ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Technical Note「Vantage Titan 3T」によるCardiac Imaging
2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
これまで,3T MRIによるCardiac Imagingにはさまざまな課題があり,有効な撮像を行うのは難しいとされてきた。しかし,最先端技術により,高精度なCardiac Imagingが実現できる可能性が広がっている。本稿では,3T MRIでのCardiac Imagingにおける技術的ポイントについて紹介する。
■3T MRIの概要(表1)
3Tでは,磁場強度に依存してSNRが増大する。高いSNRを生かして,空間分解能や時間分解能が向上することが期待されている。しかし実際は,静磁場(B0)やRF磁場(B1)の不均一などが原因で,画像濃度ムラが増加してしまうという課題があり,常に高精度な画像が得られるわけではなかった。特に,躯幹部では信号強度ムラが大きく出現し,3T Cardiac Imagingの大きな課題となっていた。
表1 1.5Tと比べた3Tの特徴
■Multi-phase Transmission
3T MRIでは人体が挿入されると,RF磁場(B1)の体内分布形状が大きく崩れてしまう。この問題を解決するために開発された技術が,“Multi-phase Transmission”である。Multi-phase Transmissionは,位相差と振幅を最適にコントロールすることでRF磁場(B1)の不均一を改善する。これによって画像の信号強度ムラがなくなり,躯幹部でも,3Tによる日常的検査が可能になると期待されている。以下では,Multi-phase Transmissionの詳細を解説する。
単純に送信RFの位相と振幅を変化させるだけでは,完全に信号強度ムラをなくすことはできない。送信アンプの台数と,送信コイルに電力を供給するポイントの数が大きなカギとなる。送信コイルに電流を加えている給電ポイントの近傍では,RF磁場(B1)は,意図した位相・振幅の状態になっている。給電ポイントから離れるにしたがって,挿入された人体の電気的な干渉や波長の影響により,RF磁場(B1)は意図した位相・振幅からずれてしまう。この現象が信号強度ムラの原因に加わってしまう。そこで給電ポイント数を増やすことで,人体が挿入された場合のRF磁場(B1)の位相・振幅をより意図したものに近づけることが重要である。東芝の最新3Tシステム「Vantage Titan 3T」(図1)は,2chの独立したアンプで4ポイントから給電するMulti-phase Transmissionにより,さらに最適な状態での送信を可能としている。
躯幹部の検査において濃度ムラの少ない均一な画像を得ることができるMulti-phase Transmissionは,心臓領域において大変有効な技術である(図2)。
図1 最新型MRI装置 Vantage Titan 3T |
図2 2ch/4ポイント送信のMulti-phase Transmissionにより, 濃度ムラの少ない均一な画像を得ることができる。 |
■Cine MRIのバンディング アーチファクトの回避
3TにおけるCine MRIでは,バンディングアーチファクトが画像を劣化させる大きな原因となる。バンディングアーチファクトの発生原因は,磁場の不均一である。心臓は空気を含んだ肺に囲まれているなど,磁場が不均一になる要因が多く存在する。そのため,心臓領域は他の部位と比較して磁場が不均一になりがちで,バンディングアーチファクトが出現しやすい状況にある。また,Cine MRIは,一般的にTrueSSFP法で撮像されるが,TrueSSFP法は定常状態で撮像するため,磁場の不均一があるとピクセル内で位相のズレが生じる。位相ズレが小さければ問題にはならないが,3Tになって磁場不均一が大きくなると,位相ズレも大きくなる。位相ズレが180°に達すると,プラスとマイナスで信号が打ち消し合ってしまう(図3)。打ち消し合って信号がなくなったピクセルは,黒く描出され,これがいわゆるバンディングアーチファクトとして画像上に出現してしまう。
図3 磁場不均一によるピクセル内の位相のズレ
位相ズレが小さければ問題にはならない。位相が180°ずれてしまうと,信号が打ち消し合いそのボクセルは黒く描出される。
これがバンディングアーチファクトとして出現する。
バンディングアーチファクトを減少させるには,いくつかの方法がある。1つは,TRを短く設定することである。TRが短ければ,位相がずれる時間も短くなり,バンディングアーチファクトの出現間隔が広がってアーチファクトの影響を少なくすることができる(図4)。
図4 TRの違いによる位相差の違い(イメージ図)
バンディングアーチファクトを減少させるもう1つの方法は,中心周波数(f0)をシフトさせることである。バンディングアーチファクトは,位相が180°ずれた場所で出現する。よって,中心周波数(f0)をシフトさせると,位相のズレ具合を変えることができる。位相のズレ具合が変わると,それに対応して画像上のバンディングアーチファクトの出現位置がずれる(図5)。心臓撮像の場合,心臓以外にバンディングアーチファクトが出現しても大きな問題にはならず,目的とする撮像領域の面積(FOV)はさほど大きくない。このため,中心周波数(f0)をずらしてバンディングアーチファクトが出現する位置をずらすことで,心臓画像への悪影響を回避することが可能になる(図6)。
図5 中心周波数(f0)をシフトすることによりバンディングアーチファクトの出現位置をずらすことが可能(イメージ図)
図6 中心周波数(f0)をシフトした画像
磁場不均一の影響は,患者さんごとに異なる。患者さんごとに中心周波数(f0)を最適化すれば,バンディングアーチファクトの改善が可能である。Vantage Titan 3Tでは,中心周波数(f0)のシフトをユーザーインターフェース上で容易に行える(図7)。また,患者さんごとに異なる実際の画像の状況を見ながら,微調整を行うことも簡単にできる。中心周波数(f0)をシフトする方法は,3TによるCine MRIにとって有効な手法である。
図7 ユーザーインターフェース上で簡単に中心周波数(f0)をシフトすることが可能
■T1値の延長
3Tでは1.5Tに比べて,物理特性としてT1値が延長する。心筋の詳細な動きを可視化するtagging法においては,T1値が延長することで,tag(標識)の持続時間が延長する効果がある。1.5Tでは拡張期まで維持できなかったtagが,3Tでは拡張期まで持続できるようになる。tagging法の改善によって,今後詳細な心筋動態の解析が期待できる。
他方,遅延造影(late gadolinium enhanced MRI)では,T1値の延長により1.5Tで設定するTI時間より長いTI時間の設定が必要になる。遅延造影撮像における最適なTI時間の設定は,1回のスキャンでTI時間を複数同時に変化させて撮像できるTI-Prep機能により,効率良く検索することが可能である。
■high resolution LGE(late gadolinium enhanced MRI)
3Tによる高いSNRを生かして,薄いスライスによる3Dで撮像することが可能になる。また,横隔膜の動きに追従して撮像するRMC(Real Time Motion correction)を併用することで,さらに精度の良い遅延像を撮像することが可能になる。この方法により,梗塞部位と冠動脈の位置把握を同時に行い,より詳細な3Dボリュームデータを得ることが期待されている。
■快適性の向上
Vantage Titan 3Tは,患者開口径71cmの広い検査空間を実現している。また,3Tで大きくなりがちな撮像音も,Pianissimo機構により1.5T並みに抑えられている。これら検査の快適性を向上させるシステムが搭載されているので,リラックスした状態で心臓検査を受けることが可能になる。
このように,3T MRIによるCardiac Imagingにおける画質の課題は,Multi-phase Transmissionに代表されるさまざまな新技術で克服されつつあり,有効な画像が得られている(図8)。今後,3T MRI本来の高いSNRを生かしたCardiac Imagingの発展が期待できる。
図8 最適な調整により得られたCine MR画像
(データご提供:杏林大学医学部付属病院様)
●参考文献 | |
1) | Scheffler, K., Heid, O., Hennig, J. : Magnetization preparation during the steady state ; Fat-saturated 3D TrueFISP. Magn. Reson. Med., 45・6, 1075〜1080, 2001. |
2) | 石本 剛, 石原 克・他 : 3.0T MRIにおける3D心臓遅延造影MRIの検討. 日本放射線技術学会雑誌, 64・12, 1554〜1561, 2008. |
3) | 山田直明 : 心臓疾患診断におけるSSFP法の意義と問題点.日本磁気共鳴医学会雑誌, 30, 132, 2010. |