ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Seminar Report3テスラ装置による心臓MRI 〜より早く質の高い検査を目指して〜 横山 健一 杏林大学医学部放射線医学教室講師
JRC2012 合同企画 産学連携セミナー1
3テスラMRIの新たなポテンシャル
JRC2012(第71回日本医学放射線学会総会,第68回日本放射線技術学会総会学術大会,第103回日本医学物理学会学術大会)が,4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜で開催された。13日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催の合同企画産学連携セミナーでは,東京女子医科大学画像診断学・核医学講座教授の坂井修二氏が司会を務め,杏林大学医学部放射線医学教室講師の横山健一氏と,東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授の田嶋 強氏が講演した。
3テスラ装置による心臓MRI 〜より早く質の高い検査を目指して〜
横山 健一(杏林大学医学部放射線医学教室講師)
2010年9月に東芝メディカルシステムズの3T MRI「Vantage Titan 3T(以下,Titan 3T)」を導入してから1年半が経過した。本講演では,Titan 3Tによる心臓MRIの臨床を中心に,3T装置による心臓MRIの利点と欠点を述べるとともに,新しく開発された技術・機能についても解説する。
■Vantage Titan 3Tの特徴
Titan 3Tの特徴の1つがOpen boreシステムである。従来,60cmであった開口横径が71cmに拡大し,体格の大きな患者や閉所恐怖症の患者でも,快適な検査ができるようになっている。
心臓MRIに直接関係する最も重要な機能が,Multi-phase Transmissionである。RFパルス送信の位相と振幅を最適化して均一なRF励起を得る機能で,2chのRFアンプ,4ポートの給電ポイントという仕組みが同装置の特徴の1つである。
また,心電図同期については,3Tのために工夫された技術や,機能を搭載している。3T装置では,有線心電図同期を行うとノイズが混入してしまうため,それを回避するために無線心電図同期を採用した。また,トリガー波形を増幅,あるいはT波を除去(T Wave Suppression)する機能を搭載し,確実な同期撮影が可能となっている。
■心臓領域における3T MRIの利点と欠点
1.5Tと比較した場合の3Tの利点としては,SNRの高さ,組織のT1緩和時間の延長が挙げられる。組織のT1緩和時間延長については,特にタギングMRIなどで有用性を発揮する。一方,欠点としては,B0(静磁場)やB1(RF磁場)の不均一,susceptibility artifactによる信号欠損が挙げられる。また,SARが制約されることから,心臓MRIで用いるSSFP法が利用しづらいことが以前から指摘されている。
シネMRI(SSFP法)を例に見ると,3TではSNRやCNRが高いと言われているが,実際には撮像条件の制限があり,必ずしもそうとは言えない。banding artifactが目立つことも指摘されていた。また,SARの制限から,長いTRと低いフリップ角(FA)を使用せざるを得ず,SNRとCNRの低下による不十分な血液コントラストや,B0,B1不均一によるアーチファクトが課題であった。しかし,この点については,Multi-phase TransmissionによりSARの制限が緩和され,短いTRや高いFAが使用可能になることから,解決が期待される。
それでも,臨床例ではbanding artifactが目立つケースも出てくる。その解決方法の1つとして,中心周波数をシフトさせる方法があり,Titan 3Tには,“f0 prep”機能が搭載されている(図1)。これは,一連の中心周波数の画像を一度に撮像して最もアーチファクトの少ないものを選び,その中心周波数でシネMRIを撮像することで,よりアーチファクトが目立たない画像を得ることができる。
図1 f0 prep機能
一連の中心周波数(f0)の画像を一度に撮像し,最もアーチファクトの少ないものを選択する。
■Multi-phase Transmissionの画質への効果
シネMRIにおけるMulti-phase Transmissionの画質への効果を検討した。
Multi-phase Transmissionのon/offを切り替えた画像を比較すると,onの方が画質の向上が認められる(図2)。B1マップの比較でもonの方が均一性が高く,指定FAに対して,どの割合で倒れたかを正規化したヒストグラムからも,onの方が1へと収束し,より均一であることが見てとれる(図3)。
また,ボランティア14例のシネ画像について心筋と心内腔間のCNRも測定したところ,onの方が有意に優れており,Multi-phase Transmissionが画質改善に効果があることが確認できた。
図2 Multi-phase Transmission on/offの比較 |
図3 図2の症例におけるB1値のばらつき評価(ヒストグラム) Multi-phase transmission onで,より分布の幅が狭まり,「1」へ収束している。 |
■位置決めアシスト機能“CardioLine”
今春,当院との共同開発により,心臓検査で基準となる6断面(垂直長軸,水平長軸,左室短軸,三腔,二腔,四腔)を自動設定する,世界初の位置決めアシスト機能“CardioLine”が新たに発表された。原理としては,まず心電図同期のSSFP法で,1回の息止め下に,約20秒程度でマルチスライス横断像を撮像し,アイソトロピックなデータに変換する。そして,心臓の複数の特徴部位の統計的なパターンを認識する事例ベースの部位推定技術により,高精度に自動で断面の位置決めを行う(図4)。例えば,シネ画像の撮像においては,従来は断面ごとに位置決めと撮像を繰り返す必要があったが,CardioLineにより一度の撮像で位置決めが可能となる。位置決め用のデータを収集後,2秒程度で6断面が表示される(図5)。微調整も容易にでき,位置決めを確定すると,自動でシネ画像の撮像が始まる。
シネ画像の撮像時間について,当施設で心臓MRI検査に最も熟練している診療放射線技師が,従来のマニュアル法とCardioLineを用いた場合とで比較したところ,マニュアル法では10分半ほどかかったのに対し,CardioLineは6分半で完了した。CardioLineにより,撮像時間の短縮が可能となり,検査効率の大幅な向上が期待できる。
図4 CardioLineの原理イメージ
図5 CardioLineの画面
自動で位置決めされた6断面が表示される。
■CardioLineの精度評価
40例の心疾患症例を対象に,2名の放射線科医の合議による断面設定と,CardioLineによる断面設定について,角度とポジショニングの誤差を測定した。その結果,角度誤差は二腔では約11°と目立ったが,ほかの断面は4〜7°程度であった。また,ポジショニングの誤差は,最も目立つのが短軸像の心基部で5mm程度であり,ほかは1〜3mm程度であった。
心臓MRIのエキスパートが別個に断面設定をした際の,観察者間の角度誤差が5〜10°との報告もあることから,CardioLineによる断面設定の誤差は,十分に許容範囲内であると考えることができる。
■まとめ
3T装置による心臓MRIは,Multi-phase Transmissionなどの機能により,RF(B1)の不均一といった問題が解消され,高いSNRなどの特徴を生かした良好な画質が得られるようになっている。また,CardioLineやf0 prepなどの機能により,より速く質の高い検査を行うことが可能となっている。
3T本来の特徴をさらに生かし,常に安定した画像が得られるように,今後も新たなシーケンス開発やプロトコールの最適化が必要だと考える。