ホーム inNavi Suite東芝メディカルシステムズ別冊付録 新。超音波診断 Vol.4 Made in Japanが提案する超音波診断:腹部領域を中心にして(第36回日本超音波検査学会ランチョンセミナーより) (2) Aplio500の使用経験 白石 周一 東海大学医学部付属病院診療技術部
Made in Japanが提案する超音波診断:腹部領域を中心にして(第36回日本超音波検査学会ランチョンセミナーより)
(2) Aplio500の使用経験
白石 周一(東海大学医学部付属病院診療技術部)
画質と操作性の進歩
当院では,2004年にAplio80を導入以降,AplioXV,AplioXGと歴代のAplioシリーズを使用してきた。Aplioユーザーとして,最新のAplio500の進歩とルーチン検査における有用性,新機能について報告する。
Aplio500は,新しいプラットフォームにより,画質が大きく進歩している。新画像エンジン“High Density Beamforming”を搭載することで,時間分解能が向上し,従来の画質を保ちつつ,約2倍のフレームレートを実現した。フレームレートを通常の倍の56fpsに設定しても,画質が劣ることなく,プローブの動きに追随してリアルタイムで表示され,画像の高速処理が行われていることがわかる。また逆に,フレームレートは従来と同じにして,走査線密度を倍にすることで,スペックルパターンの細かい緻密な画像を得ることも可能である。図1は,AplioXG相当の画像とAplio500の画像の比較であるが,bの方が明らかにスペックルパターンが微細であることがわかる。
図2は,肝線維症の疑いで他院から紹介受診した30歳代の女性の症例である。肝実質が粗くて見えにくいと思われたが,実際には深部まで明瞭に描出されている。他院の画像診断ではわからなかった高エコー腫瘤が肝臓のS4に認められたため,高周波プローブに切り替え,微細な構造を確認したところ,辺縁低エコー帯と腫瘤内部の低エコー部が明瞭に描出された(図2 b)。また,高分解能,高フレームレート,低ブルーミングな血流イメージングを可能にする“Advanced Dynamic Flow(ADF)”で見ると(図2 c),流速1.4cmの低速表示でも腫瘤辺縁の門脈細枝や,その内側の肝静脈細枝までも描出され,非常に解像度が上がっていることがわかる。
この症例で行ったようなプローブの切り替えは,従来であれば手間と時間を要する作業であるが,Aplio500は,“iStyle+”というワークフローコンセプトのもと,プローブの操作性を大きく向上させている。その1つである“Quick Start & Quick Scan”は,装置の液晶画面にサブプリセットのアイコンを設け,ワンタッチでプローブの切り替えとプリセットの選択を行うことを可能とした。また,これまでの装置では3アクティブだったプローブポートが4アクティブとなり,4本のプローブをつなぎ替えることなく使用することができる。ワンタッチで,コンベックスプローブから高周波プローブへの切り替え,そして再び,コンベックスプローブに戻ることも簡単にできるため,検査者にとって有用な機能と言える。
図2 30歳代,女性,肝線維症疑いの症例 高エコー腫瘤がS4に認められ(a),高周波数プローブに切り替えたところ,
辺縁低エコー帯および内部の低エコー部が明瞭に描出された(b)。 ADF では,低速の血流も血流シグナルとして描出された(c)。
前述のように,時間分解能の向上は血流イメージングの画質にも進歩をもたらしている。図3に,成人男性のADF処理をしたAplioXG相当の画像とAplio500の画像を示す。従来のAplioXGでも,小葉間動脈まで描出される画像を得ることができるが,Aplio500では,拍動性の血流および微小血管をとらえやすくなり,より微細なシグナルまで描出できるようになっていることがわかる。
図3 AplioXG相当画像(a)とAplio500画像(b)のADF処理画像
High Frame Rateによる時間分解能の向上で,拍動性の血流および微小血管をとらえやすくなり,従来よりも細かなシグナルまで表示できるようになった。
フォーカスを絞り画質を向上させる“TSO”
超音波装置の画像は,JIS規格に定められた音速(1530m/s)で作成されている。しかし実際には,体内にはさまざまな組織があるため,すべてが同じ伝搬速度ではなく,そのためにフォーカスが甘くなる場合がある。それを回避するために,Beam演算(遅延時間)を補正することでBeamを細くし,フォーカスを絞る機能が“TSO(Tissue Spesific Optimization)”である(図4)。TSOは,特に脂肪の多い乳房や腋窩などで有用である。脂肪組織は音速が1450m/sほどで,規定の音速よりも100m/s程度遅くなるため,フォーカスが甘くなり,明瞭に描出できないこともある。
図4 TSO(Tissue Spesific Optimization)の原理
図5は,乳腺腫瘤の症例画像である。TSOを施行することで,方位分解能が向上し,腫瘤の輪郭や乳腺内部の構造がシャープに描出される。図6は,腋窩リンパ節腫脹の症例であるが,TSO施行により辺縁や内部の構造が明瞭に描出されるようになっている。高周波リニアにはAuto TSO機能が搭載されており,ボタン1つでTSO施行が可能である。
また,腹部への適応を見るため,軽度の肥満,脂肪肝のある被検者に,TSOのマイナス補正を施行した(図7)。マイナス補正とは音速の遅い組織に合わせた補正であるが,画像がシャープになり,特にSMA(superior mesenteric artery)の血管腔などはきれいに抜けるように描出され,腹部領域にも有用であると考えられる。図8は,C型慢性肝炎により肝臓が硬くなっている症例である。この場合は,音速が速い組織に対応するためにTSOをプラス補正することで,肝内の石灰化や腎被膜の構造などが明瞭に描出される。
図5 乳腺腫瘤症例でのTSO施行例 脂肪組織の厚い乳房や腋窩などで有効である。 |
図6 腋窩リンパ節腫脹の症例 高周波リニアプローブにはAuto TSOが搭載されている。 |
図7 60歳代,女性,軽度肥満,脂肪肝の症例 TSOをマニュアル調整でマイナス補正することで画像が シャープになった。 |
図8 70歳代,男性,C型慢性肝炎の症例 音速が速い組織に合わせてTSOをプラス補正することで シャープに描出された。 |
内視鏡のようなイメージを得られる “Fly Thru(フライスルー)”
超音波画像における従来の3Dは平行投影で見るもので,無限遠に視点を置いて投影するため,奥行き感をつかむことが困難であった。Aplio500に新たに搭載されたアプリケーション“Fly Thru”は透視投影,いわゆる遠近法での画像表示となり,内視鏡のようなイメージを表示することができる(図9)。管腔内の視点から管腔壁を見るような表示で,かつ任意の方向からの観察が可能であるため,視覚的に病変を把握することができ,診断や治療への応用が期待できる。
Fly Thruには3Dプローブを使用するが,サブプリセットに「Fly Thru」を組み込んでおけば,ワンタッチで選択できる。3Dプローブで,まずBモードを表示し,それを用いて3D画像を作成する。そのデータを取り込み,Fly Thruを選択すると,内視鏡のような画像を表示できる。
図10は,胆嚢ポリープの症例である。胆嚢の底部側から頸部側に向かう方向の観察像で,胆嚢内を視点が移動していくと,いくつかのポリープの脇をかすめるように進み,頸部まで見ることができる。このような画像は,これまで得ることはできなかったため,非常に驚嘆した症例である。
さらに興味深いことは,Fly Thruは管腔内を"飛ぶ"ようなイメージを表示するだけではなく,ある空間の視点から何かを見ることができる機能であることである。図11は,肝硬変で腹水が溜まっている症例であるが,これは腹水の中から肝臓の表面を見たイメージである。肝下面の突出している部位も観察でき,3D画像が移動することで,4D表示のように表現できることも,Fly Thruの特長であると言える。
図10 胆嚢ポリープ症例におけるFly Thru(動画)
図11 腹水中から肝下面を見たFly Thru(動画)
Aplio500を実際に使用し,その進歩を実感するとともに,非常にポテンシャルの高い装置であると感じた。今後,さらなる発展が期待される。