Session 1「Aquilion PRIMEの各領域における技術」
体幹部領域
白石哲史
社会医療法人 天神会新古賀病院 放射線診断部
新古賀病院は,病床数200床を有する総合病院であり,隣接する新古賀クリニックの消化器内科と健診センターからもCTのオーダーを受け,検査を実施している。
当院では現在,2011年4月に導入した80列CT「Aquilion PRIME」と64列CT(他社製)の2台が稼働している。Aquilion PRIMEでは,全身のルーチン検査を中心に,消化器領域のCT Angiography(CTA),肺がんドック,CT Colonograpy(CTC),CT透視下肺生検などを行い,2011年度の検査件数は1万1019件にのぼっている。
本講演では,Aquilion PRIMEの体幹部領域における使用経験について報告する。
■スループットの向上
当院では,診療放射線技師2名体制でCT検査を進めている。以前の16列CTでは,コンソールでの画像処理に時間がかかると,次の検査が滞ってしまうことが課題であった。Aquilion PRIMEでは,メインコンソールに加えて,“Sure station”というサブコンソールを導入。Sure stationで画像処理を行うことで,撮影と画像処理を並行して進めることができ,検査の滞りを解消することができた(図1)。
図1 ワークフローの改善とスループットの向上
■被ばく低減
当院では,2012年4月に“AIDR 3D”が導入されたばかりのため,体幹部領域においては,逐次近似応用再構成である“AIDR+”,CTC(CT Colonograpy)においては,“AIDR 3D”の臨床経験について報告する。
当院における健診肺CT,ルーチン肺CT,肝臓ダイナミック3相CTの撮影条件を表1に示す。Aquilion PRIMEでは,Volume ECのAIDR+Standard(STD)を使用しているのが特徴である。
健診の肺がんドックにおける胸部CT画像では,Aquilion PRIMEのVolume ECにより,肩口,肺野,横隔膜付近それぞれで適切な線量に調節することができ,線量の軽減が可能であった(図2)。
胸部CTのルーチン撮影では,表1中段の撮影条件にて,20名の同一患者において,16列CTとのCTDIvol(mGy)の比較検討を行った。Aquilion PRIMEでは,平均47.4%にまで被ばく低減した撮影が実現している。
表1 当院におけるCTの撮影条件 |
図2 健診肺CTの線量低減症例 |
また,職員ボランティアにて,ローテーションタイムとヘリカルピッチ(HP)の検討を行った(図3)。標準ピッチ(図3a)では,心臓の拍動によるモーションアーチファクトで画像がぶれており,高速ピッチ(図3b)でもやや軽減しているが,気管支や血管はぶれている。それに比べ,図3cの0.375s/rotと高速ピッチの組み合わせでは,モーションアーチファクトのない画像が得られている。当院ではモーションアーチファクト軽減のため,図3cの高速ピッチ・高速回転の組み合わせを採用している。
また,肝臓ダイナミックCTにおいては,同一患者10名にて,16列CTとのCTDIvol(mGy)の比較検討を行った。その結果,Aquilion PRIMEでは,平均51.4%にまで被ばく低減が可能になったことが認められた。
図3 モーションアーチファクトの軽減
職員ボランティア,低線量撮影
■腹部領域における造影効果の安定化
腹部領域の造影CT検査は,従来,時間固定法にて撮影を行っていたが,Aquilion PRIMEではボーラストラッキング法をルーチン化し,肝臓3相撮影でも,Real Prep.を用いている。同一患者における時間固定法(図4a)とボーラストラッキング法(図4b)の画像を比較してみると,bでは十分に肝臓が造影された鮮明な動脈相が得られている。
図4 造影効果の安定化
■CT Colonography(CTC)
当院では,2009年よりCTC検査を開始した。年々件数が増加し,2012年は6月25日現在で66件を数えている。
CTC検査の内訳は,自由診療での大腸健診が11%,大腸内視鏡検査を途中で断念した場合が50%,その他が28%となっている。腹部大動脈瘤などのハイリスク症例では,CTC検査を積極的に活用している。
表2のようなCTCの撮影プロトコルにより,20名に対して仰向けとうつ伏せの2体位での撮影を実施し,被ばく線量の検討を行った。Aquilion PRIMEでは16列CTに比べ,84.4%の線量で撮影でき,約15%の被ばく低減を実現している。
表2 CTCの撮影プロトコル
現在,CTC撮影に“AIDR 3D”を導入すべく,CTCを積極的に行っている施設の条件やメーカーのアプリケーション担当者からの情報等を参考に,設定条件の検討を行っている。AIDR+と比較すると,AIDR 3Dでは従来の18.2%の線量で撮影が可能で,80%以上の被ばく低減が見込めると考えられる。
図5に,CTCのオリジナル画像,AIDR 3DのStandard,Strongそれぞれの画像を示す。CTDIvolは1.90mGyと低線量だが,Strongでは大幅なノイズ軽減が実現しており,高精細な画像が得られている。
図6は,図5と同一症例のCTC画像であるが,VGP画像とVE画像にてポリープが発見された。低線量のため多少ざらつき感があるものの,ポリープ診断には十分と考える。
図5 AIDR 3Dの有無による画像の比較(CTDIvol:1.9mGy) |
図6 図5と同一症例のCTC画像(CTDIvol:1.9mGy) |
■CT透視(肺生検)
当院では,CT透視下での肺生検を実施している。Aquilion PRIMEは開口径が780mmと広いため,肺生検時の穿刺の環境が飛躍的に改善され,安心して肺生検を実施できるようになった(図7)。
図7 CT透視下肺生検(開口径780mmのワイドボア)
■まとめ
Aquilion PRIMEとサブコンソールであるSure stationの導入により,スループットが向上し,待ち時間短縮につながった。また,AIDR+の採用により,ルーチン検査において,胸部CTで52.6%,肝臓3相CTで48.6%の被ばく低減が可能となった。
腹部領域では,Real Prep.(ボーラストラッキング法)の採用で安定した造影効果が得られ,再検査を行わずに術前支援3D画像を提供できるようになった。
今後の課題としては,AIDR 3Dにおける,Volume ECやSD値の設定を検討し,より満足のいく画像を得るとともに,さらなる被ばく低減を実現していきたい。