ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Seminar Report撮影技師の立場から 瀬尾 芳子
第21回日本乳癌検診学会学術総会ランチョンセミナー10
最新マンモグラフィシステムの使用経験 ─撮影時情報入力機能(Exam-Marker)の活用─
第21回日本乳癌検診学会学術総会が2011年10月21日(金),22日(土)の2日間,岡山コンベンションセンターにて開催された。22日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,NPO法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会の堀田勝平氏が座長を務め,筑波メディカルセンターつくば総合健診センター放射線技術科の瀬尾芳子氏と,筑波メディカルセンターつくば総合健診センターの東野英利子氏が講演した。
撮影技師の立場から
瀬尾 芳子(筑波メディカルセンターつくば総合健診センター放射線技術科)
当センターでは以前から,マンモグラフィ撮影を担当した診療放射線技師(以下,技師)が撮影時の情報提供や読影能力向上のために医師の読影に積極的にかかわってきた。2010年4月のチーム医療推進についての厚生労働省通達に,技師が実施できることとして「画像診断における読影の補助」が明記されたことを受け,東芝メディカルシステムズは,「Pe・ru・ru DIGITAL」に搭載される,撮影時情報入力機能「Exam-Marker」を開発した。本講演では,当センターにおけるExam-Markerの使用経験について,撮影技師の立場から報告する。
■当センターのマンモグラフィ検診
当センターでは,レディース検診にマンモグラフィが含まれており,午前50人,午後10人の受付枠を設けている。
2009年4月,アナログシステムから東芝メディカルシステムズ社製「Pe・ru・ru DIGITAL」に更新し,フィルム読影からモニタ診断に移行した。2011年6月のソフトウエアのバージョンアップで,FPDの特性に合わせた撮影条件になったことで,医師からは,乳腺内外のコントラストや粒状性がより向上したとの評価を得ている。なお,読影には同社のマンモビューワ「Rapideye Station」5メガモニタ2面を使用している。
■Exam-Markerの使用法と運用
Exam-Markerは,Pe・ru・ru DIGITALに搭載された,読影を支援するための撮影時情報入力機能である。画像観察用モニタ(オプション)に表示された画像上に,マウスとキーボードを使って,矢印やテキストの情報を容易に入力することができる。入力した情報は,DICOM規格のオーバーレイ情報として記録されるため,規格に対応したビューワで表示することができる。
使用例として,(1) 撮影者しか知り得ない情報の記載(ほくろ,皮膚の病変や傷,乳頭分泌,ポジショニングの状態,触知情報),(2) 技師のダブルチェック(画像確認の結果判明した所見情報),(3) 他部門への情報伝達(超音波検査部門など,マンモグラフィ画像を参照して行う検査部門への伝達)が挙げられる。
■Exam-Markerの入力方法
当センターでExam-Markerを使用する例としては,受診者とのコミュニケーションで判明したこと(自覚症状,手術の内容など),撮影前に気づいた所見(手術瘢痕,ほくろ,いぼなど),撮影時に気づいた所見(乳頭分泌など),観察モニタで気づいた所見(石灰化,腫瘍,FADなど)がある。
Exam-Markerの入力作業は,当センターの検査人数で検査中に実施すると,所見の有無により検査時間に差が出てしまい,検診全体の流れに影響するため,撮影時に気づいたことをメモに残しておき,すべての検査終了後に,対象画像をPe・ru・ru DIGITALの観察用モニタに呼び出して,一括入力する運用としている。
所見の入力は,Exam-Markerの“Marker Edit”でマーカーツールを選択するだけで簡単に行える。マーカーの項目としては,ほくろ,分泌(ミルク,透明,赤褐色),OpeScar(良性,悪性,良悪の区別なし)があり,また,文字ツールを選択すれば自由に入力できる。
当初は,画像上に重ねてマーカーを入れていたが,読影する医師に先入観を与える可能性があるという指摘があった。そこで,医師に新しいマーカーを考案してもらい,メーカーに作成してもらった(図1)。具体的には,乳房の領域を示すモデル(a)と,画像上でそのまま大きさを比較できるように大きさを5mm(b),10mm(c)とした,ほくろやいぼを示すマーカー,手術瘢痕の形状を示すための5mmの十字マーカー(d)である。当センターではこれらのマーカーを使用することにした(サイズは実寸表示した場合の大きさ)。
図2は,ほくろの入力例である。右A領域にほくろがあったことがマーカーで示されており,画像上に認められる結節がほくろと一致するかを,読影医が判断することができる。図3は,いぼの入力例である。これまでは,コメントを記載するだけで,詳細な大きさや位置を伝えられずにいたが,マーカーの使用により,視覚的な判断が容易となる。また,図4は手術瘢痕の入力例である。以前は構築の乱れに合わせて画像上にマーカーを重ねていたが,新しいマーカーを使用することで,読影医は先入観を持たずに観察でき,技師の示した所見は参考情報として考慮することができるようになった。十字マーカーは1つずつ入力可能なため,直線や円弧状,乳輪に沿った形など自由に記載でき,ニュアンスを伝えやすい。
医師による読影は,技師が事前に読影した結果を記入した検診所見表を参照しながら行われる。Exam-Markerを入力した場合には,コメント欄に「コメントあり」と記載し,医師に伝えている。ビューワでは,グラフィック情報アイコンのon/offで,Exam-Markerの表示/非表示を操作でき,CADと同様に,読影に先入観を与えないように,初期表示ではExam-Markerを表示せずに読影し,その後Exam-Markerを表示して,読影結果を補完する,という読影ルールとしている。
■使用所感のアンケート調査
当センター内でExam-Markerについてのアンケート調査を行った。対象は,経験年数2〜10年の検診マンモグラフィ撮影認定技師9名である。
Exam-Markerを入力するタイミングの設問には,ほとんどの技師が全検査終了後と答えた。Exam-Marker使用前後の意識の変化は,経験年数6年以下の技師に見られ,観察や情報伝達をより詳細に行うようになったと答えている。また,入力の所要時間については全員が,「時間がかかる(が,気にならない程度)」との回答であったが,操作の慣れや,バージョンアップで解決できる課題もあるため,今後,時間の短縮が期待できる。
アンケート結果から,「画像のチェックを兼ねて5メガモニタでExam-Markerが使用できることが望ましい」,「臨床情報が詳しく伝えられる」,「臨床情報が読影に役立つことを意識するようになった」といった意見が見られた。
■症例数の比較
Exam-Markerの運用前後での症例数を比較した。運用開始前(2011年3〜6月上旬)の1255件のうち,ポジショニング時に把握できたと思われる所見がコメントとして記載されていたのは33件(2.6%)であり,運用開始後(2011年7〜9月下旬)の1265件のうち,同様の所見でExam-Markerを使用したものが78件(6.2%)であった(図5)。なかでも,皮膚所見が増加したのは,意識の変化によるものと思われる。
Exam-Markerを使用した症例のうち,多くは皮膚所見や乳頭分泌の有無といったポジショニング時に把握した情報であった。今後は,石灰化や腫瘤といった撮影時に気づいた画像所見の入力にExam-Markerを使用することで,情報伝達の質が改善され,医師の読影をより支援できるようになると同時に,医師の読影結果と比較検討することで,技師の読影能力の向上も期待される。
■まとめ
Exam-Markerは,画像に直接入力できることによるメリットが大きく,チーム医療に役立つと思われる。また,技師の意識向上にも役立つ可能性が示唆された。