ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ 別冊付録 Aquilion PRIME Symposium 2012 Aquilion PRIMEの基本性能
Session 1「Aquilion PRIMEの各領域における技術」
Aquilion PRIMEの基本性能
多賀谷 靖
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 放射線部
虎の門病院では2011年3月から,80列CT「Aquilion PRIME」が稼働している。本講演では,当院におけるこれまでの使用経験に基づき,Aquilion PRIMEの基本性能について述べる。なお,今回提示する画像はすべて,最新の被ばく低減技術“AIDR 3D”を使用している。
■Aquilion PRIMEの主な基本性能
Aquilion PRIMEは,80列40mm幅検出器を持つ,Aquilion ONEの技術を継承した最高性能の多列CTである。
Aquilion PRIMEは,高齢の患者さん,救急の患者さん,被ばくを抑えたい小児や若い患者さん,そして,心臓検査など,幅広い検査に対応できる装置である。
基本性能として,最新の被ばく低減技術“AIDR 3D”,リアルタイムで画像が確認できる“Realtime Helical”,60画像/秒(fps)の高速画像処理,780mmの広い開口径,ガントリ部分の情報表示モニタ“i-Station”などの機能を搭載している。
図1は,当直時間帯に脳外科から依頼され,全身の血管撮影(CTA)を行った症例である。Aquilion PRIMEはスキャン時間10秒以内で,末梢血管に至るまで鮮明なボリュームレンダリング(VR)画像を得ることができる。
図1 当直時間帯に行われた検査のVR画像(左頸動脈狭窄症例)
120kV,Volume EC(20〜62mAs),0.35s/rot,0.5mm×80,HP65(0.81),AIDR 3D(Standard)9.8s
■ワークフローの改善
当院のCT検査は,単純撮影の場合は診療放射線技師2名のみ,造影の場合は技師2名に加えて,看護師と医師が1名ずつ立ち会って行う。技師のうち1名が検査室で患者さんを誘導し,1名がオペレータとして撮影条件などを設定して撮影する。
撮影ワークフローの中で,従来から最大のボトルネックとなっていたのが,画像処理の時間である。Aquilion PRIMEでは,60fpsの画像処理速度を実現し,撮影と並行した画像再構成が可能なため,作業効率が大きく向上した。
16列,64列,80列のCTを用い,1mm厚641スライスと,5mm厚129スライスで撮影したデータの再構成時間を比較したところ,特にデータ量の多い1mm厚641スライスでは,80列の優位性が顕著に認められた(図2)。患者さんの入退室時間は,どの装置でもほとんど変わらないが,この画像処理時間の速さがスループットに直結する。
図2 再構成時間の比較(秒)
■高密度サンプリングによる高画質
Aquilion PRIMEの新しいData Acquisition Systemによる高密度サンプリングは,0.5s/rotで2400view/s,0.35s/rotで2572view/sのview数であり,常時0.35s/rotで撮影しても,十分に高い画質を得ることができる。
肺の画像を64列CTと比較すると,Aquilion PRIMEでは葉間などがきれいに描出され,腫瘍の辺縁も明瞭である(図3)。
図3 高密度サンプリングによる画質の比較(肺のサジタル画像)
■Volume Scan
80列40mm幅の検出器による1回転のVolume Scanは,低線量で高画質な検査を可能にする。
人工内耳を使用している女児の例では,水晶体を避けて,40mm幅0.5s/rot,1volumeで撮影し,CTDIvol 2.9mGy,DLP 11.8mGy・cm,線量0.025mSvと,低線量での撮影を実現している(図4)。
図4 Volume Scanの適用例
■軌道同期撮影
軌道同期ヘリカルスキャンは,単純と造影の軌道を同期させてヘリカルスキャンを行い,サブトラクション画像を再構成する技術である。軌道を同期させることにより,位置ズレのない良好なサブトラクション画像を得ることができ,ストリーク状アーチファクトを抑える効果も認められる。
脳動静脈奇形(AVM)の軌道同期サブトラクション画像と血管造影像とを比較してみても,遜色ない画質が得られている(図5)。
図5 軌道同期サブトラクション画像(a)と血管造影像(b)との比較
■高齢者への対応
Aquilion PRIMEは開口径が780mmと広いため,高齢者など腕を上げられない患者さん,救急患者さん,挿管されている患者さんなどでも,セッティングがしやすい。また,年々増加の一途を辿っている高齢者は撮影時の息止めが難しいが,Aquilion PRIMEでは,785mmをヘリカルピッチ(HP)111で5.4秒で撮ることができる(図6)。
図6 ウルトラヘリカルスキャン(AIDR 3D:Mild)
■心臓検査への対応
現在,日本人の死因の第2位である心疾患の死亡を減少させるために,心臓CT検査が貢献することが期待されている。Aquilion PRIMEは,心臓CTとしての有用性も高く評価されており,当院でも循環器領域の検査を数多くこなしている。
心臓CT検査では,息止め練習の際,装置側が最適な撮影条件を判断している。心拍数65/分以下の場合は,心電図同期フラッシュスキャンが適用される。
造影剤が閾値に達する前に息止めしてもらうための“音声ROI”という技術も搭載されており,撮影時間が短縮されることで,造影剤の減量にもつながっている。
数秒で撮影終了後,最適な心位相を選択する“フェーズナビ”機能でターゲットを絞った画像再構成を行う。
体重92kg,BMI32の高度肥満の患者さんを心電図同期フラッシュスキャンにより,DLP 478mGy・cmと低線量で撮影した(図7)。AIDR 3Dを使うことで,SD値は66から29に改善し,ノイズは大幅に低減されている。
図7 52歳,男性,陳旧性心筋梗塞の症例画像
AIDR 3Dによるノイズの低減
■まとめ
Aquilion PRIMEは,診療放射線技師の日常業務や,緊急撮影時などのワークフローを改善する優れた装置である。
それと同時に,すべての検査部位において,低線量で高分解画像が得られる装置でもある。
また,今後需要が急増すると思われる心臓CT検査も可能であり,すべての検査を1台でこなせる,完成度の高い装置ということができる。