東芝メディカルシステムズ

ホーム の中の inNavi Suiteの中の 東芝メディカルシステムズの中の Seminar Reportの中の腹部画像診断の新たな可能性 3T MRIでの上腹部領域におけるMulti-phase Transmissionの使用経験 加藤 勤 住友別子病院放射線部長

Seminar Report

第25回日本腹部放射線研究会ランチョンセミナー1
腹部画像診断の新たな可能性

第25回日本腹部放射線研究会が2011年6月10日(金),11日(土)の2日間,大阪市中央公会堂にて開催された。初日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医学教授の金澤右氏が座長を務め,慶應義塾大学医学部放射線科学教室准教授の陣崎雅弘氏と,医療法人住友別子病院放射線部長の加藤勤氏が講演した。

3T MRIでの上腹部領域におけるMulti-phase Transmissionの使用経験

加藤 勤(住友別子病院放射線部長)

加藤 勤
加藤 勤
Kato Tsutomu
1983年関西医科大学放射線科。94年香川医科大学放射線科。98年住友別子病院。現在,住友別子病院理事・放射線部長。関西医科大学非常勤講師。日本医学放射線学会放射線科専門医(診断)。

3T MRIは,体厚のある躯幹部においては,高い共鳴周波数の高周波が深部に均一には届かず,画像ムラを生じてしまうことが問題であったが,Multi-phase Transmissionの登場により,歪みのない均一な画像が得られるようになった。2台のRFアンプで,給電点を4ポイントに増やすことで,人体挿入時のB1不均一を低減し,画質の大幅な向上を実現した,「Vantage Titan 3T」におけるMulti-phase Transmissionの使用経験について報告する。

躯幹部での弱点を克服するMulti-phase Transmission

3T MRIでは肥満症例の撮像が最も困難であるが,Multi-phase Transmissionにより,ある程度きれいな画像を得ることができる(図1)。また,新しい脂肪抑制技術である“Enhanced Fat Free”は,2回の脂肪抑制パルスを用い,1回目で発生した信号差を2回目のパルスで低減させて,均一な脂肪抑制効果を得る方法である。Enhanced Fat Freeを併用することで,より均一性の高い画像を得ることができる(図2)。
腹水も画像ムラの一因であるが,Multi-phase Transmissionにより均一な画像を得ることができ,さらにSPAIR法で脂肪抑制をすることで,皮下の水なども含め,きれいに分離することができる。また,体内に金属ペッツやチタンスクリューなどがあっても,歪みが非常に少ない画像を得ることができる。
このように,Multi-phase Transmissionにより良好な磁場均一性が確保されることで,3Tにおける肥満や大量腹水,体内金属などの影響を克服することができる。

図1  Multi-phase Transmissionを用いた肥満のHCC症例
図1 Multi-phase Transmissionを用いた肥満のHCC症例
図2  Enhanced Fat Freeの併用(図1と同一症例) Gd-EOB-DTPAの造影前(a)と造影後の肝細胞相(b)。脂肪が非常に良く抜けて,均一性の高い画像が得られている。
図2 Enhanced Fat Freeの併用(図1と同一症例)
Gd-EOB-DTPAの造影前(a)と造影後の肝細胞相(b)。
脂肪が非常に良く抜けて,均一性の高い画像が得られている。

3T MRIの組織コントラスト能の特徴

●T1強調画像
de Bazelaireらの研究1)によると,腹部領域における3Tと1.5Tの緩和時間の違いは,肝臓,脾臓,膵臓では,3TでT1値が著明に延長するのに対し,筋肉では緩和時間に差がなく,結果的に,3Tでは肝臓,膵臓,筋肉でのT1値の差が少なくなる。そこで,T1強調画像での肝臓,膵臓,筋肉の関係を検証した。図3〜5に,グラディエントエコー(GR)法を用いた,2D in-phase/out of phase,T1強調画像2D in-phase脂肪抑制像,T1強調画像3D spoiled脂肪抑制像を示す。これらの画像から,T1強調脂肪抑制像では,程度に差はあるものの,肝臓,膵臓,筋肉が同じような信号強度を示す傾向を認めた。肝臓の信号が低くなることで相対的に膵臓が白く描出される場合の主な病態としては,脂肪肝,肝硬変などがある。
次に,造影能については,T1値を短縮させる緩和試薬(Gd系)の効果が高いことから,高分解能の造影T1強調画像が期待される。図6は,肝細胞がん(HCC)におけるGd-EOB-DTPAの造影能の比較であるが,3Tでは高分解画像でも良好なCNRを保ち,肝硬変での肝実質における不均一性も表現できている。
塩化Mn四水和物(ボースデル)による組織コントラスト能は,原液ではT1強調画像で高信号の溶液として描出され,アーチファクトが出やすいため,希釈が必要である。ただし,希釈し過ぎるとT2強調画像で信号が出てくるため,3倍程度の希釈が適当と考える。

図3 2D GR in-phase/out of phase像
図3 2D GR in-phase/out of phase像
脂肪を含むHCC。in-phase,out of phaseとも,
肝臓,膵臓,筋肉の信号差は著明でない。
図4 T1強調画像2D GR in-phase脂肪抑制像
図4 T1強調画像2D GR in-phase脂肪抑制像
3T 2D法では,肝臓,膵臓,筋肉のT1値の差が少ないため,信号差も少なくなっている。膵臓の信号が低下する病態として,慢性の炎症,嚢胞,腫瘍がある。
図5 T1強調画像3D spoiled GR脂肪抑制像
図5 T1強調画像3D spoiled GR脂肪抑制像
3T 3D-GR法でも,肝臓,膵臓,筋肉での信号差は少ないが,
筋肉の信号はやや低い傾向が見られる。
図6 HCCにおけるGd-EOB-DTPA造影能
図6 HCCにおけるGd-EOB-DTPA造影能
3Tでは高分解画像でも良好なCNRを保ち,肝硬変での肝実質における不均一性も表現できている。小さな早期濃染の描出も可能(←)。

●T2強調画像
上腹部で使用されるT2強調画像は,高速スピンエコー(FSE)法とシングルショット高速スピンエコー(FASE)法を用いる。1.5Tと3Tでは,T2値での緩和時間に差がないため1),3TではT1値の延長があるものの,TR/TEを1.5Tよりも長くすることで,同程度のT2強調画像の取得が期待できる。
3Tではノイズの多さからFASEを使いたくなるが,図7のHCC症例のように,FASEのコントラストが十分でない場合もある。逆に,肝嚢胞と肝血管腫のように,FSEでは信号差が少なく,FASEでは嚢胞が著明な高信号を示す場合もあり(図8),現状ではFSEとFASEの両方の撮像が望ましいと考える。
膵臓領域の適応として,膵頭部がんの症例を示す(図9)。実質性膵がんではFSEとFASEの差は少ないものの,FASEの方がブレが少なく主膵管の観察が容易であることから,膵疾患の場合は,FASEの方が診断能は高いと考えられる。また,FASEのMRCPは,1.5Tと3Tとの間に明らかなコントラストの差は見られない。

図7 早期濃染するHCC症例
図7 早期濃染するHCC症例
FASEでの腫瘍コントラストは,FSEよりも 不明瞭である。
図8 肝嚢胞と肝血管腫のT2強調画像
図8 肝嚢胞と肝血管腫のT2強調画像
肝嚢胞と肝血管腫は,FSEでは信号差が少なく,
FASEでは嚢胞が著明な高信号を示す。
図9 膵頭部膵がんの症例
図9 膵頭部膵がんの症例
実質性膵がんではFSEとFASEの差は少ない傾向が見られ,検証が必要である。FASEの方がブレが少なく,主膵管の観察も容易である。
 

●拡散強調画像
3Tの拡散強調画像でも,多くの病変が高信号で描出されるが,1.5Tと比べ病変以外の部分の信号が残りやすく,現時点で適切なb値の提示は難しい。また,強い歪みを呈することもあり,今後さらなる検討が必要と考えられる。

3T MRIの高分解能の特徴

図10 HCC症例:Gd-EOB肝細胞相の高分解能画像
図10 HCC症例:Gd-EOB肝細胞相の高分解能画像
3Tでは腫瘍辺縁が明瞭に描出されている。

3Tでは,0.6mm×0.6mm×2.0mmのボクセルサイズで,非常に高分解能の画像を得ることができ(図10),造影画像や,MRCPでも高精細に描出可能である。一方,画像枚数が膨大になるため,ルーチン化にあたって読影時間やPACS容量が問題となり,これらをどのように克服し臨床応用していくかが今後の課題と言える。
高いSNRに基づくCT並みの高分解能が得られるようになれば,正確な解剖学的情報を要する膵がんの進展診断などにも応用されると考えられるが,今後の検証は必要である。

非造影MRA

非造影MRAは,上腹部領域において多用されるようになっている。総胆管,胆道系,肝静脈,門脈などがきれいに撮れるtrueSSFPの3D画像は,非常に有用だと感じている。今後,Time-SLIPと組み合わせることにより,さらなる応用が期待できる。

まとめ

上腹部領域における3T MRIは,拡散強調画像,非造影MRAなどに改良の余地があるものの,Multi-phase Transmissionの登場により,ごく普通に検査が行えるようになった。高分解能画像をどのように臨床応用していくかが,今後の検証課題である。

●参考文献
1) de Bazelaire, C.M.J., et al.:MR Imaging Relaxation Times of Abdominal and Pelvic Tissues Measured in Vivo at 3.0 T ; Preliminary Results.Radiology, 230, 652〜639, 2004.

Seminar Report一覧へ

▲ページトップへ