東芝メディカルシステムズ

Technical Note

2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−Aquilion ONEによる腹部CT検査

津島 総
営業推進部CT担当

Aquilion ONE(図1)は,1回転で体軸方向160mmの範囲を撮影することが可能なCT装置である。全脳,全心臓を1回転でとらえるほか,腎臓や膵臓,肝臓などの腹部領域の主要部においても最短0.35秒で撮影を終えることができる。
本稿では,腹部CT検査におけるAquilion ONEの特長と最新技術について概説する。


図1 Aquilion ONEの装置外観
図1 Aquilion ONEの装置外観

■ 腹部CT検査におけるAquilion ONEの特長

腹部におけるCT検査では,腫瘍の進展範囲や,脈管,胆管,膵管などの位置関係を高分解能なMPRや3D画像で描出することが要求される。
Aquilion ONEの特長は,大きく下記4項目に分けられる。

1.高画質(等方性等時性)
CT撮影の目的は画像診断であり,臓器および病変を正確に描出することが最も重要である。Aquilion ONEは,160mmの検出器すべてを世界最小スライス厚0.5mmで構成しており,高分解能な等方性ボリュームデータを収集できる。また,寝台移動を伴わない撮影を行うことで,ヘリカルアーチファクトから根本的に脱却できる。さらに,0〜160mmの全画像が等時相データとなり,心拍動や呼吸動の影響を抑制した時間分解能の高い形態画像を得ることができる。

2.短時間撮影
160mmの範囲を最短0.35秒で撮影できるため,息止めや体動抑制が困難な小児や救急患者の撮影において,モーションアーチファクトの少ない画像を得ることが可能となる。

3.患者負担低減
撮影時間の短縮は,患者の息止め時間および使用造影剤の低減へとつながる。また,ヘリカルスキャンによるオーバーラップがなくなり,腹部領域では被ばく量を約20%低減させることができる。

4.臓器の血流,機能評価
同一部位を連続的,または間欠的に複数回撮影することで,造影検査における臓器のCT値の経時変化をボリュームで描出することが可能となる。被ばくや造影剤を増やすことなく,一度の検査で病変の存在診断のみならず,質的診断の可能性が示唆される。
肝や膵腫瘍の診断において,“Real Prep.”により最適な造影タイミングでの撮影が可能となり,多血性腫瘍が造影される動脈相,肝実質が強く造影される門脈相,血管内外の造影が平衡に達する平衡相を容易に分離することができる。これら複数時相をボリュームデータで描出することで,がんの検出や進展度,治療の評価などに有用と考えられる。


■ 腹部臓器灌流解析(Body CT perfusion)

撮影された複数時相の画像データを評価する方法にCT perfusion解析がある。CT撮影では,非イオン性造影剤を患者へ注入し,CT値の変化から臓器の灌流情報を描出することができる。CT perfusion解析は,512×512ピクセルで構成されたCT画像の経時変化を,各ピクセルにおけるCT値の変化から測定し,血流量などを数値化するものである。複数時相のCT画像から,臓器の灌流情報を1枚のカラーマップとして表示することができる。
CT perfusion解析は一般的に頭部において使用されている。従来は限られた範囲内(32〜40mm)での断面評価が主であったが,Aquilion ONEの登場により,全脳におけるCT灌流解析(Whole brain CT perfusion)が可能となり,脳神経領域の臨床において,急性期脳梗塞の診断など新たな可能性を広げている。同様に撮影範囲が広がったことから,腹部においても,肝細胞がんの三次元的評価1),膵がんの灌流評価2),乳房腫瘍の灌流評価3)などさまざまな部位において臨床評価が進んでいる。

腹部領域にてCT perfusion解析を行う際は,頭部とは異なる2つの考慮すべき点がある。
(1) 臓器ごとに異なる血流動態
腹部臓器を栄養する血管の種類は臓器ごとにさまざまであるため,対象臓器に応じた解析モデルを設定した上で評価を行う必要がある。
(2) 臓器の動きの影響
CT perfusion解析では複数時相のデータが必要となり,撮影時間は数十秒〜数分間に及ぶ。その間,患者が呼吸動を完全に抑制し続けることは困難であり,かつ,腹部臓器においては心拍動や蠕動運動など自律運動が多く見られ,これらを静止させることは不可能である。よって,撮影の際に患者の動きを抑制する工夫と,得られたデータの位置ズレを補正する画像処理技術が必須となる。

Aquilion ONEでは1臓器を等時相で撮影することができ,かつCT perfusion解析において位置ズレを三次元的に補正する非線形レジストレーションソフトウェアを搭載しており,解析精度を向上させることができる。図2に,本ソフトウェアにより,肝細胞がんに対する血流量を解析しカラーマップ化した一例を示した。アキシャル断面のみならず,任意の断面で評価を行うことができている。また,同データについて,位置ズレ補正有無の解析結果を比較したものを図3に示した。肝臓上端データの欠落,下端の過大評価や,血流が存在しないはずの椎体内に血流分布が見られるなど,位置ズレ補正を怠ると解析精度が低下することが確認できる。


図2 肝細胞がんにおけるCT perfusion解析結果(Artery Flow)
図2 肝細胞がんにおけるCT perfusion解析結果(Artery Flow)
a:VR像 b:サジタル像 c:アキシャル像 d:コロナル像 (データご提供:日本大学医学部附属板橋病院様)


図3 位置ズレ補正有無の解析結果比較
図3 位置ズレ補正有無の解析結果比較 (データご提供:日本大学医学部附属板橋病院様)

■ 被ばく低減技術

CT perfusion解析のような連続撮影データを必要とする検査では,必要なデータを収集するとともに,いかにして被ばくを最小限に抑えるかを十分考慮することが重要である。
Aquilion ONEでは,新たに画像ノイズを大幅に低減させる技術“Adaptive Iterative Dose Reduction(AIDR)”を搭載し,その使用例を図4に示した。同画像において,SDが改善されていることがわかる(最大50%のノイズ低減)。これにより,SDを同等に保つために必要な被ばく線量が,従来よりも最大75%低減させることが可能となり,体格の大きな方の撮影やCT perfusion解析における低線量画像での画質向上において有用と考えられる。


図4 75mAs,0.5mmスライスの腹部CT画像
図4 75mAs,0.5mmスライスの腹部CT画像 (データご提供:日本大学医学部附属板橋病院様)

●参考文献
1) Kobayashi, T., Moriyama, N. : Three-dimensional perfusion imaging of hepatocellular carcinoma using 256-slice multidetector-row computed tomography. Radiat. Med., 26, 557〜561, 2008.
2) Kandel, S., Rogalla, P. : Whole-organ perfusion of the pancreas using dynamic volume CT in patients with primary pancreas carcinoma ; Acquisition technique, post-processing and initial results. Eur. Radiol., 27, 2009.
3) Akashi-Tanaka, S., Moriyama, N. : Whole-breast volume perfusion images using 256-row multislice computed tomography ; Visualization of lesions with ductal spread. Breast Cancer, 16, 62〜67, 2009.
*Aquilion ONE, Real Prep.は東芝メディカルシステムズ(株)の商標です。
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