ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Seminar Report信頼性の高い脳血流定量のポイント 小倉 利幸
第51回日本核医学会学術総会,第31回日本核医学技術学会総会学術大会 ランチョンセミナー9
脳神経外科医が必要とする 脳血流SPECT画像とは
第51回日本核医学会学術総会,第31回日本核医学技術学会総会学術大会,第5回日中韓核医学会議が2011年10月27日(木)〜29日(土)の3日間,つくば国際会議場(つくば市)にて開催された。29日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー9では,岩手医科大学脳神経外科学講座の小笠原邦昭氏が座長を務め,札幌麻生脳神経外科病院放射線科の小倉利幸氏と,北海道大学医学研究科脳神経外科の黒田敏氏が講演した。
信頼性の高い脳血流定量のポイント
小倉 利幸(札幌麻生脳神経外科病院放射線科)
脳血流の定量解析は近年,非常に進歩しており,NEURO FLEXER,SEE JET,KUROCASなどの解析ソフトウェアが登場しているが,高い定量精度が得られなければ,これらの解析法がピットフォールになる危険性を秘めている。本講演では,信頼性の高い脳血流定量のポイントについて述べる。
■精度の高い定量技術とは
定量精度を考える上では患者への侵襲性を考慮しなければならないが,侵襲性と定量性は相反するため,定量精度を高めるためには,現状では侵襲性を犠牲にする採血法(動脈頻回採血,持続採血,一点採血,静脈採血)を用いざるを得ない状況である。
また,定量値は患者側の要因により変動することがある。具体的には,動脈血ガス分圧や,ヘマトクリット(Ht)値,頭蓋内圧亢進症,検査中の睡眠,血流改善剤や降圧剤などの治療薬投薬中の検査,患者の体動などの影響が考えられる。そのため,検査前に患者の状態を十分にチェックし,可能であればガス分圧測定を行うべきと考えている。
■定量性の高いSPECT画像の作成
●散乱線補正
定量性の高いSPECT画像を作成するためには,散乱線補正が必須である(図1)。現在用いられている散乱線補正法には,東芝メディカルシステムズが提唱するTEW(triple energy window)法と,QSPECTで用いられるTDCS(transmission dependent convolution subtraction)法などがあるが,どちらの方法でもおおむね同じ補正効果が得られる。
●減弱補正
減弱補正を行うには,Changの方法が主流である(図2)。頭部の輪郭抽出を行い,その中を水として減弱補正マップを作成し補正を行う方法が一般的であるが,CT画像から減弱補正マップを作成し補正を行う方法(X線CT法)もある。輪郭抽出を行う際には,抽出の仕方によってCBFが大きく変動するため,最適な輪郭抽出を行うには細心の注意が必要である。
●頭蓋骨の影響
CCF(cross calibration factor)測定用ファントムにて,ファントムの回りに骨と等価の吸収体がある場合とない場合のCCF値を測定したところ,散乱線補正,減弱補正を行っていない場合は,骨あり画像のカウントが相対的に低下しており,結果,CCF値が上昇していた
(図3)。この傾向はTEW Chang法でも同様であり,最適な減弱補正を行うには,X線CT法が望ましいと考えている。
■トレーサー入力の正確な測定
トレーサーの脳への入力は,血中濃度曲線下面積(area under the blood concentration time curve:AUC)で表される(図4)。採血法は,持続採血や一点採血,あるいは非採血で肺動脈や上大動脈にROIを取って,入力関数の推定を行うのが実際的な方法と思われる。また,オクタノール抽出率測定を行っている施設もあると思われるが,これは非常に煩雑な操作が必要なため,熟練していない場合はデータがなかなか安定しない。
入力測定のポイントをまとめると,ピペット操作の誤差は2%以内に抑えること,オクタノール抽出は熟練を要するが,誤差はやはり2%以内に抑えること,持続採血を行う場合は採血中の状態に注意すること,一点採血は採血時刻を正確にすること,非採血法ではROI設定やトレーサーの注入速度などに十分配慮すること,などがある。
■精度の良い定量法の選択
●入力関数の較正のポイント
精度の良い定量法としては,JET study(Japanese EC-IC bypass Trial)で用いられたIMP-ARG法が最も良いと考える1)。ARG法には,原法からより早期化したsuper early ARG法,さらに,それをベースとしたDTARG法(split dose)がある。
ただし,IMP-ARG法にもピットフォールがある。入力関数を1点採血で較正しているほか,Vd値を固定しているため,これらの個人差が誤差要因となる。例えば,入力関数の投与後早期のピークの高さが小さく鈍る場合があるが,そのような症例に標準入力関数を当てはめると,入力の過大評価を起こし,CBFの過小評価につながる。このような例は,喫煙例や心肺疾患例に多いとされている。また,IMPは静注されると,いったん肺にトラップされ,そこから洗い出されて全身に送られる。その際,喫煙者や心肺疾患例では明らかにクリアランスが遅延することが報告されており2),標準入力関数を用いることにより誤差が生じることが容易に想像できる。
以上のことより,入力関数を較正する際のポイントとして,(1) 検査時に喫煙の有無や心肺疾患の有無をチェックする,(2) 肺のクリアランスを見る,(3) 可能であればオクタノール抽出を行う,(4) 持続採血により精度を上げる,という4点が挙げられる。
■定量性の高いSPECT画像の作成
●Vd値の最適化のポイント
Vd値と高血流領域の線形性について調べたところ,SPECT撮像の中心時刻が40分と10分の場合,40分では設定するVd値によって傾きが異なり,高血流領域までの線形性に違いが生じるが,10分にまで早期化したところ,バラツキが改善され,Vd値に依存せず良好な直線性が得られることを確認した(図5)。
またVd値は,散乱線補正,減弱補正を行った場合は,両方とも行わなかった場合と比べて有意に高くなる。以上のように,Vd値は撮像中心時刻や画像処理条件によって影響するので,Table Look Up法などを用いて,自施設ごとに最適なVd値を確認する必要がある。
■客観性の高い定量解析
脳血流SPECTを用いた経過観察においては,イメージレジストレーション技術の進歩によって,同一スライス,同じ部位で過去画像と比較することが容易にでき,診断に非常に役立つ。ROI設定については,従来の用手的な方法では,再現性が悪く,個人差が生じやすいため,近年報告されている3DSRTやNEURO FLEXERのような自働ROI設定法の使用が必須であると考えられる3),4)。
客観性の高い定量解析を行うためには,自動ROI設定やその他の画像処理技術を駆使して,術者が誰であろうと同じ結果が得られるような仕組みを作る必要がある(図6)。
■まとめ
信頼性の高い脳血流を得るには,検査時の患者の状態をチェックし,自施設の技術的な測定誤差要因等を明確にして,可能な限り最小限に抑える取り組みが必要である。また,臨床から要求される定量精度をよく把握し,患者のためになる定量値を算出することが,まずは先決であると考えている。
●参考文献1) | Iida, H., Itoh, H., Bloomfield, P.M., et al.:A method to quantitate cerebral blood flow using a rotating gamma camera and iodine-123 iodoamphetamine with one blood sampling. Eur. J. Nucl. Med., 21, 1072〜1084, 1994. |
2) | Katoh, K., et al.:Effects of cigarette smoking on iodine 123 N-isopropyl-p-iodoamphctamine clearance from the lung. Eur. J. Nucl. Med., 13・10, 301〜305, 1991. |
3) | Minoshima, S., Robert, A., Koeppe, R.A., et al.:Anatomic standardization ;Linear scaling and non linear warping of functional brain images. J. Nucl. Med., 35, 1528〜1537, 1994. |
4) | Ogura, T., et al.:An automated ROI setting method using NEUROSTAT on cerebral blood flow SPECT images. Ann. Nucl. Med., 23・1, 33〜41, 2009. |