東芝メディカルシステムズ

別冊付録

Session 1「Aquilion PRIMEの各領域における技術」
性能評価

平野雄士

平野雄士
社団法人 日本海員掖済会 小樽掖済会病院 技術管理部

小樽掖済会病院は消化器病センターを中心とした急性期病院であり,CT検査は腹部領域の撮影が中心である。そのため本講演では,腹部領域における「Aquilion PRIME」の性能評価について報告する。

■Aquilion PRIMEの初期経験

当院では,これまで使用してきた16列CT「Aquilion 16」を80列CT「Aquilion PRIME」に更新し,7月9日から稼働を開始した。稼働後1か月に満たない期間の初期経験ではあるが,撮影および画像再構成の圧倒的な速さを実感している。
例えば,大腸CT検査の場合,16列CTでは全大腸600〜700mmの撮影には20〜25秒を要していた。しかし,80列CTのAquilion PRIMEでは,全大腸の検査が5秒以内で終了する。
また,血管の描出能も,80列CTでは末梢血管まで鮮明に描出可能となり,16列CTとは基本性能のレベルが大きく向上していることがわかる(図1)。

図1 16列CT(a)と80列CT(b)の血管描出能の比較
図1 16列CT(a)と80列CT(b)の血管描出能の比較

■View数の向上

性能評価を行うにあたって,まず64列CTとのview数の差に着目してみた。Aquilion PRIMEでは,64列CT(Aquilion CXL)の1715view/sから,2572view/sへと大きく向上している。
東芝の検出器のチャンネルは896あり,それぞれのview数で収集した生データの密度が,再構成後の分解能やアーチファクトに影響する重要な因子となる。X線管が1回転する間のview数に置き換えると,0.5s/rotでは1200view(CXLでは900view),0.35s/rotでは900view(CXLでは600view)での撮影が可能となり,Aquilion PRIMEは0.35s/rotによる全身のルーチン検査が十分に可能となるview数を確保していると言えよう。

■FOV中心と辺縁の画像特性の検討

view dataは,FOVの中心では密になり,辺縁では粗になる。そこで,0.35s/rotと0.5s/rotにおけるFOVの中心と辺縁の画像特性について検討した(使用ソフト:標準X線CT画像測定添付ソフトおよび“Image J”)。

1)スライス方向のMTF測定
空間分解能の変化を見るため,Catphantomを用い,FOV中心から100mmと150mmのMTFを測定した(図2)。0.35s/rotでは,辺縁が多少0.5s/rotに劣るが,中心部付近では遜色ないMTFが得られた。
次に,120kVpでVolume ECをSD8に設定して,NPS(Noise Power Spectral)を測定した(図3)。0.35s/rotと0.5s/rotでは,ほぼ同じ結果が得られ,Volume ECを用いることで,同等のノイズ特性を得ることができる。

図2 回転速度の違いによるMTFの評価
図2 回転速度の違いによるMTFの評価
0.35s/rotでは辺縁は多少0.5s/rotに劣るが, 中心部付近では遜色ない。
図3 FOV中心と辺縁のNPS計測
図3 FOV中心と辺縁のNPS計測

2)高コントラスト分解能ファントムによる検討
高コントラスト分解能ファントムを用い,0.35s/rot,高分解能関数の条件でFOV中心と辺縁とを比較すると,中心では0.5mm,辺縁では0.55mmが分解できており,分解能は十分に維持されていることがわかった(図4)。また,FOV中心部における0.35s/rotと0.5s/rotの比較では,0.35s/rotでも十分な画質が得られる結果となった。

図4 FOV中心と辺縁の高コントラスト分解能の比較
図4 FOV中心と辺縁の高コントラスト分解能の比較
80列CT,HP51,0.35s/rot,FC86

3)体軸方向のスライス厚測定
実効スライス厚を検討するため,ビーズファントムを用いて,0.35s/rotと0.5s/rotを比較すると,半値幅,50%MTFとも,まったく同じ数値であった。

4)水ファントムを用いた高速ヘリカルの評価
ヘリカルピッチ(HP)を51,65,111の3段階に設定し,それぞれ管電流300,400,500mAで撮影したときのSD値を調べたところ,HP65までは変化は小さいが,111になると急激にノイズが上昇する。ハイピッチの設定は,撮影線量を十分考慮して使用することが重要である。

■AIDR 3Dの使い方

表1 prospectiveなAIDR 3Dの使用による撮影線量とSD値の比較
表1 prospectiveなAIDR 3Dの使用による撮影線量とSD値の比較

“AIDR 3D”には,prospectiveな使い方と,retrospectiveな使い方がある。
prospectiveな使い方は,エキスパートプランを作成する際にAIDR 3Dを設定し,4段階(線量的には3段階)の被ばく低減を行って撮影する方法である。
retrospectiveな使い方とは,撮影した生データの後処理として,4段階のアーチファクト対策を加味したノイズ補正を行う方法である。
水ファントムを用い,Volume ECをSD10に設定した上で,それぞれの使い方でのSD値およびNPSについて比較検討した。
prospectiveにAIDR 3Dを使用した時の撮影線量とSD値では,平均SD値に多少のばらつきはあるが,撮影線量に関してはWeak(25%),Mild(50%),Standard(75%),Strong(75%)それぞれについて,表示通りの線量低減がなされている(表1)。
また,127mAsのオリジナル線量で撮影した生データを元に,retrospectiveにAIDR 3Dを使用した場合の平均SD値は,オリジナルよりWeak,WeakよりMildと,設定を強めるほど低くなり,Strong(ORG-STR)では5.2まで低下し(図5上),画質改善が期待できる。
しかし,Strongの撮影線量で得た生データを元に,オリジナルの再構成(STR-ORG)をするとSD値は18.5となり,Strongで再構成(STR-STR)して,ようやくSD10を担保することができる仕様となっており,画質改善はあまり期待できない(図5下)。

図5 retrospectiveなAIDR 3Dの使用によるSD値の比較
図5 retrospectiveなAIDR 3Dの使用によるSD値の比較

NPSを用いると,AIDR 3Dの特性は非常にわかりやすい(図6)。prospectiveに使用する場合は,撮影線量自体のコントロールを行うので,全周波数領域でNPSに違いが見られる。しかし,retrospectiveに使用する場合は,高い周波数領域になるにつれて,AIDR 3Dの強度が強いほどNPSの値が低下している様子がわかる。
一方,臨床画像において椎体を撮影する際,強いアーチファクトが見られることがあるが,OSR(Organ Specific Reconstraction)を使うことで改善される。さらに,AIDR 3Dを併せて用いることで,アーチファクトが劇的に改善される例もある(図7)。AIDR 3Dには,アーチファクトを取り除くという側面もあることから,特性を考慮しながら,上手に活用すべきである。

図6 AIDR 3DのNPSの比較
図6 AIDR 3DのNPSの比較
図7 OSRによるアーチファクトの改善(AIDR 3D Weak)
図7 OSRによるアーチファクトの改善(AIDR 3D Weak)

■まとめ

Aquilion PRIMEは,view数が増えたことで画質が向上し,0.35s/rotのルーチンでの使用も期待できる。
高速ヘリカルは,ノイズとアーチファクトの上昇が不可避であるため,線量を高めに設定するなど,撮影条件に留意する必要がある。
AIDR 3Dは,被ばく線量とアーチファクトを低減させる強力なツールである。prospectiveとretrospectiveの使い方の違いを考慮し,適切に設定することで,効果的に利用していきたいと考えている。

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