次元スペックルパターンと最もマッチするかを3次元的に探索し,局所の3次元的な動きを求めている(図1)。この3次元画像マッチングを全心筋領域に対し実施し,1心周期にわたって繰り返すことにより,局所的な3次元運動解析を心臓全体に対し実施することが可能になった。
図1 3次元画像での3次元スペックルトラッキングの概要
従来の2Dトラッキングでは,“対象が断面から逃げてしまう”という“through-plane”問題があったが,3D WMTでは,断面内だけでなく,断面に垂直な方向へも追跡できるので3次元的な真の動きの解析が可能となっている。また,3D WMTでは,1つの3次元動画像からstrainなどのすべての壁運動パラメータを,左室全体について一度に求めることが可能となる。特に,左心室の構造上重要な3つの直交するstrainとして,radial,longitudinal,circumferentialの各strainを,左心室の心筋領域全体について同時に定義することができる(図2)。さらに,各短軸断面のrotationと断面間の距離を同時に求めて,理想的なtorsionを計算するとともに,torsionの空間分布という新たな出力を提供することが可能である。
図2 3D WMTでの壁運動指標の定義
また,従来から解析されてきた上記の1次元的な3つのstrainだけでなく,3次元的な壁運動の様子をより簡便に把握可能な指標として,3D WMTにおける心内膜面の局所面積変化率に着目し,“Area Tracking”機能として提供している。本指標の算出では,まず基準とする時相で,内膜面の局所領域の面積を算出する。この領域が,時間的に連続する3次元画像においてどのように変形したのかを求め,各時相においてこの領域の面積を算出し,基準時相での領域の面積で規格化することにより,面積変化率を求める(図3)。面積変化率には,長軸方向への伸縮と円周方向への伸縮の両方の運動情報が反映されており,Area Trackingによる指標は,その両者の成分を持つ指標と言え,相対的にSNRが高くなると期待される。
一方で,3D WMTはvalidationも進んでおり,strainやrotation,および左室容積についての検証結果が報告されており,いずれも良好な相関が得られている1)〜3)。
図3 Area Trackingの定義
前述の3D WMTの特長から,さまざまな臨床への応用が報告されている。特に,虚血性心疾患や,左室全体を一度に解析できる利点を生かしたCardiac Resynchronization Therapy(CRT)への応用が試行されている。CRT応用の実例として,3次元的な同期不全の様子をradial strainにより定量化し,最も遅れた活性部位を把握可能であると報告されている4)。また,CRT適用時の効果評価に,Area Trackingによる面積変化率を用いるのが,より安定した結果が得られるとの報告もある5)。
最新の3D WMTでは,前述のCRT応用における非同期の様子や,心筋虚血のサインとして知られているpost-systolic shorteningの分布を表現することを目的とした,strain等のピーク値到達時間をカラーコード化して表示する“Dyssynchrony Imaging(DI)”機能が追加されている。DI表示は,3D WMTの各種パラメータについての適用が可能となっている。図4に,Area TrackingによるDI表示例を示す。本健常例では,心尖部よりも心基部のピークが遅れている様子が確認される。
図4 Area TrackingによるDI表示例(健常例)
また,3D WMTを左室以外へ適用することも期待されており,最新の3D WMTでは,左室以外の心腔領域への適用も可能にしている(図5に左房の解析例を示す)。左室以外への適用でも,これまでの左室解析機能とほとんど同様のパラメータ評価が可能であり,今後,さらに多様な解析に3D WMTが応用されていくことが期待される。
図5 左房への3D WMT適用例(健常例)
3D Wall Motion Tracking技術の特長とその応用,最新技術について概説した。今後,さらなる研究開発を通して,心機能解析の新たなツールとなるように画質も含めた改良を継続したい。
●参考文献 | |
1) | Seo, Y., et al. : Validation of 3-Dimensional Speckle Tracking Imaging to Quantify Regional Myocardial Deformation. Circ. Cardiovasc. Imaging, 2, 451〜459, 2009. |
2) | Zhou, Z., et al. : Three-Dimensional Speckle Tracking Imaging for Left Ventricular Rotation Measurement ; An In Vitro Validation Study, J. Ultrasound Med., 29, 903〜909, 2010. |
3) | Nesser, N.J., et al. : Quantification of left ventricular volumes using three-dimensional echocardiographic speckle tracking ; comparison with MRI. Eur. J. Echocardiogr., 30・13, 1565〜1573, 2009. |
4) | Hidekazu, T., et al. : Usefulness of Three-Dimensional Speckle Tracking Strain to Quantify Dyssynchrony and the Site of Latest Mechanical Activation. Am. J. Cardiol., 105・2, 235〜242, 2010. |
5) | Thebault, C., et al. : Real-time three-dimensional Speckle tracking echocardiography ; A novel technique to quantify global left ventricular mechanical dyssynchrony, Eur. J. Echocardiogr., 12・1, 26〜32, 2011. |