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Seminar Report

第47回日本医学放射線学会秋季臨床大会ランチョンセミナーLS-3
3テスラMRIの新たな可能性

第47回日本医学放射線学会秋季臨床大会が,2011年10月21日(金)〜23日(日)の3日間,海峡メッセ下関・下関市生涯学習プラザ(山口県下関市)で開催された。21日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野教授の杉村和朗氏を座長として,神戸大学医学部附属病院放射線科の煖エ哲氏と,東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授の田嶋強氏が講演した。

3T MRIの臨床経験 〜非造影MRA Time-SLIP法について

田嶋 強(東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授)

田嶋 強
田嶋  強
1990年九州大学医学部医学科卒業。同医学部附属病院放射線科,国立病院機構九州がんセンター放射線科,九州大学病院放射線科講師を経て,2010年より現職。

非造影MRAは,MRI黎明期から開発されてきた撮像手法であるが,最近の技術的進歩による描出能の向上や,包括医療制度の導入,腎性全身性線維症(NSF)が報告されたガドリニウム造影剤の安全性の観点から,これまで以上に注目されている。本講演では,当院における腎疾患診療の現状と,非造影MRA手法である“Time-SLIP法”の原理について述べ,実際の症例を提示する。

■当院における腎疾患診療の現状

当院における腎移植症例数は,年間約180例,のべ3000例以上と世界有数であるほか,わが国で初めて血液型不適合の腎移植に取り組み,2005年までに世界最多の247例を施行した。また,血液透析は年間1500件以上,血液シャントIVRも年間700件以上に上る。それ以外の腎・泌尿器血管系IVRについても,非常に幅広い症例に対して豊富に施行しており,その数は増加傾向にある。

■Time-SLIP法併用非造影MRAの概要

図1 Time-SLIP法併用非造影MRAの原理
図1 Time-SLIP法併用非造影MRAの原理

当院では2010年11月,東芝メディカルシステムズ社製3T MRI「Vantage Titan 3T」と,1.5T MRI「EXCELART Vantage powered by Atlas」を導入し,MRI 5台体制となった。この2台に共通する大きな特徴は,非造影MRAアプリケーション“Time-SLIP法”を搭載していることである。
Time-SLIP法とは,arterial spin labeling(ASL)の技術をMRAに応用したもので,選択的IRパルスを用いて見たい分枝血管だけを分離したり,血流の方向や血行動態を可視化することができる。True-SSFPやFSE法などと併用できるが,特にTrue-SSFPを併用した際の画質はきわめて高画質である。
Time-SLIP法併用非造影MRAの原理は次のとおりである。はじめに,描出したい血管領域を選択し,Selective IRパルスを任意の場所に設定する。図1 aはTime-SLIP法を併用していないSSFPの画像だが,ここから腎動脈を分離させたい場合,オレンジ色で囲った領域にtagを設定し(図1 a,b),背景信号を抑制し,そこに流入する血流を描出して画像を作成する。次に,BBTI値(black blood traveling time:tagパルスを設定して血行動態を反映する時間)を調整することにより,血行動態あるいは背景の腎実質信号をコントロールする。その後,True-SSFPなどのシャッタースピードの速い撮像シーケンスを用いて撮像すると,腎動脈を明瞭に描出できる(図1 c)。

■Time-SLIP法併用非造影MRAの長所と短所

図2 非造影MRA:1.5Tと3Tの比較
図2 非造影MRA:1.5Tと3Tの比較

Time-SLIP法併用非造影MRAの長所として,造影剤使用によるNSFやアレルギーのリスクがないこと,繰り返し撮像が可能なこと,動脈・静脈の分離が可能なこと,優れた背景信号抑制効果が得られること,細い側副血行路でも比較的描出能が高いこと,などが挙げられる。短所としては,検査時間が約5分とやや長いこと,血流速度・方向,体動などの影響によりアーチファクトが出やすいこと,描出能がオペレータの技術と経験に依存すること,などがある。
また,1.5T装置との比較における,3T装置による腎の非造影MRAの利点として,高SNRによりきわめて高分解能かつ高速撮像が可能なこと,BBTI値が1.5Tよりも延長でき,腎動脈の末梢まで描出可能なこと,T1値の延長とT2値の短縮により背景腎の信号上昇が少ないこと,などが挙げられる。
図2は,1.5Tと3Tで同一症例を同じ条件で撮像したTime-SLIP SSFPのMIP像である。3Tの方が,腎動脈がより末梢まで描出されていることがわかる。

図3 症例1:腎動脈狭窄症例(70歳代,男性)
図3 症例1:腎動脈狭窄症例(70歳代,男性)

図4 症例2:移植後腎動脈狭窄症例(70歳代,女性,生体腎移植後5年)
図4 症例2:移植後腎動脈狭窄症例(70歳代,女性,生体腎移植後5年)

図5 症例3:腎動脈瘤のTAE術前評価(40歳代,女性)
図5 症例3:腎動脈瘤のTAE術前評価(40歳代,女性)
(70歳代,女性,生体腎移植後5年)


図6 症例4:ADPKDにおける腎動脈の描出(60歳代,女性)
図6 症例4:ADPKDにおける腎動脈の描出(60歳代,女性)

■症例提示:非造影MRAによる 腎動脈,血管解剖の描出

●非移植腎例

症例1は,70歳代,男性で,造影CTにて両側の腎動脈狭窄が疑われた。3D-CTAのMIP像では,右腎動脈起始部に強い狭窄が見られるほか,左腎動脈起始部にも石灰化が認められ,狭窄は否定できなかった。そこで,Time-SLIP SSFPのMIP像を見ると,左腎動脈には狭窄がないことがわかった(図3)。3T装置では,高齢者でも腎動脈末梢まで非常に明瞭に描出することができる。

●移植腎症例

症例2は,70歳代,女性で,腎移植後5年が経過している。臨床症状はないものの,Time-SLIP SSFPのMIP像にて内腸骨動脈との吻合部になだらかな狭窄が認められた(図4 ↑)。しかし,Straightened CPR像では,狭窄と思われた箇所の近傍に外腸骨動脈が通過していたため,圧排のみと評価し,経過観察を行っている。Straightened CPR像は,狭窄率の評価にも使用できると考えている。

●IVR術前検査

腎移植後の合併症には,拒絶反応,感染症,泌尿器科的合併症などがあるが,血管系の合併症の頻度が高く,特に移植腎動脈狭窄については発生頻度が1〜23%と報告されている。その原因として,海外の文献では動脈硬化が最も多いと報告されているが,私自身の経験では移植腎の位置ずれといった解剖学的要因や,移植腎摘出時の血管のねじれや縫合不全などの手技的要因が多いと実感している。
症例3は,40歳代,女性で,肝動脈塞栓療法(TAE)術前の3D-CTAにて腹側枝と背側枝の分岐部に約3cmの動脈瘤が認められた。瘤内の乱流の様子を見るために,Time-SLIP SSFPにてBBTI値を700〜1500ms程度まで変更しながら撮像したところ,BBTI 1100msで乱流が明瞭に観察できた(図5)。IVRを行う上で,このような乱流の情報は有用との報告もあり,特に部位や形態が特殊な動脈瘤では役立つ可能性がある。
症例4は,常染色体優性遺伝嚢胞腎(ADPKD)の60歳代,女性である。ADPKDでは,腹部膨満の緩和目的に両側腎動脈のTAEを行うことがあるが,従来,TAE術前の検査は単純CTしか行うことができず,腎動脈開存の有無については血管造影にて評価するしかなかった。そこで,Time-SLIP SSFPを行うと,血管の走行のみならず,血管狭窄の有無,嚢胞による圧排の程度もよくわかるため(図6),IVRの適応を決める際の参考となる。

■まとめ

非造影MRAは,近年の技術的な進歩により画質が飛躍的に向上しており,今後,腎疾患診療において有力なツールとなることが期待される。

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