ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Seminar Report320列面検出器CTを用いた画像診断〜胸腹部の臨床応用〜 赤羽 正章 東京大学医学部附属病院放射線部准教授
第71回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー12
Global Standard CT─320列面検出器CTとAIDR 3Dが拓く新しいCTのスタンダード─
2012年4月12日(木)〜15日(日)の日程で,パシフィコ横浜を会場にJRC2012が開催された。14日(土)には,第71回日本医学放射線学会総会において,東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー12が行われ,岡山大学医歯薬学総合研究科の金澤右氏を座長に,320列面検出器CT「Aquilion ONE」とその被ばく低減技術である「AIDR 3D」をテーマとして,東京大学医学部附属病院放射線部准教授の赤羽正章氏と藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室教授の片田和広氏が講演した。
320列面検出器CTを用いた画像診断〜胸腹部の臨床応用〜
赤羽 正章(東京大学医学部附属病院放射線部准教授)
320列面検出器を搭載した東芝メディカルシステムズ社製「Aquilion ONE」は,2007年に発表されて以降,着実に進歩を続けている。特に,最近の重要な技術としては,逐次近似再構成法を応用した被ばく低減技術である“AIDR 3D”が挙げられる。本講演では,AIDR 3Dを中心にしたAquilion ONEの技術的特長と,胸腹部領域における使用経験について報告する。
■Aquilion ONEの技術的特長
Aquilion ONEの技術的特長として,4つのポイントが挙げられる。1つは,スキャン中にヘリカルピッチを変更できるVariable Helical Pitch(vHP)scanである。これにより,スキャン中にテーブルの移動速度を加速ないし減速することができ,1回のスキャンで心電同期と非同期の撮影が可能になった。2つ目は,1回転で160mmのボリュームスキャンが可能なことである。これは,ヘリカルスキャンと異なり,体軸方向に同時相のデータ再構成ができる上に,stair step artifactがないため,高画質が得られる。
3つ目は,ボリュームのCT fluoroscopyであり,IVRにおいて有用である。4つ目としては,ボリュームでの時間分解能の高いシネ撮影が挙げられる。
■vHPとAIDR 3D
Aquilion ONEは,コンベンショナルスキャンに加え,160列×0.5mmのヘリカルスキャンが可能になった。さらにvHPを使うことで,連続して複数のヘリカルピッチを使用できるため,心電同期と非同期を組み合わせた撮影も可能になる。
図1にvHPで撮影した当院での症例を示す。患者は胸痛を訴えて来院したため,胸部を心電同期で6秒(HP32),腹部を非同期で4秒(HP91),合計10秒で撮影した。胸部と腹部の境目に段差のない,良好な画像が得られている。また,心電同期撮影を行った胸部はブレやアーチファクトもなく,LADのプラークも明瞭に描出されている。ハーフ再構成のためノイズが多くなるが,AIDR 3Dを使用することで,それが抑えられている。
このAIDR 3Dは,逐次近似再構成法に基づいた東芝社の技術である。その優れた点は,例えば目標とするSDを13と設定すると,AIDR 3Dを使用した際に自動的にその設定に合った画質となるよう,線量を調整することである。これにより,図2のようにvHPを用いて途中から線量を落として撮影しても,その前後の境目に違和感のない画像が得られている。
CTの画像再構成法は,初期にはFBP法が用いられてきた。東芝社では,16列マルチスライスCTの頃から,生データベースと画像ベースでのノイズ低減処理技術を搭載し,画質の向上を図ってきた。生データベースの処理法には,“RASP”と“Boost 3D”がある。一方で,画像ベースのノイズ低減処理技術である“QDS(量子フィルタ)”は,画像からエッジを抽出し,それ以外の部分に平滑化処理を行いノイズを低減する技術で,RASP,Boost 3Dと併用することができる。
その後開発された画像ベースのノイズ低減処理技術であるAIDRは,画像データ空間でノイズとそれ以外の部分を抽出し,ノイズではないと抽出された部分について再度,ノイズ抽出と低減処理を繰り返し行う処理である。AIDR 3Dは,投影データ(純生データ)と画像データで効果的にノイズ低減処理を行う再構成法である(図3)。フォトンノイズや回路ノイズ,およびCTシステムや撮影条件などを考慮した統計学的ノイズモデルを用いて,ノイズを投影データ上にて低減させる。さらに,画像データ上で,対象部位に合わせたノイズ低減処理を反復的に行うことで,効果的にSD改善を行う。
このようにAIDR 3Dでは,従来の線量で撮影してもノイズやストリークアーチファクトが画質を損ねるケースにおいて,画質を改善し診断能の向上や定量化の再現性が良くなるというメリットがある。一方で,従来と同等の画質を維持しつつ,線量を低減することも可能になる。さらに,もう1つのメリットとしては,線量を下げることで,これまで大焦点で撮影していた領域を小焦点で撮影することが可能になり,空間分解能の向上が図れることも挙げられる。
図1 vHPを用いた胸腹部の心電同期・非同期撮影 |
図2 AIDR 3Dによるノイズ低減処理 |
図3 AIDR 3Dの画像処理の流れ
■ボリュームスキャンとAIDR 3D
当院の井野賢司技師らは小児検査での画質向上を図るため,ボリュームスキャンに心電同期ハーフ再構成を併用する検査法を研究している。通常のヘリカルスキャンでは,心臓の動きや呼吸によるバンディングアーチファクトが生じるが,Aquilion ONEでは,ボリュームスキャンとハーフ再構成を組み合わせることで,ブレの少ない画像が得られる。ただし,これだけでは運悪く心拍動や呼吸運動の激しい時間帯が含まれてしまい,うまくいかない場合もある。そこで,任意位相を選択して再構成するために,心電計をデモモードにして心電同期スキャンを行い,ブレの少ない画像を選択することができる。これにより,被ばくを増やすことなく高画質化が可能となるが,ハーフ再構成によるノイズの増加というデメリットもある。これを改善するために,AIDR 3Dを併用することで,ノイズを抑えた高画質画像が得ることができる(図4)。
また,当院では,coronary CT angiography(CCTA)でも,積極的にAIDR 3Dを使用している。図5は,実効線量1.2mSv,1心拍でのCCTAであるが,AIDR 3D不使用(a)の場合はノイズが目立っている。一方で,AIDR 3Dを使用すると,実用レベルの画質を得ることができた(図5b)。さらに,AIDR 3Dを使用した小焦点での撮影では,空間分解能が向上しており,ステントや石灰化の描出が従来よりも明瞭となっている。プラークを定量的に評価するためのソフトウエアである“Plaque Viewing”でも,AIDR 3Dにより再現性の高いデータが得られるようになる。
このほか,dual energy imagingにおいても,AIDR 3Dの有用性は高い。dual energy撮影による仮想非造影CTでは,ストリークアーチファクトの少ない良好な画像を得ることができている(図6)。
図4 ハーフ再構成とPhase NAVI,AIDR 3Dによる ボリュームスキャンの画質比較 |
図5 CCTAでのAIDR 3D使用によるノイズ低減 |
図6 AIDR 3Dを使用したdual energy imagingの仮想非造影画像
■CT fluoroscopyのボリュームスキャン
Aquilion ONEは,ガントリの回転速度が0.5s/rotならば,1回転あたり1200viewのデータが得られるが,そのうちの1viewがあれば透視画像を作成できる。同一方向のviewを順番に表示すると,CTガイド下ドレナージにおいても,図7のような透視画像が連続的に得られる。また,ガントリを回転させながら,パルス照射で正面,側面の透視画像を撮影することも原理的には可能である。これが実現すれば,0.5秒や0.35秒間隔で,正面,側面透視画像が得られるようになるほか,臓器や骨の位置関係を立体的に把握できるstereo-viewingも可能になる。これらは,Aquilion ONEの1viewのデータだけでよいため,IVRにおいて,従来よりも大幅に被ばく低減を図れる技術として期待されている。
図7 Aquilion ONEでのCT fluoroscopy
■まとめ
320列面検出器CTであるAquilion ONEとAIDR 3Dの組み合わせにより,今後もさらにCTの技術が発展していき,臨床応用が進んでいくと考える。