東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2008年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−Atlas SPEEDERによる腹部検査の新しい可能性について

山下 裕市
MRI事業部

近年,MRIにおいても採算性の向上が問われ,検査数の増加が大きな課題となっている。パラレルイメージングの誕生により撮像時間が飛躍的に短縮化したものの,検査時間自体は思ったように短縮化されていないのが現実である。
その理由として,再構成チャンネルのマルチチャンネル化が進んでいるにもかかわらず,受信コイルのチャンネル数がそれに追いついていないためマルチチャンネル本来のメリットが発揮されていないことや,コイルの操作性の問題などが挙げられる。
今回われわれは,マルチチャンネルの高いポテンシャルを腹部領域に実現する「Atlas SPEEDER」を商品化した。

■「高精細」,「広領域」を両立!Atlas SPEEDERの臨床メリット

現在市販されているRFコイルをパフォーマンス別に分類すると,部位ごとに高いSNRを得る目的で設計された「高精細コイル」と,局所のSNRは犠牲にして短時間で広範囲を得るための「広領域コイル」に大別される。
高精細コイルは,局所に最適化されているため高画質を得ることができるが,検査部位の変更ごとにコイルの交換作業とセッティングのやり直しに余分な時間を要する。一方,広範囲コイルは,コイル交換が必要ないため余分な時間を必要とせず,操作も簡単である。しかし,広範囲を確保するために1エレメントあたりのサイズを大きくせざるを得ず,そのために局所のSNRを犠牲にしていることが多い。つまり,時間的なメリットを得るには,画質の犠牲という高い代償を払わなければならなかった。
「EXCELART Vantage」では,Atlas SPEEDERテクノロジーによってこの二律背反する「高精細」,「広領域」を高い次元で両立させ,検査数を増加させることができる。

■ 腹部におけるAtlas SPEEDERの特徴

Atlas SPEEDERの最も大きな特徴は,コイルの形状にある。
Atlas SPEEDERでは,脊椎用コイルであるAtlas SPEEDERスパインと,腹部用のコイルであるAtlas SPEEDERボディの組み合わせによって腹部検査を行う。Atlas SPEEDERスパインは,4×8=32chのマルチチャンネルコイルとして構成されており,最大100cmまでの領域をカバーすることができる。患者さんの上に乗せるAtlas SPEEDERボディは,1枚あたり4×4のエレメントを搭載し,脊椎用コイルの半分と合わせ32chのマルチチャンネルコイルとして構成される。
Atlas SPEEDERは,多数のコイルを配列した単純なマルチチャンネルコイルではない。検査部位に合わせてコイルのサイズが最適化されている。脊椎用コイル,腹部用コイルともに中央列のエレメントのサイズが小さく設計され,これにより腹部の深い領域にてSNRが向上するように設計されている(図1)。
また,マルチスライスCTの出現により腹部領域の検査範囲が広がる傾向があり,肝臓付近のみならず骨盤部までの検査を要望されることが多い。Atlas SPEEDERのボディは,1枚で50cm×50cmの大きさがあるので,肝臓から骨盤部までの広範囲の領域を1回のセッティングで検査することが可能となる。広範囲にわたる骨盤疾患でも,コイルの付け替えなく病変部を余すことなく1枚の画像に収めることができる。さらに,非常にやわらかい可塑性の高い素材を採用しているため,患者さんの体格により密着させて高いSNRで検査できる。コイルを装着したままの側臥位での検査もできるようになるなど,検査適応を広げることが可能になる。
このようにAtlas SPEEDERは,マルチチャンネルコイルが本来有するポテンシャルを最大限に発揮するテクノロジーなのである。


図1 Atlas SPEEDERのコイル感度
図1 Atlas SPEEDERのコイル感度

■ Atlas SPEEDERを用いた新しい臨床応用

Atlas SPEEDERによる画質のメリットとして,パラレルイメージング(SPEEDER)の高い倍速率を使えることが挙げられる。Atlas SPEEDERでは,各方向多数の小さなコイルエレメントで構成されているため,さまざまな方向にSPEEDERを柔軟に適応することが可能である。
腹部非造影MRAの撮像を例にとってみよう。基本となる呼吸同期を用いた3D撮像では,撮像時間が呼吸回数に依存するため,たとえフェイズエンコード方向にSPEEDERを適応しても撮像時間は短縮されない。しかし,ここでスライス方向にSPEEDERを適応すれば,撮像時間を大幅に短縮できる。図2は,最新の非造影MRA撮像法であるTime-SLIP法において,腎動脈撮像にスライス方向のSPEEDERを適応した例である。収集を1セグメントにし,スライス方向のSPEEDERを適応することで撮像時間を約1/3に短縮して,1分30秒前後で撮像を終了できる。
元来,非造影MRA検査は,造影検査と比べ撮像時間が長いことがデメリットとして挙げられていたが,このような高速化技術によって,非造影MRAの方が検査時間全体として短時間になる可能性がある。現実的な時間の問題をクリアすることで,腹部領域における非造影MRAの臨床メリットをより広く活用できるであろう。


図2 腎動脈(Time-SLIP法)におけるAtlas SPEEDERの適応
図2 腎動脈(Time-SLIP法)におけるAtlas SPEEDERの適応

■ 今後の新しいアプリケーション

これからの腹部領域の臨床応用のテーマとして,「息止め撮像のパフォーマンス向上」,「脂肪抑制効果のさらなる向上」,「新しい体動補正技術」がある。
息止め撮像のパフォーマンス向上のために,フェイズエンコード方向とスライス方向のSPEEDERを同時に使用し,より高分解能で,より短時間の息止め検査を可能にする。新しい脂肪抑制技術によって,磁場不均一が発生しやすい胃や脾臓の周辺,また腕と躯幹部の間でも,より高いレベルの脂肪抑制効果を得ることができる。また,呼吸性の細かな動きのアーチファクトを低減することで,ルーチン画像の安定化のみならず,膵臓など各臓器の局所高分解能撮像の実現をめざしている(図3)。
これら画質向上技術は,Atlas SPEEDERの柔軟な組み合わせ能力によって,腹部MRI検査において重要な役割を果たしていくものと考えられる。


図3 新しいアプリケーション
図3 新しいアプリケーション

昨今,32chをうたう受信コイルが数多く発表されている。しかし,マルチチャンネルが本来有するべき高画質と検査時間の短縮というメリットを,臨床現場で十分発揮できるシステムは意外と少ない。
高画質と広領域の両立というマルチチャンネルの有用性をユーザーメリットとして実用化したのが,Atlas SPEEDERである。その使い方は多種多様であり,今後さまざまな新しいアプリケーションを開花させる奥深い可能性を秘めている。臨床現場からの新しいアイデアの発掘にも大いに期待したい。



【問い合わせ先】 MRI事業部